12.おじさん、旅をする

「マスター……! いい景色ですね!」


(…………)


 好天に恵まれ、車窓からは美しいリアス式海岸、そして、雲間から差し込む光で色合いを微妙に変えるあお、太平洋が望める。


 今はこの海岸の少し先に不可視領域があり、日本から出ることはできない。


 外の世界はどうなっているのだろうか……などとジサンはふと思う。


「バスの中ではあまりはしゃぐなよ」


「はい……マスター」


 車窓に貼りついていたサラはシートに真っ直ぐと座り直す。


 二人は、バスに揺られて、海沿いの道を行く。




 ジサンとサラがカスカベ外郭地下ダンジョンを後にしてから二か月が過ぎていた。


 ジサンは、サラが想定していた以上に外の世界を知っているようであったため、地下ダンジョンに戻り、100階層を目指そうかとも考えた。


 しかし、その際、ふとモンスター図鑑の低ランクがあまり埋まっていないことを思い出す。


 地下ダンジョンの地下低層には、プレイヤーがいることが想定できたため、人にあまり会いたくなかったジサンはAやBといった低ランクモンスターのテイムを諦め、深部へ向かったのである。


 カスカベ外郭地下ダンジョンには棲息していない、あるいは配合では生成できないモンスターもいるようで図鑑はかなり空白が目立っていた。


 そこで、ジサンはこれを機にカスカベ外郭地下ダンジョン以外のダンジョンにも進出することを決めたのである。


 ジサンはカスカベから北上する旅を始める。


 ウシク巨像ダンジョン、オオアライミリタリーダンジョン、ナミエ疾走ダンジョン、ザオウカルデラダンジョンなどが訪れたダンジョンの代表例だ。


 これらのダンジョンを周遊した結果、三日もあれば一つのダンジョンの隅から隅まで探索できることにジサンは驚いた。


 そんなこともあり、ジサンはサラにカスカベ外郭地下ダンジョンがどこまで続くのかを訊いてみた。

 しかし、サラは平謝りしながらもプレイヤー時に”秘匿度の高い攻略情報”の提供は禁止されている旨を伝えてきた。


 ジサンはこれに納得する。むしろ、普通のプレイヤーが知り得る一般的な情報は提供してくれたため、助かっていた。


 いずれにしても、モンスター収集は極めて地道であった。


 一つのダンジョンで、新種は2~3匹。

 1匹ということも珍しくはなかった。


 更にカスカベ外郭地下ダンジョンに比べ、レベルが低すぎるため、全ての敵を一撃で倒せてしまい、被ダメージは雀の涙、自身のレベルは全くという程、上がらなかった。


 また、茂木彩香が言っていたように”魔物使役”の知名度はほぼ皆無であったようで、ジサンは目立ちたくなかったため、使役モンスターを使用するのも控えていた。


 それでもジサンの中に憤りはなかった。


 それは、きっと日本中を変な山羊娘と旅するのが純粋に……


 それはジサンが久しく忘れていた感情であり、まだ、その感情を上手く解釈することができなかった。



 ◇



「マスター……このダンジョンは無数の小島があるようです。地図埋めマッピングが結構大変そうですね」


「そうだな」


 二人が本日、挑むはマツシマイニシエダンジョン。


 カスカベ外郭地下ダンジョンは無骨な岩肌が続く、典型的なダンジョンであったが、他のダンジョンは必ずしもそうではなかった。


 地上ダンジョンは大地から空へと向かう階層構造となっており、各階層は緑豊かな森林となっていたり、メタリックな宇宙基地のようになっていたりと多種多様であった。




「ま、またここか……」


「まるで嫌がらせですね」


 マツシマイニシエダンジョンは小島と小島の間をワープ床により移動できるギミックになっていた。


 時々、トラップがあり、地下の小さな小部屋に飛ばされたりもした。そこには他より少し強めに設定された敵がいたが、二人にとっては誤差にすぎなかった。


 42になっていたジサンは記憶力の衰えが多少、見られ、何度も同じところを行き来してしまったが、夏から秋の変わり目、空は蒼く、気温も平均気温よりは冷涼で冒険日和、何より美しい景観のおかげでそれ程、苦にはならなかった。


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 メカカモメ     ランクA

 コマッチャン    ランクB

 スカイ・フィッシュ ランクB

 ウミイヌ      ランクB

 マッチャン     ランクC

 ==========================


「マスター……! 大量です!」


「そうだな」


 三日間の探索により、これまでのダンジョンでは最大でも3体だった新種のモンスターが5匹も発見できて、ジサンはそれなりに満足していた。


(……マッピングコンプリートもできたし、そろそろ次のダンジョンへ……って、ん?)


「どうしました? マスター」


「…………なんかマップのこの部分、表示が二重になってないか?」


「……確かにそうですね。まるで下に何かがあるような……」


「下……」


(!!)


 よくよく見ると、他にも一か所、二重になっている箇所があった。


 その場所は小さく、ちょうど何度かトラップで飛ばされた小部屋と同じくらいのサイズ感であった。


「ひょっとして、これ……地下か……?」


「そ、そうかもしれないですね」


(……仮に地下だとして、どうやって……。……っ!!)


「サラ、試してみたいことがある」


 ジサンは思い付く。どういう結果になるかは分からないが試してみる価値はある。


「マスターがやることなら何だって……! 例え、火の中、水の中、草の中♪ 森の中、土の中……」


「それな」


「え……?」


 地下1階には一度、行っているのだ。どこに出るかはわからないが……


「特性:地下帰還」



 ◇



 そこは確かにマップで確認したくらいのサイズの大部屋であった。


 辺りを見渡すとポツンとある大型の派手な椅子に人間の女性の姿をした何かが座している。


 赤いロングヘアにオリエンタルな衣装に身を包み、スタイル抜群のグラマラスボディ、特徴的な蝙蝠こうもりのような羽が頭についており、妖艶な雰囲気を放っていた。


 そして、ジサン達を視認し、言葉を発する。


「よくぞ参った、旅の者。我はいん魔王:ディクロ……問おう、其方そなたらは我に挑みし者か?」


(い、いん魔王……だと……!?)

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