65.おじさん、氷樹林のお散歩

「ターゲットはナイスクリームでいいのかな?」


 アイシクル・ダンジョンに足を踏み入れるとヒロが確認してくる。


「そうです、そいつのテイムです」


 シゲサトが答える。


「なるほどなるほど」


 付いてくると言っても、パーティは分かれたままだ。


 ジサン、シゲサト、サラの三名とヒロとネコ耳の少女の二名は別パーティである。


「ところで君達ってどういった方々なのでしょうか?」


 シゲサトが今更ながら尋ねる。


 ジサンはてっきり彼らは有名であり、シゲサトは知っていたのだと思っていたので少し驚き、そして少し安心する。


「おっと、知らないですか……これでもまぁまぁ有名になってきていると思っていたのですが……」


 ヒロは苦笑いするように言う。


「す、すみません……」


「私は自治部隊エクセレント・プレイスのヒロというものです」


「あ……噂の自治部隊さんですか」


「それでこっちは……」


 ヒロは傍らにいるネコ耳の少女に視線を送る。


「ニャンコと呼んでくれニャ」


 ネコ耳少女はそんなことを言いながら招き猫のようなポーズを取る。


 この少女はすっかり猫になりきっているなぁ……と思うジサンであった。


 上背はサラと同じくらいであった。

 しかし、サラの方は全体的にぽにょぽにょと柔らかそうな体型をしているが、ニャンコはどちらかというとスレンダーで身体のラインに余り起伏がない。


「まぁ、付いていくと言っても邪魔はしませんので、私達のことは気にせず、ご自由に行動ください」


「いや、付いてくるだけで結構、気になるんだけどなぁ」


「あはは。確かに……まぁ、そこは許してくださいよ」


 ヒロはまた苦笑い気味に言う。


「わかりましたよー」


 シゲサトは不満そうに少し唇を尖らせながらも納得する。



 ◇



 冬の薄い空気。吐く息は白い。


 寒くとも湿度があるせいかどこか温もりのある寒さだ。


 イナワシロコ・アイシクル・ダンジョンには美しい氷の樹木林が続いていた。


 ジサンらは両脇に木々の生い茂る雪道を歩いていく。


「マスター……! 氷柱みたいな木がいっぱいだよー! あれで剣を作りましょう!」


「そうだな……」


 サラが嬉しそうにありのままの風景を伝えてくれる。


(……)


 色彩の少ない世界、幻想的な中にどこか物寂しさを覚え、ジサンは何となく茫然としてしまう。


 と。


「く・ら・え!」


「ひゃんっ!?」


「ん……?」


 どうやらシゲサトが背後から忍び寄り、氷の塊をはしゃぐサラのほっぺに宛がったようだ。


 サラは変な声をあげ、元々大きな目を更に大きく見開き、びくっと身体を縦に揺らす。


「あははは、サラちゃんかわいい……!」


「主……やってくれるではないか……退場の覚悟はできておるのか?」


 サラはムッとした表情を見せる。


「ごめんよ……でもやっぱりこれが氷柱の正しい楽しみ方だよね」


「そ、そうなのか……?」


「そうそう!」


「……アーカイブにはそんなものないようだが……」


 サラは腑に落ちない表情をしている。


「へ?」


「い、いや……何でもないよ!」


 今度は慌てて誤魔化す。


「ならば今度は我の番だ……! しぬがよい」


 サラがボキッと折った巨大な氷柱をシゲサトに向ける。


「ちょっ! ころすのはやめてぇ……!」


「覚悟ーー!」


「うわぁああ…………あははは!」


 サラとシゲサトはわいのわいのと雪の中を元気に走り回る。


「うむうむ、若いっていいねえ……」


 とか何とか言って、穏やかな笑みを浮かべる緑のおじさんはなぜかスキー付きの炬燵こたつを引いて歩いている。


(……)


 恐らくニャンコはその中だろう。


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