35.おじさん、初めてのクエスト

「へぇー、ボスの場所がこんな感じで表示されるのか……」


 マップにはボスの位置にマーカが表示されていた。


「どの辺に表示されてますかー?」


(お……)


 ツキハが近寄ってきて、自分の空間ディスプレイを見せてくる。


(う……)


 ツキハのような自分より一世代ほど若くて綺麗な女の子が自身のパーソナルエリアに入って来たことによりジサンは少しばかり緊張する。


 しかし、ジサンにはツキハのマップのマーカは見えない。

 別のパーティとしてクエストを受注しているからだ。


「この辺です……」


 ジサンはひとまず自身のマップのマーカされている部分を指差す。


「なるほど……ジサンさん達のボスの位置とこっちのボスの場所、違うみたいですね」


「そうですか」


「それじゃあ、とりあえず、ちゃっちゃと倒しちゃいますか」


「あ、はい……」



 ◇



 月丸隊と別れたジサンとサラはターゲットの表示位置へ向かう。


(せっかくだし……)


 ジサンは使役モンスターとして、牧場の購入特典として貰った”フレア”を選択する。


 ==========================

 ■フレア ランクQ (ユニーク・シンボル)

 レベル:90


 HP:2000   MP:1000

 AT:500    AG:500


 魔法:マギ・フレア、ピュア・フレア、メガ・ヒール

 スキル:精霊の歌

 特性:応援

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「きゅぅううん!」


 出現したフレアは嬉しそうにニコニコしながら、フヨフヨと浮遊している。そして、その場でペコリとジサンに頭を下げる。


「あぁ、よろしくな」


(……さて)


 カルイザワ・アウトレット・ダンジョンは屋外の森林ダンジョンだが、商店がところどころに並んでいる。


 しかし、よく考えると現実のショッピングモールもダンジョンみたいなものだったな……と思うジサンであった。


 商店はモンスターが経営しているらしい。外観は大木を切り抜いたような造りになっており、ファンタジーの雰囲気が演出されている。


 残念ながら、今はまだ商店には入店できないようだ。ひとまず”買物チケット”を入手する必要があるようだ。


 ジサンはショッピング好きというわけではないが、これだけ見せびらかされては、どんな物が買えるのか早く知りたくなってくる。


「行くぞ……」


「はい、マスター!」



 ◇



 魔騎士:メンティスは巨大なイナゴのような姿をしていた。


 ジサン達は魔騎士レベルに苦戦するようなことはなかった。


「テイム不可能だ。好きにしていい」


「きゅぅううん!」


 ジサンの言葉を聞くと、フレアが開幕一番、魔法を行使する。


[魔法:マギ・フレア]


 使役者であるジサンのディスプレイには使用した魔法名がポップする。


 と、同時にメンティスの周囲に無数の白い光が出現する。


 その光球は中心地を目指し、急加速、収束し、そして激しい爆発を発生させる。


「グギャゥウウウウン」


 メンティスは何も行動することなく、力尽きる。



 ◇



[ツキハ:では1時間くらいで!]


 月丸隊もメンティスの討伐はすぐに終わったようで、ツキハから連絡が来る。


 元々、コウベへと向かう時間を短縮するためにダンジョンに来たので、あまりゆっくりもしていられない。


 時間は1時間。


 全ての店舗を周るなど到底無理……



 ◇



「イラッシャイブヒィ」


 店に入ると、ふっくらと肥えた優しそうなオークが迎えてくれる。


 一応、敵意はないようだが、カモガワオーションワールドの件もある。

 あまり油断はしない方がいいだろう。


「ここは”モンスターフーズ”のお店ブヒ」


「お前、喋れるのか?」


「ブヒブヒブヒブヒィ」


「モンスターフーズとは何か?」


「モンスター用のおやつみたいなものブヒ」


「お前の好きな食べ物は?」


「ブヒブヒブヒブヒィィ」


「これはいくらだ?」


「1000カネになるブヒ」


(……この豚は決まった質問だけに答えられるということか? まぁいい、モンスター用の食べ物なら、あいつに土産でも買ってやるか)


「サラ……あいつは何が好みだと思う?」


「え? あいつですか!? 正直、どうでもいいのですが、マスターが言うのであれば…………うーん…………虫とかですかね?」


(え……本当か……? しかし、聞いといて違うというのもな……)


「……な、なるほど……フレアもそう思うか?」


「きゅん! きゅぅううん!」


 フレアは一生懸命に首を縦に振っている。


「そうか……では、これを……」


 ジサンは”子メンティスの佃煮”なるものを購入する。


「アリガトブヒ! 2000カネになるブヒ」


「あぁ…………ところで……お前はテイムできるのか?」


「…………兄さん、死ぬ覚悟があるなら店の外に出ろブヒ……」


 優しそうなオークの目つきが急激に鋭くなる。



 ◇



 ==========================

 ■フックラ・オーク ランクN

 レベル:50


 HP:1802  MP:43

 AT:622   AG:2


 魔法:ダウン

 スキル:デビル・スピア、ぶん殴り

 特性:贅肉

 ==========================


 フックラ・オークはメンティスより数値上は、遥かに強かったのだが、それでも苦戦とまではいかなかった。


 なお、”子メンティスの佃煮”の料金は払った。


 定型句以外は怪しいようだが、言葉も使えるようだし、いい土産になっただろうか……と思うジサンであった。


(もう一店舗くらい行けそうだな……)



 ◇



 ==魔具専門店========================


 ○アップ・ハーブ

 ┗ 戦闘中の攻撃力強化


 ○ダウン・ハーブ

 ┗ 戦闘中の攻撃力弱体化


 ・

 ・

 ・


 ○蘇生の秘薬

 ┗ 戦闘中、任意の一人が瀕死状態から復帰できる。

 知恵素養のあるクラスのみ使用可。


 ○身代人柱

 ┗ 戦闘中、一度だけパーティメンバーが受ける攻撃を自身が受けることができる。


 ・

 ・

 ・


 ○釣り竿

 ┗ 海や川で釣りができる。モンスターが釣れるかも。


 ○甘いお菓子

 ┗ MPが回復する


 ○苦い野菜

 ┗ 弱体化を解消する


 ==========================



「おい、豚、これだ」


「ブヒィ! 甘いお菓子ブヒね……!」


「言うな! 愚鈍な愚豚が!」


「有り難うございますブヒィブヒブヒィ!」


(……)


 サラが買い物をしている。


 甘いお菓子が食べたかったのだろうか……とジサンは親心で見守る。


(さて……蘇生の秘薬。瀕死状態とは確か……)


 リアル・ファンタジーには”瀕死システム”というものが採用されていた。


 戦闘中にHPがゼロになった場合、すぐに死亡するわけではない。


 パーティメンバーが全員瀕死になった時に死亡するようになっている。


 ジサンはそのシステム自体は知っていたが、幸い、一度も瀕死状態になったことがなかった。


 そもそもカスカベ外郭地下ダンジョンにいた頃はソロで潜っていたため、瀕死イコール即死であった。


(アングラ・ナイトは知恵素養はないし、どっちにしても使えないか……アップ・ハーブやダウン・ハーブは便利そうではあるが……)


 戦闘中のアイテム持ち込みはかなりシビアに設計されている。


 武器や防具も持込アイテムに加算され、一部のクラス:道具師などを除き、アイテム持込枠は装備品を除くと0~1程度しかない。


 アングラ・ナイトは1枠あるが、ジサンはいざという時のためのテイム武器からの切り替え用武器でその枠を使用してしまっている。


(……身代人柱……いざという時に使えそうだが……)


 ○身代人柱……2,000,000カネ


(二百万カネ…………そうだ……金なかったんだった)


 ジサンの手持ち二十万カネ程度であった。


 ○釣り竿……100,000カネ


(十万カネ…………ぐぬぬ……高い……だが何とか買える……珍しいモンスターをテイムできるかも……)


 ジサンはなけなしのカネを叩き釣り竿を購入した。


「ありがとうブヒ!」


 オークの店員がにこやかに微笑む。


 その時、ジサンのディスプレイにメッセージがポップする。


[牧場レベルアップ(レベル2)]

[”生産施設”が解放されました]

[”精霊スタンプカード”を入手した]



 ==========================


 牧場レベル:2


 生産力:0

 総戦力:30061


 モンスターリーダー:まだ設定できない

 ファーマー:未設定


 解放施設:

 自動訓練施設、優勢配合施設、生産施設


 ==========================


 そして、追加でメッセージが来る。


[ダガネル:牧場レベルアップおめでとうございます! 新規に追加された”生産施設”では、牧場内のモンスターから生み出される恵みを得ることができます! 分かりやすいところで言うと家畜系のモンスターを市場に出荷してカネに変換できたりします!]


[ジサン:例えばオークとかも?]


[ダガネル:勿論です。あの豚、結構高値で出荷できますよ]


「……」


「ブヒ……?」


 ふっくらしたオークと目が合う。



 ◇



 その後、ダンジョンの外で月丸隊と合流し、次のバス停へと向かった。


 その晩はナゴヤにて一泊することとなった。

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