40.おじさん、誇り高き魔王を憐れむ
ジサンはウエノクリーチャーパークにて、”契りの剣TM”を入手した直後、すぐにマツシマイニシエダンジョンへと向かった。
そして、ディクロとの再会を果たし、見事勝利する。
故に、ジサンとサラはすでに魔王討伐を果たしていた。
隠し魔王の討伐時には、討伐パーティは公表されない。
これはサラの”秘匿度の高い攻略情報”には該当しないらしく、事前に確認可能であった。
ディクロはサラと違い、普通にモンスターBOXに入ってもらうことができた。
ディクロが打破され、隠し魔王としての役割を全うしたためであるとジサンは考えていた。
逆にサラは隠し大魔王として世界に存在し続けなければならなかったのだろう。
なお、魔物使役は四人パーティにおいて使用した場合、テイマー本人と使役モンスターがデバフ状態となる仕様となっている。
また、魔物使役はパーティ内で二名までの制限があり、モンスターを含めたメンバーが五名以下とならなければならない。
ジサンは勿論、デバフとなる仕様を知っていたが、実際に採用されるのはこれが初めてであった。
それでも使役しないよりかは遥かにアドバンテージがあるのは確かだ。
そもそも魔物使役を継承できるクラスは戦闘に優れない職業が多い。
そういった意味でアングラ・ナイトはやはり規格外であった。
◇
孤島に上陸する。
辺りは薄暗くなり、ドーム状のボス部屋に変化する。
その中央には、体長2メートルほどの人型が腕組みをして仁王立ちしている。
紫をベースとした武装に身を包み、坊主に近い短髪であるが、西洋風の濃いめの顔をしており、威厳がある。
「我は現存、最強の魔王:エスタ……汝らは高みを目指す者か?」
「そうよ……!」
ツキハが返答する。
「…………最強の魔王……ではあるが、どうやら胸を借りるのはこちらのようだな……」
「はいっ?」
ツキハはエスタの意図を汲み取れず、聞き返す。
「往くぞ……! 覇を競う者共よ……!」
しかし、エスタはそのまま戦闘態勢に入る。
エスタのHPゲージが充填される。
◇
「魔法:ヴィクトリー・ヴォヤージュ」
エスタの召喚魔法だ。
巨大な船が出現し、その砲台を挑戦者の前衛陣に向ける。
「来るわよ!」
ツキハが警告する。
と同時に、多数の黒い鉄塊が襲い掛かる。
ツキハ、ジサンはアジリティを駆使し、それを回避する。
「……小賢しい」
サラはそれが魔王であっても、いつものように回避行動を取らない。
「っ……!」
エスタはサラのその態度に焦りを浮かべている。
「魔法:リバース……」
サラが魔法を宣言すると、鉄塊はベクトルを反転させる。
「あら……助かったわ」
「我を利用するとはっ……!」
サラの後ろで悠々としているディクロに対し、サラが”ぐぬぬ”という表情を見せる。
一方で、向きを変えた鉄塊はそのまま船に戻っていく。
そして、大きな質量を伴い、次々に大船に衝突する。
砲弾を受ける大船は変形を繰り返し、次第に原型を失い、大破する。
「くっ……」
エスタはまるで子供のように扱われ、唇を噛み締める。
「す・き・る……ハート・ディフュージョン」
ディクロが独特な口調でスキルを宣言する。
ハート型の大量の光弾が拡散され、敵味方関係なく着弾する。
その際、味方には緑色のエフェクト、エスタには桃色のエフェクトが発生する。
「ちょ、何よ! これ!」
サラが抗議するように言う。
「精力剤♪」
[スキル・魔法の威力が上昇した]
[エスタは”虜”状態となった]
「旦那さま……行動制限の状態異常にございます。
「なるほど……心強いな」
「お褒めに預かり、光栄です」
「忌々しい……」
サラは少し不満気に頬を膨らませている。
(しかし、流石に大魔王と隠魔王相手では現存、最強の魔王とやらも荷が重いか……)
魔王:エスタが少々、可哀そうになるジサンであった。
「一気に畳み掛ける!」
「了解です……! マスター!」
「承知しました……旦那さま……」
◇
ファンファーレが鳴り響く。
[MVP報酬:”最強千”を入手しました]
ジサンのディスプレイにMVPの通知が届く。
(……)
追加で思わぬ報酬が表示される。
[精霊モンスター:”シード”を入手しました]
==========================
■シード ランクQ (ユニーク・シンボル)
レベル:90
HP:2000 MP:1000
AT:500 AG:500
魔法:マギ・シード、エヴァー・グリーン、メガ・ヒール
スキル:精霊の歌
特性:応援
==========================
「お……?」
(オリジンだ! 本当か? 確かにシードはコウベだったな……!)
ジサンは”最上位プレイヤー同等になれる”というチートアイテム”最強千”よりも追加報酬、オリジンの精霊モンスター”シード”の方に興奮していた。
「やった……倒した……!」
一方で、ツキハはほっとするように喜ぶ。
戦況としては終始、優勢であり、ほとんど窮地に陥ることはなかった。
それでも魔王戦というものは逃走不能……最後まで何が起こるかわからない。故にその緊張感は決して小さくはない。
「それにしてもジサンさん達、本当に強いです。正直、言って想像を超えていました」
「えぇ……正直、驚いたわ……」
ツキハ、チユがその活躍を讃えてくれる。
「そ、そうですかね……」
「今回の活躍からして、その
「あ、有難うございます……」
(読み方、
しかし、これを使ったら俺は最強のプレイヤー同等になってしまうのか……
ちょっと恐ろしくもあるな……と杞憂するジサンであった。
◇
「ありがとな……」
「旦那様……御用があれば、いつでもお呼びください……むしろ常に!」
「あ、あぁ……」
(……サラとギスギスするから本当に必要な時だけで……)
「話し相手の件は、継続で探しておく」
「感謝申し上げます……」
「ではな……」
「はい……」
ジサンはディクロを牧場に直結しているBOXに戻す。
◇
そして、しばらくすると魔王討伐メンバーが公開される。
◆2042年10月
魔王:エスタ
┗討伐パーティ<月丸隊>
┝ツキハ クラス:勇者
┝チユ クラス:ジェネラル・ヒーラー
┗匿名希望 クラス:アングラ・ナイト
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【あとがき】
恐れ入りますが、作者の別作品の宣伝です。
(前回もあとがきに書かせていただいたので、すでにお読みいただいた方は読み飛ばしていただければと思います。何度もすみません。)
『追放された器用貧乏、隠しボス部屋に放り込まれた結果、ボスと探索者狩り配信を始める。しかし追放した奴らの様子がおかしい。』
https://kakuyomu.jp/works/16817330659748108558
作者としては気に入っている作品の一つなので、お読みいただけると嬉しいです!
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