44.おじさん、血迷う

(茂木さん……)


「小嶋ぁ……! ちょうどいいところに来たわねぇ!」


「え……?」


 ジサンはサイカの熱烈な歓迎に戸惑う。


「今、私達は魔王:アルヴァロを討伐した。なぜ命を懸けてまで、そんなことしたか分かる?」


(……えーと)


「あんたに仕返しするためよ!!」


(マジか……)


「よくもこの私をコケにしてくれたわね……!」


(呪殺譜で俺を……? そ、そこまで恨まれるようなことしただろうか……)


「ま、マスター……」

「ジサンさんが……やばい……の?」


 サラとツキハが明らかに焦燥している。


「えーと、MVPは……」


「俺だ……」


「さぁ、ライ、呪殺譜を私に……!」




「何で?」




「……え? 今、何て……?」


「おいおい、聞こえなかったのか? 何で? と言ったんだ」


「え? えーと……だから、こいつに仕返しするために……」


「うん、何で俺がそんなくだらないことに協力しなくちゃいけないんだ?」


「え……」


「俺はこの呪殺譜をってクランの頂点に立つ……」


「そ、そんな……アキトモ……! グ…………っ!?」


 二人はニヤニヤとサイカを見つめている。


「ライ……俺達もちゃんとナンバー2にしてくれよ?」


「あぁ……勿論だ……」


「まさか……最初から……」


「そうだよ……! 今更気づいたか? 処・女・お・ば・さ・ん……何で俺達がおばさんの粘着に付き合わなきゃいけねえんだよ!?」


「っっ!?」


 サイカは血の気が引くような表情をしている。


「やばい奴らに渡ってしまったのは否定できないけど、どうやら内輪揉めしてくれているみたいね。クラン内での権力争いに使用するということなら差し当たっての脅威は回避したってことで大丈夫かしら……」


 ツキハが現状を分析する。


「悔しいけど、相手が切り札を持っている以上、ここは一旦、引くしかないわね」


 チユがそう言うと、ツキハは少し戸惑いつつも諦めたように扉に向けて歩き出す。




「このクソ野郎っ!! 騙したわね!!」


「あっ? 口の聞き方には気をつけた方がいいぞ? 処女おばさん……」


「っ……! 黙れ! 腐れ野郎っ!!」


「あ゛ぁ!?」


「きゃあああ゛あああ!」


(……)


 サイカが押し倒され、ライが馬乗りになっている。


「どうやら調教が必要なようだ……」


「え……!?」


「少々、熟してはいるが素材は悪くない……」


「え? え!? 何!?」


「ウエノで出来なかった実験を再検証しようかと……」


「……っ!」


「勇者が純真無垢でなくなったら、どうなるんだろうねぇ? おい、グル、撮影だ」


「うそっ……!?」


「ライ……流石にそれはゲスいな…………任せろ! 最高画質でな!」


「はは! いいね! ただ、美肌補正はかけてやれ」


 サイカはライの行為を侮蔑するようなことを言いながら支援するようなことを言うグルに狂気を感じる。


 人は集団になると、自制が効かなくなるのかもしれない。


 ツキハ達は複雑な表情を浮かべつつも関わらないことにしたのか去っていく。


 メンバー内で、最も正義感の強いのはツキハであったが、この件については"自業自得だ"と感じるのは致し方なかった。


「喜べよ? 果たせぬと諦めていたものを俺が今、果たさせてやるんだからよ?」


「っ……!?」


「さて……」


「いや…………」


 ライの手がサイカへと向かう。

 サイカは大粒の涙を流す。


「……助けて……」


(……)


 サイカが消え入るような声で呟く……


「助けて……って、お前、そりゃあ流石に虫がいいだろ!? さっきまで殺そうとしてた連中によぉ……!」


「……殺すつもりなんてっ!」


「はっ!? 誰が信じるかよ!? 俺ですらその言い訳は見苦しく感じるぜ?」


「っ……!」


 サイカは論破される。


 信じてもらえるはずがないが殺す気なんてなかった。


 あの時、せっかく未遂で済んだものを今更、殺そうとなんて思っていない……

 ただ、あの時された私への”興味を完全に失った目”をどんな形であっても変えたかっただけなんだ。



 これはきっと"罰"だ……



『なぁ! 彩香!? あれって罰ゲームだよな?』



 サイカの頭の中をなぜか学生時代の出来事がよぎる。


 どうしてこんな時に……


「スキル:蔓拘束」


 クラス:森人のアキトモによる拘束スキルでサイカは抵抗手段を失う。


「卑怯者っ!! このチキン野郎!!」


 その罵声で、ライの動きが止まる。


「……っ」


「……あーあ……今ので、ぷっつんきちまった……俺は臆病者と蔑まれるのが世界で二番目に嫌いなんだよ」


「えっ……?」


「遊ぶだけにしようと思っていたが……ボコボコにすることにした」


 そう言うと、ライは黒刀を取り出す。


「っ……」


 だが、サイカにとってはむしろそれでよかった。


 はずかしめを受けるくらいなら……


 ライは容赦なく、サイカへ斬撃を浴びせる。


「きゃぁあああああ!」


 魔王戦ですでに減少していたサイカのHPは短時間で残り僅かとなる。



 ◇



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 253 名無しさん  ID:pssjitaa

 キルウェポン使ってる奴らいるっぽい


 276 名無しさん  ID:la9ajga0

 ウエノ周辺が特にやばいらしい

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 いつだったか掲示板で見た書き込みだ。


 ウエノクリーチャーパークでの自身が受けたリリース・リバティによる襲撃。


 エクセレント・プレイス”ヒロ”からもたらされたウエノでの殺人事件の件。



 それらの情報から導かれる少し先の未来――



 それはサイカの死。



 こんなどうしようもない女、見捨てればいいのに……



 <罰ゲームだよ? ごめんね……でも普通、気づくよね?>



 俺の願望だったかもしれないけど、声が震えていたんだ……


 あの時、”そんなの嘘だよな”と言えていれば……



 <……私がいるよ……>



 と、たった一言で俺を拾い上げてくれたあいつのように……



 ◇



「あのー……やめてあげた方がよくないですか?」


「…………っ!?」


 サイカの耳に自信なさげな同窓生の声が確かに聞こえた。


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