32.おじさん、トウキョウに戻る
ダンジョン”空の大樹”付近は栄えている。
その街の一角、クエスト斡旋所(通称、ギルド)の前に、ジサンとサラはいた。
「そっちの具合はどうだ?」
……
「あぁ……あぁ……」
……
「そうか、それならよかった。すまない。苦労をかけるな」
……
「え? 話し相手が欲しい?」
……
「アイツじゃダメか?」
……
「そうか、忙しそうか……うーん……ちょっとアテがないのだが考えておく」
……
「それは、まぁ、いずれ頼む時が来るさ。あぁ、ではな」
ジサンは通話を切る。
「マスタぁー……」
「ん? どうした?」
サラは少しほっぺを膨らませながら、こちらを見上げている。
「誰です? またアイツですか?」
「まぁな……」
「あんなのは放っておけばいいのです!」
「……そうもいかんだろ」
「うぅう……」
サラは少し不満そうであった。
(……)
どうしたものかとジサンが考えていると、ふいに声を掛けられる。
「ちょっとそこの人、いいですか?」
(ん……?)
◇
今日は、やっとジサンさんに直接、お礼が言える。
ツキハは待ち合わせの場所へ向かう。
でも、年上の方だし、なんかちょっと緊張するな……
あれ? でも、ウエノクリーチャーパークの時は全然、緊張しなかったのにな……などと考えているうちにも、どんどん待ち合わせの場所が近づいてくる。
あ、いた……
見覚えのあるおじさんと少女のペアが視界に入る。
「ん……?」
ツキハがよく見ると、おじさん達は街中なのに武装している人と話をしている。
おじさんはどこか焦った顔付きをして何かを訴えている。
「おじさんさー、何度も言ってるけど、ちゃんとその子との関係、説明してよ」
「いや、だからこの子は、子供とか姪ではないんですけど、でも怪しい者でもなく……」
「…………」
ツキハが多少なりとも、ときめきのようなものを覚えていたその相手は、職務質問されていた。
◇
「だから、何の権利があって、こんなことしてるんですか?」
ジサンは抵抗する。こういう時は必要以上に抵抗しない方がいいのだが、ジサンは抵抗してしまう。
「権利と言われると難しいですが、こちらは自治部隊の”エクセレント・プレイス”に所属しております。街の安全を守るため、自主的に活動をしています。えーと、それなりに知名度が上がってきていると思いますが、ご存知ないですか?」
街中なのに緑色の制服のような姿で武装したジサンと同じくらいの年齢のおじさんはそのように宣言する。
(……自治部隊? 確かに掲示板にそんな情報があったような気もするが……)
「それで結局、その子とはどういった間柄で?」
(……誘拐を疑われているのか? だが……)
ジサンは少々、不満であった。なぜなら……
「そういうあなたも小さい子を連れているではないですか?」
おじさんの傍らには、似たような緑色の制服姿かつネコ耳という風変わりな格好の少女がいた。
「失礼にゃ! ウチはこれでもエクプレの一員だ!」
「っ……!」
ネコ耳少女にきっと睨まれ、ジサンは怯む。
「そういうこと」
(……どういうことだ!)
「おじさんさー、何度も言ってるけど、ちゃんとその子との関係、説明してよ」
「いや、だからこの子は、子供とか姪ではないんですけど、でも怪しい者でもなく……」
「そうです! 私とマスターは健全な関係です!」
「……うーん」
「本人もそう言ってるだろ? いい加減にしてくれ」
「……まぁまぁ、そう怒らずに……こちらもノルマがあるので!」
(おい!)
その時、澄んだ女性の声が割り込む様に聞こえてくる。
「ちょっといいですかー!」
(……お)
「そのおじさん、怪しい者ではないです! あ、いや、ちょっと怪しいのは事実なんですけど……」
「ん……?」
そこには待ち合わせをしていたツキハがいた。
「えーとですね…………って、あなたは!」
「あ、はい……」
緑のおじさんは顔色を変える。
「月丸隊のツキハさんですね!」
「はい……」
「ツキハさんが言うのであれば、間違いないです! 失礼致しました!」
「あ、いえ……エクプレの噂は聞いています。いつも街の安全を守っていただき有難うございます」
「そ、そんな! 滅相もありません」
「いえ、あなた達の活動に皆、かなり助かっていますよ。ここのところ、治安も悪化していますし……」
「そうですね……ヒビヤやウエノでも殺人事件も起きているようです。どうやら危険なグループが
「え? 実際に殺人事件が起きていたんですか? 知りませんでした……」
ツキハは驚きと、そして悲しそうな顔をしている。
「そうですね……残念です。ツキハさんは大丈夫だとは思いますが、皆さんもくれぐれもお気を付けください……」
「……っ……はい……」
実際に危機に陥ったツキハは少し自信なさげに返事をする。
あの時、彼らは殺す殺さないには言及していなかったが、もしかしてそのつもりだったのだろうか……と彼が来なかったらと思うと……ツキハは尚更、ゾッとする。
「何かあれば、こちらまでご連絡ください! 正しきことのためならば、すぐに駆けつけます」
「あ、ありがとうございます」
そうしてエクプレの二人と別れた。
◇
その後、ツキハにどこかに連れて行かれる道すがら、ジサンはいくつかの情報を共有してもらった。
“空の大樹”の頂上には”第二魔王ラファンダル”がいたことや、ウォーター・キャットの面々とはこの辺で出会ったといったちょっとした情報から始まり、いつの間にか自治部隊に関する話題になっていた。
◇
ゲーム開始時に、政府や警察が解体され、既存の法はなくなった。
正確に言えば、”ゲームのルール(仕様)”がそのまま法になったのだ。
ニホンの国民性なのか、法が無くなった後もそれ程大きな混乱は起きなかった。
プレイヤー同士の殺しができなかったのも大きかったかもしれない。
しかし、それでも”悪意”というものは存在する。
それを抑止するために一部の人間達が自主的に自治部隊を立ち上げた。
大きく三つの部隊があり、それぞれにイメージカラーがあった。
【赤】 P・Ower
┗ 最大規模。カントウ中心に活動。
【青】
┗ 大規模。カンサイ中心に活動
【緑】 エクセレント・プレイス
┗ 小数精鋭で実力者揃い。トウキョウ中心に活動。
掲示板には、画像も出回っていた。
ジサンはそれを見て、カモガワオーションワールドにいたレイドバトルを仕切っていた”真面目な戦士”はP・Owerの人であったと今更ながら気づくのであった。
◇
「さて、着きました!」
「あ、はい……」
ツキハに案内されたその場所は隠れ家的なカフェのようなお店であった。
「えーと……」
「お礼と……あとは、私のパーティを紹介させてください!」
「あ、はい…………」
(……え)
ツキハは元々、少々、強引な性格であった。
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