39.おじさん、最強のモンスター

「ぐぬぅうううううう……!」


ジサンが隣の船を見ると、ユウタが青ざめて腹を押さえ、うずくまっている。


(これは……)


「どうやらゲーム的シック疾患状態みたいで……こんなタイミングで……」


「なんと……」


AIのもたらした恩恵により従来型の病気は多くが克服された。


故に通常の疾患はいとも容易く完治することができる。


しかし、稀に一定の条件下でシック状態に陥るという。


シック状態は状態異常とは別に管理されており、一般的な状態異常回復アイテム等は無効である。


(……おっ……疾患名が表示されている…………”オークの呪い”?)


「ユウタ! 昨日、調子に乗って、オークカツ食べ過ぎたでしょ!!」


「うぅう゛う……否定できねえ……」


「オークの呪いって重篤なのかな……!? ユウタ……死ぬの……!?」


「何ぃ!? 俺は死ぬのか!? ならば、俺も女の子の中にでも……うぉおお゛おおお! 痛い!!」


「何、馬鹿なこと言ってんの!?」


(……マジか……!? ユウタさんにもしものことがあれば、世界の危機じゃないか…………俺に何かできることは…………あっ……!)


[ジサン:オークの呪いについて教えてくれ? いくらだ?]


ジサンはダメ元で、ぼったくり物知りシェルフに訊いてみる。


[ルィ:やっほー! ご利用ありがとね! 10,000カネだよー]


[ジサン:何!?]


[ルィ:何さ!?]


[ジサン:いや、良心的だなと思って]


[ルィ:失礼な……! すんごい武器とか魔王とかチート級の情報じゃなければこれくらいだよ!]


[ジサン:そうか……では頼む]





「2~3日、安静にしていれば治るそうです」


「えっ!? 本当!?」


「はい……」


「よ、よかった…………」


ツキハとチユは心底、安心した様子である。


「でも、何で知ってるの?」


「あ、いえ……知り合いに物知りがいまして……」


誤魔化すのが苦手なジサンであるが、嘘じゃないので何とか言い訳できる。


「な、なるほど……ジサンさんは交友関係も豊かなんですね!」


「え……どうでしょう……」


多くはないが濃いメンバーが揃っているのは間違いない。


「この後、どうするかは考えるとして、とりあえずユウタには帰ってもらいましょうか……」


「そうね……」


チユの意見にツキハが合意する。


「す、すまねえ……」


「私も付き添おうか……?」


チユが言う。


「いや……付き添いはいらねぇ……これ以上、誰が欠けてもエスタに挑めないだろ?」


「……ごめん」


ユウタは付き添いを拒否する意地を見せつつ、ダンジョン脱出アイテムを使用する。





ユウタが去ったことで一旦、パーティ編成をツキハ、チユ、ジサン、サラに変更する。


これにより船が一隻となり、一つの船に集約される。


「ごめんなさい……ユウタがこんなことになってしまって……」


「いや、仕方のないことです……」


「それで……本来なら仕切り直しと行きたいのですが、先程、少し言いましたが、アルヴァロの居場所が判明したようです」


「はい……」


「先ほど、”ヒロ”さんから連絡がありまして……」


(誰?)


「あ、ジサンさんに職質していたエクセレント・プレイスのメンバーのヒロさんです」


(……あいつか……!)


「自治部隊が独自で持つネットワークからの情報でアルヴァロの居場所を特定したと……可能であれば私達に協力して欲しいと……」


「はい……」


「まさかあんなところに配置するとは思わなかった……アルヴァロの居場所は、”空の大樹”……私達が討伐したラファンダルの居た場所に出現したそうなの……」


「なんと……」


「裏をかかれたわ……AIさんお得意の”先入観を抱くな”ってわけね」


“先入観を抱くな”とはゲーム開始時にAIから発信された二つのメッセージの一つである。


(すごく近い場所にいたのだな……)


「空の大樹ってことは当然、トウキョウに戻らなきゃいけない……まぁ、それはちょっと後で考えるとして、まずは目の前の脅威、エスタを倒さないと……」


「そうですね……」


「エスタは挑戦条件に”他の魔王の討伐”がある。これってつまり他の魔王より強い可能性が高い……」


「…………」


(可能性は高そうだ……最強の男……ユウタさんが抜けたのであれば、こちらも最善を尽くす必要がある……)


「だけど、私とチユ、ジサンさん、あとはジサンさんの使役モンスターで挑めば何とか……」


「いえ、サラも付けます」


「えっ!? サラちゃんも……? 確かにジサンさんより強いとは聞いていますが……って、その前にサラちゃんは挑戦ができないよ……!」


「……あと、こいつも付けます」


「え?」


[使役対象を”ドミク”から”ディクロ”に変更しました]


赤いロングヘアにオリエンタルな衣装。スタイル抜群のグラマラスボディ、特徴的な蝙蝠こうもりの羽が頭についた妖艶な雰囲気の女性が突如、出現する。


「えっ? えっ?」


「やーっと出番ですか? 旦那様……」


「すまんな……」


「豚は話し相手には不十分です。ですが”子メンティスの佃煮”は極上でございました」


「そ、そうか……」


「え、えーと……」


ツキハ、チユはキョトンとしている。


「……紹介します。魔王:ディクロです」


その説明ではキョトンは全く解消されない。


==========================

■ディクロ ランクR (ユニーク・シンボル)

レベル:100


HP:2523  MP:3956

AT:512   AG:665


魔法:ドレイン、ハード・ハート

スキル:搾り取る、ハート・ディフュージョン

特性:誘惑、幻惑

==========================


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る