70.緑のおじさん、詫びる

「どういうつもりですか!? ヒロさん!」


 イナワシロコ周辺の宿にて、ターゲットに返り討ちにされたウルトマとパンマは不平を漏らす。


 ウルトマは計画とは真逆の行動を取り、ターゲットを狙わない……どころか自身に攻撃を加えてきた男を問い詰める。


「いやいや、悪かったって」


 ヒロは頭を掻きながらそんなことを言う。


 一方、ネコマルは興味なさそうに持ち込みの炬燵でみかんを食べている。


「ヒロさんとネコさんが加勢してくれれば4対2で数的優位……いかに相手があのシゲサトと言えど確実に仕留められたはずです!」


「そうかもねぇ……」


「そうかもねぇ……って……!」


 とぼける様な態度のヒロにウルトマは苛立ちを向ける。


「まぁまぁ、そんなにカッカしないで……でさ、君、誰に倒されたんだっけ? そのターゲットのシゲサトだかだっけ?」


「えっ?」


 ウルトマは不意にそんなことを言われ、ふと当時のことを想起する。


 そして、思う。そう言えば、俺は誰に倒されたのだろう?


 シゲサトではない。ソロで行動していると噂されていたシゲサトと一緒にいた……謎のおじさんだ。

 プレイヤー名すらわからない。


「そ、それは……」


 ウルトマは、その事実を突きつけられ、自身を不甲斐なく思う。


「いや、ウルトマくん、責めてはいないよ」


「え?」


 ヒロの想定外の反応にウルトマは虚を突かれたような表情を見せる。

 一方、ヒロは淡々と話を続ける。


「実は今回、計画を変更したのは彼の存在が関係しているのさ」


「どういうことでしょう……」


「一言で言えば、彼に興味が湧いてしまってね。ここで仕留めるのは勿体ないと思ってしまったんだ」


「なんと」


「彼からは何となく僕と同じ臭いがする……」


 ヒロは遠くを見つめるようにして、そんなことを言う。


「加齢臭のことですか?」


 これまで黙っていたパンマが突如、口を挟む。


「……」


 ヒロは無言で真顔になる。


「あ、えーと、ヒロさん、そ、それはつまり、そいつをスカウトしようと言うことでしょうかね?」


 ウルトマが相方の失態を取り繕り、アイシクル・ダンジョンのように凍りついた空気を元に戻そうとする。


「…………まぁ、平たく言えばそんなところさ」


「な、なるほど」


「ただ、普通にスカウトするだけでは不十分かもしれない……そうだね……彼はしっかり純然たる正義に染めてあげないとね……」


「…………あ、はい……」


 今度はパンマが反応に困るように真顔になる。


「……」


 ウルトマは恐いもの知らずの相方に少々、胃が痛くなる。


「あー、でも私の顔、見られちゃいましたね」


 パンマは能天気にそんなことを言う。


「あー、確かにそうだな……となると、新しい着ぐるみに住み替えるしかなさそうだな」


 普通の人間の姿をしているパンマに対し、ウルトマが奇妙なことを言う。


「あー、そうだよねー、仕方ないなー、この顔、結構、気に入ってたんだけどなー」


「しゃーないだろ。そう思ったら今度からマスクでもしとけ」


「えー、どうしよっかなー、それじゃーえーと……このヒーラーのズケって人にしよっかな。うん! 実はヒーラー一回やってみたかったんだよねー」


 そう言うと、パンマは背中の付いていたファスナーを降ろす。


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