33.おじさん、匿名希望
「それじゃぁ、メンバーを紹介するよ!」
「あ、はい……」
「チユです。よろしくね」
クラス:ジェネラル・ヒーラーのチユは少し小柄で、ふわっとした褐色の長い髪、落ち着いた雰囲気をした女性であった。
「なんかごめんなさいね。ツキハちゃんって本当、突っ走るタイプで……」
「え、あ、はい……」
「ちょっとチユ! 余計なこと言わないで!」
「はいはい」
仲が良さそうだ。
「俺はユウタと言う。クラスは聖騎士だ。よろしく頼む」
身長が高く、がっしりとした男性。
その人がユウタであった。
(……)
ジサンは緊張する。
ユウタさん……全ての魔王の討伐に関わった男……
この人がいわゆる主人公か……
ジサンはユウタこそが実質、最強のプレイヤーだと思っていた。
(しかし、月丸隊の時とウォーター・キャットの時で顔とクラスが違うんだよな……掲示板によると整形したとか、チユを捨てたとかミズカを魔女にしたなどとボロクソに書かれていたが……うーん、聖騎士と長槍兵って行き来できるのか?)
顔とクラスが違うのならば、それはもう完全に”別人”である。
掲示板ではいわゆる”ネタ”として言われているのだが、ジサンは嘘を嘘と見抜けない人であった。
最強ではないにせよ、両ユウタが強いプレイヤーであることは間違いない。
「それで、ジサンさん、折り入ってお願いがあるのですが……」
「……?」
「魔王:エスタの討伐を手伝ってもらえませんか!?」
(え……)
「見ての通り、月丸隊は現在、三名で活動しています。ジサンさんはサラちゃんとパーティを組んでいるようですし、こっちも訳あって、一枠空けているから、ずっとってわけではないのですが、是非、一時的にでもヘルプいただけないでしょうか?」
「えーと、申し訳ないのだけど……」
「そ、そうですか……」
ツキハはしゅんとする。
ジサンは少し罪悪感を覚える。
「そうですよね……こんな命懸けのこと……」
「あ、いや……それは別にいいのですが……」
「えっ!? では……差支えなければ理由を教えていただけないでしょうか?」
「そ、その…………ボスリストの魔王を倒すと、名前と顔が公表されますよね……」
「っ!?」
「それがちょっと……」
「な、なるほど! 確かにあれは嫌ですよね! 私達も第四魔王:アンディマを倒した時は、まさかそうなるとは思っていませんでしたよ」
「えぇ……」
「それじゃあ仕方ないですね……でも、何とかならないかな…………うーーーん…………あ……!」
「ん!?」
「ちょっと待っていてもらっていいですか?」
「あ、はい……」
そう言うと、ツキハはどこかに連絡をし、通話を始める。
「あ、もしもしミズカ?」
(ミズカ……ウォーター・キャットの筆頭、魔女のミズカか……)
「あのさー、例の女神に頼んで欲しいことがあるんだけど…………うん、うん、ダメ元でいいから!」
◇
「え? マジ!? ありがとう! え? 面白そうだから? 相変わらずだな……あの女神は……」
……
「え? ミテイがやってくれた? そ……じゃ、一応言わないとね……ありがとう……ちゃんと聞こえてるんでしょ?」
……
「はいはい……」
(…………)
◇
「いいってさー!」
(マジですか……)
「プレイヤー名:匿名希望 画像なし はOKだって! でもクラスは表示要みたいです。クラス名だけならいいですか?」
「あ、はい……」
流石にここまでやってくれて断り辛かった。
しかし……
「私なんかより、そのウォーター・キャットさんに協力を要請した方がいいのではないですか?」
「いや、それがさー、あいつら急に”カスカベ外郭ダンジョン”とかいう超難関ダンジョンに挑むって言い出して……何でも急がないとやばい! とか何とか……」
「へぇ……そうなんですか」
(カスカベ外郭ダンジョンか……)
ジサンは何だか少し懐かしさすら覚えていた。
(92階層で抜けてきた。いずれは100階層を目指したいものだ……)
「実際、パーティを組むとなるとサラは待機ということですか?」
「そうなりますね」
「サラ……大丈夫か?」
「マスター……お気遣い有難うございます。サラは大丈夫です」
「お、そうか……」
それはジサンにとって少し意外であった。
ジサンは勝手にサラの保護者であると思っているが、サラもまたジサンに対し、親心のような何かを抱いているのであった。
強いマスターにもっともっと活躍して欲しい……! と。
「なら、私などで良ければ協力します……」
「あ、有難うございます!!」
ツキハの表情は明るくなる。
「それじゃあ行きましょう! エスタのいる”コウベ”へ!」
……結構、遠いな。
ジサンが少々、途方に暮れていると、メッセージがポップアップする。
[貸出許可中の”ドミク”がプレイヤー”シゲサト”により1DAYレンタルされました。使用料10,000カネが入金されました]
早速、牧場に人が集まり始めたようであった。
(ちゃんとテイマーっているんだなぁ……)
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