63.おじさん、修羅場?
「あ、待ってましたよ! オーナー……って、そちらは……」
1Fエレベーターホールではシゲサトがジサンのことを待っていた。
そしてジサンとサラ以外のメンバーがいることに気付く。
逆にツキハらもジサンが待ち合わせしていた人物を視認する。
「あれ……どこかで……」
シゲサトとツキハが共に何かを思い出そうと眉間にシワを寄せている。
「シゲサト……さん!?」
「月丸隊!?」
互いにボス討伐メンバーとして公開されている写真と目の前の人物の顔の整合性が取れたようだ。
◇
「こちらこそ初めまして。シゲサトって言います」
それぞれが適当に挨拶を済ませる。
「それにしてもジサンさんの待たせている人って、シゲサトさんだったんだ」
ツキハが言う。
「あ、はい……シゲサトさんはここの98Fのオーナーでして……」
「へぇ~」
「今は仙女の釣竿を目指し、共に行動しています……」
「な、なるほどなるほど~」
ツキハは少々、引きつったような笑顔を見せる。
ツキハはシゲサトを一目見た時から、シゲサトを女であると認識したのであった。
ツキハから見ると、ジサンが新たなる女の子と共に行動しているわけであり、気が気でなかった。
「月丸隊の方々にお会いできるなんて光栄です!」
一方のシゲサトはひょうひょうとしたものだ。精神的シゲサトから見れば、ジサンは単なる同性の人生の先輩的なおじさんである。
「エデンをソロで倒した貴方も相当だと思うけど……」
「いえ! やはり元祖の四魔王討伐の2パーティは格が違うと思います……!」
「え? えへへ……そうかしら……」
ツキハは満更でもなさそうだ。
「あ、そういえばツキハさん達は今は何をしているのでしょう?」
「あ、はい……!」
ジサンに訊かれて、ツキハはちょっと驚く。
「えーと、今はとりあえず魔帝は狙っていません。私達にとってはそれほど魅力的な報酬もないので……」
「なるほど……」
「それで何をしているかと言うと、当面のターゲットは大規模DMZの大魔王:ルイスレス……そして、大魔王:ネコマルかな……」
(人々のために……)
この人達もブレないなぁと思うジサンであった。
そして……
「月丸隊さんもネコマルを狙っているんですね……」
(あ……)
シゲサトの目標もネコマルであることを思い出す。
(……やばい……! 修羅場か……!)
「実は俺も狙っているんです!」
「っ……!? え……!?」
ツキハは嘘でしょ? とでも言うようにとても驚く。
「あ……えーと……」
シゲサトはその反応に悪いことをしたかのように顔を曇らせる。
だが、ツキハが驚いたのはシゲサトの一人称が”俺”であったことであった。
つまり……男の子!!
「そ、そうなんですね! 互いに頑張りましょう! こちらもネコマルの討伐は誰が達成してもいいと思っているし!」
ツキハの表情は明るい。
「はい……!」
シゲサトも可愛らしくニコリと微笑む。
◇
「そういえば、偶然こんなものを手に入れたのでジサンさんにあげます」
一通り話を終え、そろそろ解散という流れになった別れ際にツキハがジサンに何かをくれる提案をする。
それは”黄金の釣餌”というものであった。
「え!? こんな良いものいいんですか!?」
ジサンは非常にいい反応を示す。
「あ……はい……ジサンさん……喜ぶかなって……偶々、入手したんですけど……私達……釣竿持っていないし……」
ツキハはそのジサンの想定以上の反応に少しタジタジになる。
「有難うございます……! え、えーと、それでは代わりに……」
ジサンは代わりにディクロの報酬であった”誘引石”という魔具をツキハに渡す。
「え!? これ……貰っちゃっていいんですか?」
「え!? マスター……! いいんですか?」
サラも驚くように言う。
「いいんです……私は使わなそうなものなので」
「…………」
ツキハはその効果を見つめている。
「あ、あの……これ……ジサンさんに使っても……?」
「勿論です。いざとなったらいつでもお使いください」
「……! ~~~……!」
(……?)
ツキハは赤面し、何もない右下の床を見つめている。
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