45.淑女さん、流される

 <罰ゲームだよ? ごめんね……でも普通、気づくよね?>


 自らが発したこの言葉がサイカの人生にある種の”呪い”をかけた。


 きっかけは確かに罰ゲームだった。


 罰ゲームでクラスNo.1の冴えない地味男子に告白した。


 その時点で悪質な行為ではあったが、断りきれなかった。


 しかし……


 鼓動が高鳴るようなときめきはない、張り裂けるような切なさもない。


 それでもどこか心休まる温もりがあった。


 恋愛感情なのかはわからなかったが、好意を抱きつつあるのは自分でもわかっていた。


 それなのに……


『なぁ! 彩香!? あれって罰ゲームだよな?』


「え……? あの……じ、実は……」


『え!? なんか……ちょっとマジになってない?』

『うそでしょ!? あの小嶋に!? ウケるんですけど!』


「ちょ……ちょっと止めてよ……そ、そんなわけ……ないじゃん……」


 素直になれなかった。


 いや、それ以上に流された。


 彼との関係を茶化したグループのメンバーがその後、告白してきた。

 心の隙間を埋めるように付き合ったが、すぐに別れた。

 それ以来、誰も異性として見れなくなった。


 不整合な心を守るため、自分はあいつに無茶苦茶にされた、だからあいつを憎んでいるのだと自己暗示をかけた。


 そしてそれからは……流されて流されて、ずっと流され続ける人生だった。


 階級ヒエラルキーの高い位置に居続けた。

 だが、そこに居続けるために周りに合わせ、周りがすることをした。


 周りがやっているからが許されるものばかりではない。

 だが、人間とは弱いものだ。


 連鎖反応。それだけで罪悪感は薄まり、時に免罪符になり得る。


 急いでいるから赤信号を渡ってしまえ。あの人も渡っているし……


 そんな些細な感情が次第にエスカレートする。

 いつしか越えてはいけないボーダーを越えてしまう。

 そこから先は歯止めが効かなくなる。


 リリース・リバティも最初はこんなクランじゃなかった。

 純粋にゲームを攻略するために立ち上げられたクランだったはずだ。


 しかし、クランが小悪党の集団となれば、彼女もその一部となってしまう。


 自身の地位を守るため、他人と歩調を合わせる。

 ずっとそうやって生きてきた。そういう生き方しかできなくなっていた。


 いつしかプライドだけが高い最低な人間に成り下がっていた。



 ◇◇◇



「あのー……やめてあげた方がよくないですか?」


「あ゛? …………」


 ライは一度は聞こえたような素振りを見せたが、無視するようにもう一度、サイカを切りつける。


「きゃぁああああ」


(っ……)


 そして、もう一度……


「!?」


 金属がぶつかり合うような甲高い音がドーム状の部屋に響く。


「マスター!!」

「ジサンさん!!」


 気付けばジサンはライとサイカの間に割り込んでいた。


「てめぇ……」


 それが危険、いや無謀に近いことはジサンも承知していた。


 故に、ジサンは瞬時にライを仕留めようとする。


(スキル:陰剣……)


「っ!?」


 だが、他の二人が身を投げ出すように間に入り、ライを仕留め損なう。


「っ……!! ちくしょうがっ!! 舐めやがって!! 俺が何を持ってるかわかってんのかっ!? 俺はなぁ! 舐められるのがこの世で一番嫌いなんだよ!!」


 アサシンも非常にアジリティに富んだクラスであった。

 壁となった二人はHPがゼロになり、行動停止となるが、ライはその隙をついて距離を開ける。ライは出口の反対側に位置し、ボス部屋から去ろうとしていたジサン以外のメンバーも手が出せない。


「くそっ……計画が狂った……だが、調子に乗った正義おじさんを仕留められるなら仕方ない……」


 ライはニヤリと微笑む。


「えっ……まさか……ジサンさん!」

「ま、マスター……!!」


「っ……」


「魔具…………”呪殺譜”……」


 その一瞬でジサンは思う。


 恐くない。死んでもいい。


 別にいい。元々、死のうとしていたのだ。


 だけど、おかしい……


 ならばなぜ今、俺の頭の中は、あの山羊娘の笑顔で一杯なのだろうか……


「マスタぁあ……!! 死んじゃダメぇええ!!」


「っっっ」




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 [該当アドレス:2&jibg%l2i2]

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(え? …………はい?)



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