43.淑女さん、歪んだ努力

「は? アルヴァロを倒したい?」


 茂木彩香【サイカ】はリリース・リバティのメンバーに相談を持ち掛けていた。


 ウエノクリーチャーパークでツキハを殴打したバンダナの男。

 アサシンの"ライ"である。


 サイカらはもう少しで最高幹部になれる……逆に言えばもう一歩で最高幹部になれない……所謂いわゆる、Bチームであった。


「んな、馬鹿な……相手は魔王だぞ? 魔王戦は逃走不可だと聞いた。下手したら死ぬぞ?」


「それは分かってるけど……あんた、悔しくないの? あんな風に負かされて! 私は絶対、報酬の呪殺譜であの男に仕返しをしたいの!」


「そりゃ、むかつくのは確かだが……」


「魔王を倒せば一気に最高幹部になれるかもしれないわよ……」


 サイカの囁きにライはぴくりと反応する。


「なるほど……ん……? ちょっと待てよ……」


「ん? どうしたの?」


「いや……確かに……そんなに言うなら仕方ない……」


「やってくれるの!?」


「あぁ……確かに一気に階段を駆け上がるには悪くない話かもしれない…………それに……長い付き合いだろ?」


「ライ……」


「流石に二人では厳しい。アキトモとグルも誘おう」


「そうね……! 助かるわ……! 私も……プライドを捨てて……クラスチェンジするわ……」


「プライド? さて……どんなクラスになるのやら……」


「それは後で!」


「わかったわかった……! しかし、肝心のアルヴァロはどこにいるんだ?」


「うーん、それはまだ……ただ、私にちょっと……いい考えがあるわ……」



 ◇



「ねぇ……ヒロさん……わたし……ドキドキするの……」


 艶のある声が二人きりの個室に響く。


「えっ? あっ……はい……小官もであります!」


 高級そうなソファで、サイカは緑のおじさんにびたりと寄り添い、胸の辺りを人差し指でクルクルとなじる。


「ねぇー、ヒロさん……自治部隊ってすごい情報網を持っているって聞いたけど……」


「自治部隊3チームの提携により、情報ネットワークは非常に洗練されています!」


「ねぇ……魔王……の情報、持ってたりするの……?」


「え? それは…………」


「ねぇ…………ヒ・ロ・さ・ん……」


 サイカはヒロの耳をかぷりと甘噛みする。


「っっっ……!!」



 ◇



「やった……! 手に入れたわ……! あの正義おっさん、ちょっと突いただけで、簡単に口を割ったわ」


「あはははは! これだからウブなおっさんはかわいいねぇ……!」


 ライは高笑いする。そして、確認する。


「しかし……覚悟はいいのか?」


「月丸隊が次々に魔王を討伐している……急がなきゃ取られるぞ」

「それにこの匿名のアングラ・ナイトってもしかして……」


 アーク・ヒーラーのグル、森人のアキトモがそれぞれ言う。


 確信があったわけではない。


 だが、サイカは断定する。


「小嶋…………!」



 ◇



「くそぉ……! やられる……!」


「畜生がぁああ!」


 やばい……やばいやばいやばい!


 サイカは焦っていた。


 魔王:アルヴァロとの戦い。


 中盤までは何とか乗り越えてきた。終盤になり、ボスのパターンが変わった。


 不運もあり、パーティの回復の要、アーク・ヒーラーのグルが瀕死となっている。


 このままじゃ全員死ぬ……!


 あいつらはこんな修羅場をくぐり抜けて来たって言うの?


「諦めるんじゃねえ! 奴らに一泡吹かせるんだろ!? ここで死んだら全部水の泡だ!」


「っ!?」


 ライが鼓舞する。


 サイカの目にも力がこもる。


 そうだ……諦めちゃダメ……どうしようもない奴らだけど……やっと確保した居場所なのだから……


「スキル:デス・ディフュージョン……」


 それでもアルヴァロが攻撃の手を緩めてくれるわけではない……


 グルを一撃で仕留めた光弾。


 弾数は多くないが恐らく被弾すれば即瀕死。


「くっ……」


 無情にも弾はサイカのところに集まってくる。


 もう少し……もう少しで次スキル発動のインターバルが終わるのに……アタッカーの私が倒れたら……


「もうダメ……」


「うぉおおおお!」


「アキトモ!?」


「ライ、サイカ! 後は頼んだ……! 決めてやれ……! ぐわぁああああ!」


 サイカを庇うように光弾を被弾した森人のアキトモが倒れる。


「いくぞ、サイカ! インターバルは終わったか!?」


「うん……!」


「よし…………!」


「スキル:ブレイヴ・ソード!」

「スキル:静殺刀……」


 勇者の剣から放たれる激しい閃光、アサシンの静かなる斬撃がアルヴァロに直撃する。



 ◇



 ファンファーレが鳴り響く。


「はぁ……はぁ……やった………やったの……?」


「あぁ……」


 やった……成し遂げた……


 やっと……やっと……あいつに仕返しできる……


「メガ・ヒール」

「やったな、ライ」


 瀕死から復帰したグルが回復魔法をかけ、アキトモらも健闘を讃えている。



 その時、ボス部屋の扉が開く。



 なんて……なんて幸運なのか……



 復讐を誓った……私に”呪い”をかけたその人物がノコノコとやってきたではないか……


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