11.おじさん、ショッピング
――2041年7月
(眩しっ……暑っ……)
世界がゲーム化しても変わらなかったもの。
太陽の光。
季節もあり、その強い朝陽をジサンは久方ぶりに浴びる。
なんとゲームが始まってから二年三カ月もの月日が経っていたのだ。
(って、なんだこれ……)
初めて使用したダンジョン脱出アイテムでワープした場所はカスカベ地下ダンジョンの入り口。
カスカベ地下ダンジョンの入り口はまるで登山口のように賑わっていた。
これからダンジョンに挑むのであろう武装をしたプレイヤー達が、ある者は希望に満ちた顔、ある者は不安そうな顔で出発を待っている。
そのプレイヤー達の浮かれた気分に付け込むかのように行商人らしき人達が屋台を展開し、それなりに繁盛しているようだ。
(このダンジョン……こんなに挑戦者いたのか……?)
と、少し驚きながらもジサンはサラを連れ、そそくさとその場を離れる。
ダンジョン入り口を離れると住宅街が広がっていた。
ダンジョン形成地域以外はそれ程、劇的な変化があるわけではないが、AIは雰囲気作りを大切にしているのか、街は全体的に緑が多くなっている。
目に付く違いとして、乗用車が走っていない。
交通はかなり制限されており、ボスを倒すことで解放されるバスが主な移動手段となっていた。
ジサンは人の視線を感じ、あることに気づく。
(住宅街では皆、私服を着ている……!)
なお、街中にも頻繁ではないがモンスターが出現する。
衣装についてはワンタッチで変更可能なため、ダンジョンに挑む時などを除いて、人々は私服で生活しているようであった。
仕方がないので、ジサンも慌てて私服へと変更する。
やれやれ……と思ったのも束の間、先程よりも強い視線を感じる。
(……な、何だ?)
「マスター……マスターが着ている初期服は、かなりアバンギャルドなファッションのようです」
「な、なるほど……」
思えば、この初期服のままダンジョンに潜り、以降はドロップ品の装備でやりくりしてきたからな……
ダンジョンの
どうやらダンジョン限定で使用できるもののようだ。
いや、仮に使えたとしてもパジャマはまずいだろ……などと考えながら、ふと先ほど助言してくれた少女の方を見る。
(………………いや! それ以上にお前の服装がやばい!!)
まずは服を買わなければ……
そう決意するジサンであったが。
(服ってどうやって買うんだ……!?)
◇
「マスター……ここです!」
サラに連れられ、やってきたのはショッピングモール。
(サラに外の世界を……と連れ出してきたが、もしかして俺はサラより世間知らずなのでは?)
「サラ……お前っていつ生まれたんだ……?」
「ご存知の通り、生後三日です」
「ほ、本当か!?」
「えぇ……まぁ、勿論、データアーカイブと……あとは僭越ながら多少のGM権限がありますので……」
(えっ? データアー……なんて? GM権限?)
ジサンはふと考える。
そう言えば、こいつって何者なのだろうか。
アンドロイド? ホムンクルス?
機造人間的な何かか?
魔族と言っていたが、あれは設定か?
(…………まぁ、何でもいいか)
サラの正体が何であっても、彼にとって現在、”唯一の何か”であることは確かであった。
◇
「す、すまんが、自分で選んでくれないか? 無難な奴な」
「承知しました! マスター」
女の子の服装を選ぶことなど不可能と判断したジサンはサラ自身に私服を選択させる。
そして、ジサンはジサンなりに無難な服を買う。
(……余裕で服を買うだけの金がある)
ダンジョンに潜っていたおかげでモンスターがドロップする新通貨”カネ”がそれなりに貯まっていた。
ゲーム開始前、生きていくことのみが許される金しか持っていなかったジサンにとって、そこで生じた何とも言い難い感情は決して小さくなかった。
「マスター……こんな感じでどうでしょう?」
「っお……?」
ジサンが考え事をしている間にサラは自身の私服を選んだようだ。
サラは薄手のパステルパープルのパーカーに黒いスカートという格好をしていた。
ジサンはそれが年相応の恰好であるのかはイマイチわからなかったが……
「……悪くない」
ジサンにとって精一杯の褒め言葉であった。
「あ、ありがとうございます……」
ジサンの遠回しではあるものの”褒め”の要素を含む言葉を受けるとは想定していなかったのか、サラは豆鉄砲をくらったように目を丸くする。
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次話、低ランクモンスターを求めて、ダンジョン巡り
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