37.おじさん、援護する
「え……?」
「こいつは予想外だ……」
ボス部屋に入るなり、月丸隊の面々が戸惑いを口にする。
どこまでも広がっている星空の元、巨大な四足歩行生物がそこにいた。
白い狼。体長20メートルはありそうだ。
龍のような鱗を持つその巨大な狼はじっくりとこちらを見据えている。
「喋れるのか?」
「…………」
ユウタが確認するが返事はない。
どうやら言葉を解さない魔王のようだ。
「このタイプは逆に初めてだ……何をしてくるやら……」
そう言いながらも月丸隊の面々が武器を構える。
すると魔王:カンテンのHPゲージが充填される演出が発生する。
と、同時にツキハが言う。
「ジサンさん! まずは私達の戦いを見ていて下さい!」
「見せてやるよ! 魔王との戦い方って奴を……!」
(うお……ユウタさん、勇ましいな……流石は実質、最強の男……)
「いくぜ!!」
掛け声と共にツキハとユウタの前衛の二人がカンテンに突っ込んで行く。
◇
「スキル:聖剣突き!」
「グギャアアア!!」
ユウタの強力な連続突きがカンテンの横腹にクリーンヒットする。
30分程度の攻防で、カンテンのHPはすでに1/3程度となっている。
カンテンの威圧感は凄かった。
序盤、そのパワーに苦しめられ、ツキハ、ユウタのHPが1/2以下になるシーンもあった。
しかし、カンテンの驚異的な物理攻撃も結局のところ変化に乏しく、ジェネラル・ヒーラー:チユの精密なHP管理を瓦解させるには不十分であった。
「所詮は二番煎じ魔王……! 第二魔王:ラファンダルには遠く及ばないね!」
という、ユウタの格好いい言葉がジサンの中で印象に残っていた。
(やはり凄い……これが最前線において命懸けで戦っている者達なのか……)
ジサンは言われた通り、少し間をおいて戦況を観察していた。
下手に割り込み、彼らの連携を邪魔してはいけないと思ったのもある。
実際のところ、毒にはならないであろうと使用したジサンのデバフ魔法:フルダウンがかなり効いていた。
そして、彼らの動きもある程度、頭に入ってきた頃合いであった。
(せっかく居るのだから、少しは手伝わなければ……)
「私も出ます」
「ジサンさん、ありがとう! 大技一気にいくよ!」
「了解です」
「行くよ! スキル:ブレイヴ・キャノン!!」
「スキル:ホーリー・クロス!」
(スキル:魔刃斬)
三人の大技がカンテンに炸裂する。
「グギャアアアアアア」
…………
「「「「あ……あれ?」」」」
四人とも一様に驚く。
想像以上にダメージが入り、カンテンがそのまま力尽きたからだ。
四人はそれぞれ思う。
あれ? 流石にこれで倒せるとは思ってなかったんだけど……
むむ? ツキハの奴、いつの間にか特訓でもしたか?
あら? HPゲージ見間違えていたかしら……
うわ! ユウタさん、こんな切り札を……
…………
ファンファーレが鳴り響く。
◇
カンテンを撃破して、しばらくすると規定通り、パーティ公開される。
◆2042年10月
魔王:カンテン
┗討伐パーティ<月丸隊>
┝ツキハ クラス:勇者
┝ユウタ クラス:聖騎士
┝チユ クラス:ジェネラル・ヒーラー
┗匿名希望 クラス:アングラ・ナイト
匿名希望のアングラ・ナイトが一番目立っているのは言うまでもない……
◇
「乾ぱーい!」
その晩はナゴヤにて祝杯を上げた。
「まだエスタが残ってるけど、今夜は目一杯楽しみましょー!」
チユがそんなことを言う。
「ジサンさん! 私達の戦いっぷりどうだったかな?」
ジサンの横に座っていたツキハが聞いてくる。
(緊張する……)
毎度のことながらツキハは距離感が近くジサンは少々どぎまぎしてしまう。
ツキハも誰にでもそういう距離感を取るわけではないのだが、多少なりとも、ジサンへの意識が働いているようであった。
「え、えーと、凄いと思いました」
表現力に乏しいジサンは小学生並みの感想を伝える。
「本当!? 嬉しいなー!」
だが、ツキハはそれでも十分喜んでくれた。
「正直、私達もこんなにあっさり魔王クラスを倒せたのは初めてだよ。私達もちょっとずつ成長してるのかな……」
「そ、そうなんですね……」
「ジサンさんのフルダウンもかなり効いていた気がします。有り難うございました!」
「いえいえ、少しでもお役に立てたならよかったです」
「マスターを援護役にするなんて……愚の骨頂……」
多少、不満ありげな少女がぼそりと呟く。
「え……?」
「あ、何でもないですー!」
ニコリと誤魔化す。
「今更だけど、ジサンさんのクラスってアングラ・ナイトって言うんですね」
「えぇ……」
「聞いたことないけど、どういうルートなのでしょう……」
「地下に潜り続けていたらなれるようです……」
「そ、そうなんですか……」
それにしても聞いたことないなぁと、ツキハは少し腑に落ちない様子であった。
この時はまだ”ユニーク・クラス”の存在はまだ明るみに出ていなかった。
「しかし、うめえな、この味噌オークカツ」
ユウタがナゴヤ名物、味噌オークカツにがっついている。
「おかわり!」
(…………)
ジサンもせっかくなので食べてみる。
(…………)
確かに旨い。
絶妙に柔らかく、しつこすぎない脂の乗り具合。そして中からジューシーな肉汁がじんわりと染み出てくる。
(…………これは売れるかもな……)
「おかわり!」
ユウタは味噌オークカツを
その時、ポップアップがある。
[生産施設にて"オークの牙(上)×1"が生成されました]
オークの牙はすぐに生え変わる。
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