36.おじさん、魔王戦に引率

 ナゴヤ、宿にて。


[ジサン:流石に家畜の出荷はハード過ぎるわ]


[ダガネル:そうですか。それは残念]


 ジサンには流石に喋る豚を屠殺とさつする度胸はなかった。

 この歳になって、断腸の思いで育てた家畜を出荷しているのであろう生産者の方々に感謝しなければならないなと思うジサンであった。


[ジサン:だから素材中心にやりたい]


 素材とは、主にモンスターの体の一部を拝借し、そのままであるが、“素材”を入手することである。


[ダガネル:それはオーナーの自由です。ただ、いずれにしても生産には商材となるモンスターに加え、生産者となる精霊モンスターが必要になります]


[ジサン:精霊モンスターとは”フレア”みたいな奴か?]


[ダガネル:そうです]


[ジサン:わかったが、野良でも配合でも見かけたことがないのだが・・・]


[ダガネル:そこでランクアップボーナスで付与した”精霊スタンプカード”の出番です]


(……?)


[ダガネル:精霊スタンプカードを確認してください]


[ジサン:わかった]


 確認すると全国マップに点々とするように名称と特徴が記載されていた。


 ==========================

 ○フレア

 無属性魔法を得意とする精霊

 ┗チバ


 ○ガードナ

 守護魔法を得意とする精霊

 ┗フクオカ


 ○リトーション

 反射魔法を得意とする精霊

 ┗ナゴヤ


 ○アーティレリ

 兵器魔法を得意とする精霊

 ┗ヨコハマ


 ○デメンション

 次元魔法を得意とする精霊

 ┗オオサカ


 ○ウィズ

 闇魔法を得意とする精霊

 ┗ヒロシマ


 ○シード

 深緑魔法を得意とする精霊

 ┗コウベ


 ○ホワイト

 空間魔法を得意とする精霊

 ┗サイタマ


 ○スプリング

 霊水魔法を得意とする精霊

 ┗ブンキョウ


 ○ワイルド

 死霊魔法を得意とする精霊

 ┗サッポロ


 ○ビースト

 狂獣化を得意とする精霊

 ┗シンジュク


 ○ウェブ

 神虫化を得意とする精霊

 ┗センダイ

 ==========================


[ダガネル:それが精霊モンスターのリストだよ。Qランクのユニーク・シンボル(オリジンと呼ばれる)については高難度の隠し条件があるのだけれど、一つ下のPランクの”シャドウタイプ”についてはプレイヤーのレベルが80以上なら、その地域の斡旋所でこのスタンプカードをNVCさんに見せれば貰えるよ]


(俺が持っているフレアはオリジンというわけか……牧場の最上階購入が隠し条件だとすると、他の精霊達のオリジン入手条件もかなり厳しく設定されていそうだ)


[ダガネル:Pランクでも生産者としての役割は十分果たしてくれるから安心してね]


[ジサン:なるほど]


[ダガネル:いずれにしても精霊を集めることで生産力はどんどんと高まっていくよ]


[ジサン:わかった。有難う]


[ダガネル:差し当たって何か生産対象にしておく?]


[ジサン:オススメとかあるか?]


[ダガネル:うーん、素材であれば、装備素材の元となる爪や鱗などを排出する獣や龍かな。魔具系が欲しいなら魔石なんかを排出するスライムかスフィア系がオススメかな]


[ジサン:わかった]



[生産対象に”フックラ・オーク”を設定しました]



 ◇



 翌朝、ジサンは急いで斡旋所に向かい、NVCさんからリトーション・シャドウを受け取る。



 ==========================

 ■リトーション・シャドウ ランクP

 レベル:80


 HP:1500   MP:800

 AT:400    AG:400


 魔法:リフレクション、アンチ・フィールド

 スキル:精霊の歌

 特性:応援

 ==========================


「カワイガッテアゲテクダサイ」


 リトーション・シャドウを受け渡してくれたNVCさんは確かにカルイザワの斡旋所と同じ姿であった。


 ツキハによると記憶も共有しているらしく、どこであっても同一人物、可愛がると懐いてくるとのことだった。


 確かにツキハとNVCさんは仲が良さそうであった。


 ジサンはふと思う。


 ツキハはAIは敵などと言っているが、案外楽しんでいるような……と。



 ◇



「うわぁー! お星様きれいー! マスター! お星様お星様!」


 マスターとサラ、月丸隊はナゴヤ星雲ダンジョンに来ていた。


 元々は巨大なドーム状のプラネタリウムがあった場所らしい。


 ダンジョン内には足場はあるが、景色が宇宙空間のようになっており、数え切れない程の星々が瞬いている。


「すごく幻想的……素敵……かも」


 ツキハは囁くように言う。


「こういうのは本当……すごいよな……」

「うん……ちょっとズルいって感じ」


 ユウタ、チユは敵の所業を讃えることを躊躇いつつも苦笑い気味に零す。


 確かに幻想的だなぁと思いつつも……


(ちょっと目がチカチカする……)


 とロマンチックを台無しにする初老、ジサンであった。


 そもそも何故ここにいるのか……


 それは魔王:カンテンの討伐であった。


 少し時を遡る。



 ◇



「ナゴヤに寄ったのは偶々(たまたま)ってわけじゃなくて目的があるのです!」


 待ち合わせたカフェでナゴヤ名物、モーニングを頂きながらツキハが言う。


「ずばり! 魔王:カンテンの討伐です」


「え……?」


「ジサンさん、お忘れですか? 魔王:エスタへの挑戦条件!」


(ん……? 確か魔王ランクの討伐だったと思うが……)


「その顔はやっぱり忘れていますね!」


(あ、いや……)


「魔王:エスタへ挑戦するには魔王ランクの討伐が必要なのです!」


「な、なるほど……それなら……」


「あと、ついでにカンテンの報酬、魔装:”ゲルル”……状態異常無効防具も手に入れちゃいたいと思います!」


「お?」


「あの……ジサンさんに助けて貰った時みたいなこともありますし……」


(……)


 確かにウエノクリーチャーパークでのあの時、ツキハは何らかの拘束状態にされていた。


(まぁ、確かにその防具はあった方がいいか……)


「承知しました」


 ジサンは合意する。



 ◇



 再び、ナゴヤ星雲ダンジョン内ーー


 魔王ランクは斡旋所での受注は不要らしく、ボス部屋のあるところまでは、マスターとサラ、月丸隊にパーティを別けて行くこととなっている。


 魔王がいるダンジョンと言うだけあって上層に向かうに従い、それなりに強いモンスターも出てくる。


 中ボスとして出てきたランクNの新種のモンスターも三体テイムできた。


 ==========================

 ソラノ・ドラゴン    ランクN

 スターダスト・スフィア ランクN

 スイセイ        ランクN

 ==========================



 ◇



 ツキハが言う。


「さて、ようやく着いたね……」


 ダンジョンの深部に巨大な球体の部屋を発見したのだ。


「ボス部屋だと思う……」


(……)


「これまでの俺達の経験上、ボス部屋は一度入ると戦闘が終わるまで抜け出せない。おっさん、本当に大丈夫かい?」


 ジサンの中で、最強の男であるユウタの言葉に多少、プレッシャーを感じる。


 しかし、ジサンはその点については問題ない。


「じゃあ、悪いんだけど、ジサンさんはこちらのパーティに……」


「はい……」


 ボス部屋に入れるのは1つのパーティ4人まで。サラは外れなければならない。


「サラ……どうする? ダンジョンを抜けているか?」


「いえ、マスター……サラはここに残り、マスターの凱旋を見届けます」


「……そうか……なら……フレア!」


「きゅぅううん!」


 フレアがジサンのところからサラの元へ移動する。


「!? マスター……どういうことでしょう?」


「フレアをサラに付ける」


 フレアの特性:”応援”により、付近のパーティ外のメンバーに使役させることができる。


 ただし、当然、使役枠を使用するため、ジサン自身は使役ができなくなる。


「マスター! 恐れ入りますが、不要です!」


「ダメだ」


「し、しかし……」


「フレアはサラを守れ、サラはフレアを守れ」


「……! わ、わかりました……」


 普段より断定的なジサンの言葉にサラは従う他なかった。


「……おいで!」


「きゅうん!」


 フレアはサラの肩に乗る。


「おっさん、本当に大丈夫なのかい?」


 ユウタが幾分、心配そうに尋ねる。


「大丈夫です、サラは私より強い。フレアもいれば万が一ということもないでしょう」


「……!? そ、そうなのか……」


 ユウタはツキハからジサンの強さを聞かされていた。

 特に興味深いと感じたことは、HPが3/4以上残っていたというツキハを一撃で沈めたことであった。これだけで破格の攻撃力を有することは証明できる。

 そしてジサンの言う通り、サラがそれよりも強いとなれば一大事である。


「それでは行きましょうか……」


「あ、はい……!」


 ジサンの静かであるが、初めての魔王戦であるはずなのに、恐れを全く感じさせない言葉に対し、ツキハが慌てて返事をする。


(……)


 魔王:カンテンは”テイム対象外”。

 ならばテイム武器を装備する必要はない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る