30.おじさん、牧場主になる
「マスター! あれ、何ですかねー?」
「ん?」
トウキョウへ向かうバスの中、ジサンはウトウトしていると窓の外を見ていたサラが話しかけてくる。
外に大きな塔状のダンジョンらしきものを発見する。
一般的なダンジョンと異なり、上階になればなるほど広くなっているのか逆さ八の字のような形状をしている。
(あんなダンジョンあったのか……)
ジサンは気になり地図を確認すると何とも眩惑的な文字が飛び込んでくる。
[モンスター牧場タワーダンジョン]
◇
(来てしまった……)
ジサンは次の駅にてバスを降り、逸(はや)る気持ちを抑えつつ、牧場タワーなる建造物のところに辿り着く。
早速、最下層に入ってみる。
(……お?)
「かわってますね……」
サラが言うように、そこはなぜかエレベーターホールのようになっていた。
ダンジョンにエレベーターって、いいのかそれ……とジサンが思っていると……
そのエレベーターが下がって来て、扉が開く。
「いらっしゃいませー」
中からは少年が出てくる。
作業着姿の割と小柄の少年だ。
ブロンドのくせっ毛で、たれ目気味の優しそうな表情。
鼻の周辺にはそばかすが少しあった。
(……NPCか?)
「お客様が五組目の見学者です」
「はぁ……」
「ここは一昨日、完成したばかりなんです」
(……なるほど、それで全国マップを見ていても気づかなかったというわけか……)
「未だに一人も買い手がいなくて、ちょっと悲しいです……」
「はぁ……」
(買い手とは?)
少年は説明を始める。
「僕はダガネルと申しまして、この牧場タワーの総合管理を任されています。この牧場は”テイマー”、”モンスター収集好き”の方のための施設です。見たところお客様はモンスター収集を積極的に行っているようですね」
(……ふむふむ)
「プレイヤーの方は、この牧場の各階層のうち1階層のみですが、ご購入いただけます。牧場はモンスターBOXと直結しており、モンスター達はBOX待機時、この広大な牧場でのびのびと生活することができます」
「買う」
「えっ!?」
「だから買う。いくらだ?」
「ちょ、ちょっと待ってください。有り難いのですが、せっかくですので、もう少しセールストークをさせてください」
「……はい」
「牧場にはテイマーの皆さんを支えるたくさんの施設があり、牧場レベルを上げることで徐々に施設を拡張させることも可能です。最初から利用可能な施設としては、”自主訓練施設”、”優勢配合施設”です」
(……ふむふむ)
「”自主訓練施設”により、BOX内のモンスター達は少しずつですが、レベルが上がります」
(……買う)
「”優勢配合施設”では配合時に優先素体を選択することで、配合後の姿をその種族に近い形にすることができます。例えばスライム族を優先素体にすれば配合後の姿もスライム族となるわけです」
(……買う、絶対買う)
「あとはモンスターレンタルというのができまして、自身のレベルによる制限はありますが、他の階層を購入したプレイヤーが貸出許可を出しているモンスターを借りることができます」
(……それはいらないかな)
「ユニーク・シンボルは借りることで図鑑データを埋めることができます」
(買う!!)
「それでお値段の方ですが、上階ほど高額になっており、下層は共有施設となります。最安値で100万カネ、牧場部最上階である100Fは10億カネとなっています。ちなみに最上階の一つ下の階層99Fは5億カネです」
(……!? 10億カネ……多少は残るが、ちょうど俺の全財産くらい……)
この世界の”カネ”は取引そのものは自由であるが、”発行”はモンスター討伐のみで行われる。
ゆえにジサンはカスカベ地下ダンジョンを出た際、それなりのカネを所持していた。
その額、実に15億強。
だが、そのうち5億は”契りの剣TM”の情報を貰う際にルィに毟り取られた。
そして今、ほぼ全財産を
「最上階のメリットは何と言っても広大な土地。BOX内のモンスターであれば、牧場収容モンスター数”無制限”です! 更にモンスターの食事やメンテナンスなどの煩わしい作業は全て自動で行われます!」
(……なんと……)
「さぁ、どうしますか?」
(……)
流石に迷う……
だが、ジサンの頭の中でモンスター達が広大な牧場をのびのびと暮らす姿が想起する。
「ちなみに最上階の内装はこんな感じです!」
ダガネルがパネルをジサンに見せつける。
それはまさに今、想像したような広大で和やかな風景であった。
そして、ダガネルはジサンの耳元でぼそりと囁く。
「今なら、最上階購入特典としてQランクのユニーク・シンボル。精霊モンスターズの一人、”フレア”をプレゼント……」
「買うっ!」
こうしてジサンは牧場主となった。
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