38.おじさん、クルージング

 ジサンらはカンテンを討伐した翌日の夜には何とかコウベに到達した。


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 22 名無しさん  ID: pssjitaa

 アングラ・ナイトって何すか


 256 名無しさん  ID:j9gjdaigw

 匿名希望とかありなのか


 258 名無しさん  ID:03kjoaaedgg

 中身絶対おっさんとかだろ


 312 名無しさん  ID: uahugjaei

 アングラ・ナイト殺す殺す殺す頃す


 345 名無しさん  ID:ldajgieagjd

 >>312

 ひえっ


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 宿にて――


 掲示板で謎の匿名アングラ・ナイトの話題が盛り上がっている頃、ジサンは昨今、メル友になりつつある少年との話に夢中であった。


[ジサン:オークの牙ってのはどう扱うのがいいんだ?]


[ダガネル:売ればそれなりに高く売れますよ]


[ジサン:なるほど]


[ダガネル:ですが、ただ売ってしまうのも勿体ないかもしれません]


[ジサン:というと?]


[ダガネル:オークの牙に限らずですが、モンスターの恵みというのは貴重な代物ですから、武器や防具の素材にできるのがベストだとは思います]


[ジサン:そんなことできるのか?]


[ダガネル:優秀な鍛冶屋と出会えれば可能かもしれませんね]


[ジサン:鍛冶屋か・・・宛てはないな。ひとまず有難う。素材は売らずに取っておくことにする。後は生産対象に今日、テイムしたソラノ・ドラゴンを追加する]


[ダガネル:承知しました]


(鍛冶屋か……ツキハさん達は良い鍛冶屋を知っているだろうか……)


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 牧場レベル:2


 生産力: 1328

 総戦力:33223


 モンスターリーダー:まだ設定できない

 ファーマー:未設定


 解放施設:

 自動訓練施設、優勢配合施設、生産施設


 生産対象:

 フックラ・オーク(素材)

 ソラノ・ドラゴン(素材)


 精霊:

 フレア、リトーション・シャドウ


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 ◇



「マスター! 風が気持ちいいですね!」


「そうだな……」


 快晴にて、潮の香る海風を浴びながら船舶はゆっくりと進行する。


 コウベで一泊し、朝を迎えたマスターとサラ及び月丸隊はクルージングをしていた。


 と言ってもただ遊んでいるわけではない。


 彼らは真面目に当初の目的である魔王:エスタの討伐に取り組んでいた。


 コウベ・クルージング・ダンジョン。


 これまた一風変わったダンジョンである。


 プレイヤーは船舶に乗り込む。このダンジョンの大きな特徴として、プレイヤーが足を使ってダンジョンを探索するのではない。


 船が自走し、中ボスクラスのモンスターの襲撃やトレジャー選択イベントといったギミックが用意されていた。


 船の終着点には、他の魔王を討伐している者のみが上陸を許されるという"勝利と敗北の孤島"があり、そこが恐らく魔王:エスタとの決戦の間となっているらしい。


 一隻の船には1パーティしか乗船できないらしく、月丸隊の面々とは別々に島へ向かうことになっていた。


(しかし案外、暇だな……)


 乗船者らの逸る気持ちとは裏腹に、船はのんびりと進んでいる。


 イベントも連続的に発生するのではなく、時折、発生する程度……


(そうだ……釣りでもするか……)


 ジサンは気まぐれにカルイザワ・アウトレット・ダンジョンで購入した釣竿を船から海に垂らす。


「…………」


 船の上では、レンタルから帰って来ていたウエノクリーチャーパークで隠し魔公爵として君臨していたパンダ型のユニーク・シンボル”ドミク”を使役していた。


 初老のジサンには海風は少々、肌寒く、大きな体とモフモフした毛皮を持つドミクが防寒にちょうど良いと踏んだのだ。


 ジサンは甲板で胡坐座りしていたドミクの背中にもたれるように寄りかかり、自身も胡坐座りになる。


(うむ………)


 期待通りの温もりにジサンは満足する。


 ドミクも気にしない様子でその場でじっとしている。


(よし……)


 あとは"当り"をじっと待つのみ。


 ……


「お……!」


 しばらくすると竿がブルブルと振動し、竿先がしなる。


 と同時にジサンはタイミング良く竿を引く。


「おぉー! すごいです! マスター!」


 活きのいい青魚が釣れる。


[アオサバを入手した]


 甲板でチョロチョロしていたサラも興味津々にジサンのところへやってくる。


 ジサンは再び竿を投げる。


 …………


[ヒカリアジを入手した]


「お見事です! マスター!」


「あぁ……」


(……)


「……やってみるか?」


「へ?」


 先程から不自然にソワソワしている山羊娘に訊いてみる。


「え、えーと…………はい!」



 ◇



「ぐぬぬぅうう…………えいっ!」


 サラはくうを釣り上げる。


「うぅう……」


 自身が思い描いていた通りにいかずにサラは幾分、涙目になっている。


(……)


「……貸してみろ」


「っ……!」


 見かねたジサンは後ろからそっと手を添える。


「ま、マスターっ!?」


「ほら、来たぞ!」


「えっ!?」


「だが、まだだ。しっかり食いついてから……ここだ!」


「わぁあああ……!」



[アオサバを入手した]



「マスター! 出来ました! 有難うございます!」


「あぁ……次は自分でやってみな……」


「はい……!」


 サラは嬉しそうに微笑む。


「あ、あの……」


「ん……?」


 サラは少し気恥ずかしそうにモジモジしながらも意を決したように口を開く。


「マスター……! 私、楽しいです!」


「っ!?」


“楽しい”。それはジサンにとって、久しく使っていなかった言葉であったような気がした。


「……そうだな」


 期待していた珍しいモンスターが釣れたわけでもなかったが、決戦を前に穏やかな時間が過ぎていく……



 ◇



 船が終着の孤島に到着する。


 先に出発していた月丸隊の船はすでに到着しているようであった。


 と……


「ぐぎぃいいいいいい!!」


「!?」


 月丸隊の船から奇声のような呻き声が聞こえてくる。


「じ、ジサンさん! 大変なの!」


 ツキハが焦燥の表情で顔を出す。


「え……?」


「ユウタが……」


「っ……!?」



「ユウタがお腹痛いみたい!」



「……え?」


「あともう一個!」


「あ、はい!?」


「アルヴァロの居場所が判明したみたい!」

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