28.おじさん、ショーを観る
「君、小さいのによくわかってるね」
シャチのショーを見るために座席で待機していたサラに、隣の白黒の帽子を被った少女が話しかけてくる。
(ん……?)
よく見ると、この帽子はシャチなのか……? とジサンは思う。
リアル・ファンタジーが始まって以来、こういった奇抜な装飾品をしたり、髪色をファンタジー風にしたりするプレイヤーが増加した。
故に、サラから角が生えていても特段、誰も気にしない。
「お姉ちゃんもシャチ好きなの?」
「愛しているね」
「へぇー! 趣味が合いますね!」
(……珍しくサラが他人と意気投合している……!?)
これは保護者としては喜ばしいことだ……と勝手に思っているジサンであった。
◇
「始まるね! お姉ちゃん」
「うん! 始まるね!」
サラと少女は両のこぶしを胸の前に出し、まるで幼い子供がワクワクするかのように待機している。
『お待たせしましたー! まもなくシャチショーの始まりです』
気分を高ぶらせるようなアップテンポのバック・ミュージックと共にシャチ達が軽やかに泳ぎだす。
「「「わぁああああ」」」
「「「きゃぁあああ」」」
開幕一番、シャチが水面から飛び跳ね、背中を水面に打ち付ける。
その衝撃で大量の水しぶきが観客席に容赦なく降り注ぐ。
当然、それは事前に予告されていたため、前列に座っている観客の防水対策は万全だ。
子供達やお祭気質な大人はむしろ濡れることを楽しんでいるようであった。
ジサンはなぜか空いていたギリギリ濡れない、かつ、観賞にはちょうどよい高さの最良のシートに座っていたので水害の恐れはない。
「すごいですね! すごいですね! マスター!」
「お、おう……」
シャチ達はトレーナーを背中に載せて泳いだり、水槽の外枠ギリギリのところを迫力満点に飛び跳ねたり、時には陸上に飛び出し、愛嬌のある姿を見せたりして会場を沸かせている。
◇
ショーも中盤に差し掛かり、雄大な海を思わせるクラシックなバック・ミュージックが流れている。
『シャチは体長最大9メートル、体重は8トンにも及ぶ巨大海洋生物です』
アナウンスを背景にその大きさをひけらかすかのように最も大きな個体がプール中央で高くジャンプする。
「わぁーー! マスター……! 大きいです! 大きいです!」
サラはジサンの二の腕を掴みながら素直な子供らしく興奮する。
『その巨体にも関わらず、水中を時速70キロメートルもの速さで泳ぐことができます。その鋼の肉体は自然生物最強と言っても差支えないでしょう』
「その上、知能も高い」
少女はアナウンスの説明が不十分であったのか補足している。
『そんなシャチが突如、モンスターと化したらどうなるでしょうか?』
「………………え?」
会場は凍りつく。
◇
冷静に考えれば、考慮に入れるべき事態であった。
“回帰日”。仕様変更以来、時々、ダンジョンが元の姿に戻る。
では、従業員はどうなっているのだろうか。
人間は一律、プレイヤーにされたはずだ。
つまり従業員は当然、NPCであった。
そして、人々の安全が保障されているのは非武装地帯(通称、DMZ)のみ。
ここは非武装地帯ではない。
◇
辺りは海中を思わせる広いフィールドに変貌する。
シャチはどこかへ吸い込まれるように消滅し、代わりに禍々しい姿となって
トレーナーはデーモンのように姿を変え、シャチの背中に載る。
「「「きゃあああああ!!」」」
当然、会場はパニックに陥る。
観客達は少しでもそれらから離れたいという生存本能の元、散り散りに逃げ惑う。
(やば……出遅れた……俺達も逃げるか……)
周囲の反応に、ジサンも少々焦る。
その間に、停止していたシャチがゆっくりと動き出す。
とその時、誰かが透き通った声で叫ぶ。
「魔法:ギガ・スプラッシュ!!」
(……?)
多数の水柱が”敵陣営”に襲い掛かる。
ふと横を見ると、隣の少女がマント姿に変わり、杖を掲げていた。
そして言う、
「私は今、猛烈に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます