59.おじさん、気まずい

 クエスト斡旋所にて。


「オ疲レ様デシタ」


「あ、どうも……これ双眼鏡です」


「ゴ返却アリガトウゴザイマス。ソレニシテモ随分トオ疲レノゴ様子デスネ」


「え? そ、そうですか? まぁ、大変でしたから……」


 NVCさんの問いかけにシゲサトが目を泳がせながら返答する。


 二羽目のシクイドリが出現するまでに要した時間……実に五時間……


 そこから魔騎士ペールの討伐まで二時間。


 なかなかの長期戦であった。


 シクイドリの終盤ではほとんど全員無言となっていた。

 だが、シゲサトは文句一つ言わずに双眼鏡を覗いていた。

 コレクターの性分というものをちゃんと理解しているのだろう。


 なお、ジサンは無事にシクイドリをテイムできて、ほっこりしていた。



 ◇



「大変ではありましたが、無事、カスミガウラでのミッションは達成です!」


 双眼鏡の返却を終え、ジサンらは斡旋所の入り口付近にて立ち話する。


「今日はもう遅いですし……オーナーはこの辺で宿を探しますか?」


「そうですね……」


「ちなみに俺は実はこの辺に実家がありまして……たまにはそっちに顔を……」



「あれ? もしかして……シゲサト?」



(……ん?)


 ジサンらが振り返ると、赤い装備に身を包んだ男女の二人組がいた。


「あ……えーと、グロウくんにアンちゃん……」


 シゲサトは彼らのことを知っているのか、プレイヤー名を口にする。


「シゲサト……帰って来ていたんだな……しかし、お前、有名人だな……まさか本当に魔王を……しかも一人で討伐しちまうなんてよ……」


「そ、そうかな……」


 シゲサトは幾分、いつもより歯切れが悪い。


「あ、えーと、そちらは?」


 グロウがジサンらの方を見て、聞いてくる。


「あ、えーと、今、パーティを組んでもらっているオー……ジサンさんです。あとこっちはサラちゃんです。テイム仲間として意気投合してね……」


 シゲサトが二人を簡単に紹介する。

 グロウは地味なおじさんと褐色少女の異色のペアを怪しく感じたのか、幾分、訝しげにジサンの方を見ている。

 一方、女性の方、アンはジサンらには興味がないのか、グロウの方をじっと見ていた。


「えーとね、この二人はグロウくんとアンちゃん、同級生だったんだ……」


 グロウは短髪で比較的、顔が整った……多少、気難しそうではあるが好青年だ。

 アンは割と長めの髪で眼鏡を掛けている。ジサンは物静かな印象を受けた。


「えーと、今は……」


「自治部隊”P・Ower”のメンバーです」


 ジサンはやっぱりなと思う。赤の装備はP・Owerの特徴である。


 ジサンはエクセレント・ワールドの緑のおじさんに職質をされた苦い経験から自治部隊にあまり良い印象を抱いてはいなかった。


「ところでシゲサト、こんなところで何してるんだ?」


「あ、えーと……」


「今時、こんなところにいるってことは、もしかして……仙女の釣竿か……?」


「あ、いや……えーと……」


「全く……相変わらずだな……」


「あはは」


 シゲサトは笑って誤魔化す。


「ところでよ……前も言ったが、P・Owerに入らないか?」


「「え!?」」


 シゲサト、そしてアンが同時に声を発する。

 ジサンはこの時、アンの声を初めて聞いた。


「魔王をソロ討伐したシゲサトならすぐに幹部になれると思う。俺もこの地区なら顔もきく。推薦できるはずだ……」


「…………せっかくだけど、遠慮しておくよ。グロウくんがそうだったように……俺にはやりたいことがあるから……」


「…………そうか……あの時は断って悪かったな……本当に成し遂げるなんて……」


「……いや、断ったのはこっちも一緒だから……」


 シゲサトは気まずそうにしている。


「しかし、シゲサト……お前まだ……”俺”なんて言ってるのか……?」


「!?」


 シゲサトは誰とも目が合わない場所へ目を逸らす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る