25.勇者さん、血迷う

 強い……ただただ強い斬撃が地面に叩きつけられる。


「えっ……?」


 バンダナや狂気の女もその衝撃音に気付く。


 地面には一筋の地割れに近い巨大なひび割れがある。


「「「「うわぁあああ゛あああ゛ああ」」」」


 次の瞬間には阿鼻叫喚に陥る。


 地割れの周囲が一気に崩壊を始める。


「なになになにぃいい!?」


 女が声を上げるが、そんな間にも、襲撃者達のHPは次から次へと吹き飛ばされ、バタバタと倒れる。


「何なんだこれぇえええ!! ぐわぁあ!!」

「きぁあああああああああ!!」


 そしてついにバンダナと女のところにもその衝撃は到達する。


 誰かが私を助けに………………


 …………って、えぇ? えぇええええ? わ、私も巻き込まれてるぅうううう!!


 ツキハは行動停止となった。



 ◇



 意識が朦朧としている。


 行動停止になったから?


 十数人が力を失い、転がっている現場に足音が聞こえる。


 その足音はこちらに近づいてくる。


「げっ! 茂木さん!?」


 …………茂木? 誰?


 だけど、この声は……



 ◇



「はっ……!」


 ツキハは目を覚ます。


「…………」


 ダンジョンの外、恐らくどこかの宿の一室であった。


 ツキハはソファに寝かされていたようだ。


「あ…………パークのすぐ近くの……」


 ウエノクリーチャーパークが目と鼻の先にある宿であることに気が付く。


「きゅぅううううん」


「っ!」


 そこにはジサンが連れていたフェアリー・スライムがいて、ツキハが目覚めたことを確認すると、一つ、開かれていた窓から静かに去って行く。


「あっ……ちょ……」


 おじさんだ……あのおじさんが助けてくれたんだ……



「うむ、大丈夫そうだね?」



「っ!?」


 急に誰かの声がして、ツキハがその方向を見る。


 窓のサッシに幼げな少女が腰かけている。


「……サラちゃん?」


「そうだよ」


 サラは偉そうモードでいきたいのだが、今後、ジサンがこの人間と関わりを持つ機会が増えるかもしれないと思い、多少、遠慮気味になり若干の口調迷子になる。


 だが、急に窓のサッシに現れたという事実だけで、ツキハには充分、”この子も只者じゃない”と思われているのであった。


「えーと……」


「マスターに一応、大丈夫そうか確認しといてくれと言われましてな」


「そ、そうなんだ……あ、あの……ありがとう……」


「ふん……大丈夫そうなら大丈夫じゃ……です」


「……」


「それじゃあな……です」


 サラは窓から去ろうとする。


「あ、ちょっと待って!」


「ん……?」


「あ、あの……あのおじさんは何者なの?」


 ツキハは恐る恐る聞く。



「うーん、そうだな…………ただのダンジョン好きのおじさんですよ」



 サラは嬉しそうにニコリとしながら言う。


「え……?」


「それじゃあな……」


「…………あ……行っちゃった……」


 …………


 ジサンさん………………いい人だったな……


「って、何考えてんだよ!? 相手はおじさんだよ……!」


 それに……


「…………」


 ツキハには想い人がいた。


 その人物は、とある女性とある意味”同棲状態”であったのだが、それでも彼女の脳の恋愛を司る部位、腹側被蓋野ふくそくひがいやは全てその人物で満たされていた。


 だが、どうやらテイム武器の効果が幾分、あったようである。


 その器の中に、ほんの少しだけ謎のモンスターおじさんの領域が確保されたのであった。



 ◇



 絶対に……絶対にあいつだけは許さない……


 この私をコケにしやがってっっ……!!

 奇襲なんて卑怯極まりないっっっ!!

 小嶋の分際で! 小嶋の分際で!! 小嶋の分際で!!!


 茂木彩香はたくましかった。

 常人なら二度と関わりたくないと思うのが普通だろう。だが、彼女は違ったのだ。恨みが原動力となる。そういう人間も確かに存在する。だが、単純な恨みというわけでもない。彼女の場合、やや特殊な因縁が小嶋三平との間に存在していた。


『なぁ! 彩香!? あれって罰ゲームだよな?』

「っ!?」


 カスカベ外郭地下ダンジョンの一件以来、風化しかけていたその因縁がウエノでの出来事により歪な形で、より強固な姿で再燃してしまう。


「これ以上、最悪な罰ゲームがどこにあるって言うの……?」

 彼女は独り言を呟く。


 しかし、彼女は力量の差が分からない程、馬鹿でもなかった。実力勝負では絶対に勝てない。


「いいのあるじゃない……」


 だからこそ彼女はボスリストを眺め、ほくそ笑んだ

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