27.おじさん、水族館子守り

「仕様変更以降、一部のダンジョンはこうして時々、以前の姿に戻るようになったようです」


「まじか……」


 ジサンはAIから配信される”重要なお知らせ”以外の通常の”お知らせ”は全部見ているわけではなかった。


「そうですそうです。ちなみにマスターは”リアル・ファンタジー”を支える三つの技術を知っていますか?」


「えーと……確か……具現……なんだっけ……」


「”亜空間凍結技術”、”異次元接続技術”、そして”具現現実技術”です」


「あー……そうだっけ……」


(いや、前二つは全く知らないのだが……具現現実技術は聞いたことがある)


 具現現実技術……通称、リアル・リアリティ(R2)は、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)からの飛躍技術としてAIに乗っ取られる以前から理論の提唱自体はされていた。


 仮想空間で想像されたモデルを現実重畳ちょうじょうするという正に魔法のような技術であった。


「この回帰日は三本柱の一つ、”亜空間凍結技術”の賜物というわけです」


「……なんて?」


「亜空間凍結技術です! ざっくり言うと、空間そのものを別の亜空間にてコールドスリープしておくというものです」


「なるほど……」


(……わからん)


「というわけで、今日はめいっぱい水族館デートを楽しみましょう!」


「え? ……あぁ」


(……全くませた子だ……)



 ◇



「うわー! すっごい綺麗! すっごーい!」


 サラはきゃっきゃっとはしゃぐ。


「カメさん! カーメさーん」


 浅瀬を再現したような展示では、美しい砂地に多種多様な珊瑚、透き通った海水の中を小魚や子亀が自由気ままに泳いでいる。


「カメさん! カーメーーさーん」


 サラは子供らしくアクリルにべたっと貼りついて子亀にしきりに話し掛けている。


 子亀が不思議そうにサラを横目に見ながら、プカプカと気持ちよさそうに浮いている。


「サラ……小さい子が真似するぞ」


(あと……角でアクリルが傷つく危険が……)


「あっ……すみません……マスター」


 サラは注意されると、すぐに離れる。


「マスター! あっちにも何かあるようです! 行ってみましょう!」


「あぁ……」


 サラはずいずいと通路を進んでいく。ジサンはそれに離れすぎない距離で付いていく。



 ◇



「やっぱりカモオーと言えば、これ! シャチのショーですよね!」


(そうだとは思うが……)


 何で生後一年強のお前がそれを知っているんだ? やはり例のデータアー……なんちゃらに情報が格納されているのだろうか、などとショーの会場のシートに腰かけながらジサンは考える。


「シャチのフォルムって素敵! 無駄がないし……それにカッコいいのに何となく愛嬌があるところとかマスターに……」


「お、おう……?」


「何と言っても自然生物最強のところが……」


「わかってるね。少女よ」


(……え?)


 隣にいた少女が突如、サラに話しかける。


 そこにいたのは神秘的な銀髪に二本のおさげ、黒地に白い目のような模様の帽子を被った華奢な少女であった。


(この少女……どこかで見たことあるような……)

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