57.おじさん、バードウォッチング
「オーナー……シクイドリ……なかなか来ないですね」
「そうだな……」
「マスター……退屈です……」
「そうだな……」
「がぅ……」
「ヴォ」
「そうだな……」
「「「「「…………」」」」」
三名+二匹、パーティ名”マスターとサラ、他”は今、カスミガウラ・ミズウミダンジョンにて、ターゲット:シクイドリのバードウォッチングクエストに挑戦していた。
◇
少し時を遡る。
「リバドに挑戦するには”ホンシュウ三湖ダンジョンにて指定されたモンスターをテイム”する必要があるようです」
「そうですね」
それ自体はボスリストの詳細メニューから確認することができた。
「ホンシュウ三湖は、ビワコ、カスミガウラ、イナワシロコの三つです」
シゲサトは指を三本立てながら言う。
「なるほど」
「それじゃあ、オーナー! とりあえずカスミガウラでも行ってみますか」
「そうしましょう」
◇
シゲサトが調べた情報によると、カスミガウラでのターゲットであるシクイドリはバードウォッチングクエストでしか出現しないらしい。
バードウォッチングクエストとは、警戒心が非常に高く設定されたモンスターを特別な双眼鏡で姿を捕捉することでエンカウント可能となる仕様であった。
本来のターゲット魔騎士”ルーペ”のクエストをクエスト斡旋所で受注すると、NVCさんから双眼鏡を渡される。魔騎士”ルーペ”は決まった場所にいるため、すぐに討伐できるが、双眼鏡を使用することで一部のレアモンスターをテイムできるという仕組みになっていた。
そのため、ジサンらは三時間ほど前からずっと双眼鏡を覗いているのだが、なかなかシクイドリを捉えることができずにいた。
サラは飽きてしまったのかピュア・ドラゴンの背中でうつ伏せになって伸びている。
「オーナーは……どうしてモンスターを集めているんですか?」
(……お?)
ジサンも流石に飽きてきたなと感じ始めた頃、シゲサトが世間話を持ち掛けてきた。
(……どうして……か……)
ジサンはあまり真剣に考えたことがなかった。
敢えて言うなら偶然、テイム武器を手に入れたのが始まりだろう。
だが、その後、のめり込んだのには何かしら理由があるのかもしれない。
「……あまり考えたことなかったですね……」
「そうですか……」
「「…………」」
ジサンの嘘ではないが会話の発展性のない返事に話が途切れてしまう。
ここでジサンは多少の成長を見せる。
(……聞き返してみるか)
「シゲサトくんはどうしてですか?」
「えっ……!? えーと、そうですね……仲間が欲しかったからかもしれないですね……」
「……仲間ですか。なるほど……」
ジサンは納得する。
だが、それでは会話は終了してしまう。
幸い、今度はシゲサトが聞き返してくる。
「オーナーはニホンの外がどうなっているのか……って気になりませんか?」
「え……そうですね……は多少、気になりますけど……」
「俺はとても気になっています。オーナーはこのゲームが始まったとき何をしていましたか?」
「え……!? えーと……恥ずかしながら安楽死の方を……」
「え!? 方をってなんですか……!」
「あ、あまり気にしないでください……」
「い、いや、気にな……」
気になると言い掛けて、シゲサトは思う。こういうデリケートなことは深追いしない方がいいか。
「まぁ、今はその気はないですよ」
ジサンは慌てて補足する。
「よかった……ちょっと驚きましたが……えーと、俺の話をすると……実は海外へ渡航する飛行機の中でした」
「ほ……」
「俺、ずっと海外に行きたくて……それでやっと行けることになったのに……」
「そうでしたか……それは災難でしたね」
(……あの世へ渡航していた俺とは大違いだ……)
「だから! 話は戻りますが、ゲームを攻略……つまり魔王討伐をしたかったのです! 交通手段の解放がボス攻略の報酬になっていたので、ゲームを攻略すればもしかしたら外の世界への扉が開くかもしれないって……」
「な、なるほど」
「ですが、残念ながら、そんなことを周りに言っても付いてきてくれる人はいませんでした。そんなの当たり前です。命懸けなのですから」
シゲサトは視線を逸らすように少し寂しげに言う。
「だから、誰でもいいから仲間が欲しかったのです。それがモンスターテイムのきっかけです」
「ヴォ……」
「きっかけはそんな弱さから来るものだったかもしれないですが、今は本当に彼らのことが大好きです」
「ヴォ……!」
シゲサトはヴォルちゃん(縮小版)の眉間を一撫でする。
ヴォルちゃん(縮小版)は嬉しそうに目を細めている。
「ですが、月丸隊さんやウォーター・キャットさんのおかげで自分は間違ってなかったんだって思えました」
「……?」
「今の目標は大魔王:ネコマルの討伐です! ネコマルの報酬は” 航空機”。説明によると海外エリアへの移動便の開通です。だから、奴を倒して、外の世界がどうなっているのか見てやりたいのです」
(ちゃんとした目標だなぁ……俺にはそんな目標……)
ジサンは感心する。
「ちなみに一度、遠くを見るためにドラゴンに乗って、可能な限り高くまで飛んでみたことがあるのです。チュウゴク大陸くらいは見えるかなぁと思い……」
「お……その発想はありませんでした。どうでしたか……?」
「何も……」
「え……?」
「何もありませんでした」
「!?」
「ニホンの外側は海上のあるところを境に完全に遮断されています。その先は暗闇です。本当に”海外エリア”なんてものがあるのかも怪しいものです」
シゲサトは真顔でそんなことを言う。
「……そうなんですね」
ジサンは外の世界に行きたいなどと考えたことはなかったが、その話を聞いて多少なりとも未知への探究心が沸いた。
(……外の世界には新しいモンスターがいるのかなぁ……)
「ってあれ!? オーナー……!」
「ん……?」
「し、シクイドリです!」
(お……!?)
慌てて双眼鏡を覗き込むと白く美しい鳥が一羽、映り込んでいた。
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