06.おじさん、ランクSを野に放つ
「…………」
ジサンは硬直する。
頭が真っ白になっているのだ。何しろ、会話そのものがダンジョンに潜って以来初めてであった。
「マスター……?」
サラは尻餅をつき、硬直するおじさんの顔を不思議そうに覗き込む。
「あ……あ……ぁ……」
ジサンはまるで脳に電極でもぶっ刺されているかのように五十音の最初の言葉を発する。
「……っ! い、いきなり大胆ですね……で、ですが……承知しました。マスター!」
サラはジサンの言葉をどう解釈したのか不明であるが、突如、ジサンに接近し、その細い指で手早くおじさんパジャマのボタンを一つ、はずす。
「っ……!! ちょ、ちょっっっと待って!」
ジサンはその衝撃で言葉を取り戻す。
「あ、はい……失礼しました」
そう言うと、サラは素直に離れる。
「ちょ、ちょっと状況確認するから、そこで待っててくれ」
「はい! マスター!」
サラはちょこんと正座する。
ジサンはまずモンスター図鑑を確認する。
(サラ……Sランク……確かに載っている……)
これまで所有モンスターの中でPランクが最高であったため、図鑑上は大量の空欄があり、その中でポツリと”サラ”だけが表示されている。
PランクとPランクの配合で一つ上のQランクが出る確率は10%。
二つ上のRランクが出る確率は1%。
Sランクは0.1%。つまり、1000回に1回。
天文学的数値というわけではないが、初めてのPランク同士の配合でそれが起こるのがかなりの幸運であることは間違いない。
ジサンは恐る恐るサラの詳細ページを確認する。
(ユニーク・シンボルだと!?)
サラのページには”ユニーク・シンボル”とだけ書かれ、モンスターそのものの説明は一切、記載されていなかった。
(……なるほど……で、何でこいつはキャンピングツール内で具現化してるんだ……)
使役対象にしていたダーク・フェアリーを配合の素体としたため、配合直後、サラが使役対象になっているのは仕様通りであることはジサンも理解していた。
しかし、キャンピングツール内ではこれまでのモンスターはAIが作り出した謎空間に転送され、その姿を消していたのだ。
(……とりあえず喋るとかマジ勘弁なので、少し引っ込んでいてもらうか……)
ジサンは一体限定である使役対象をサラからナイーヴ・ドラゴンに変更する。
(…………)
「…………っ!」
ジサンが何の変化も起こらない自称魔族を訝しげに眺める。
サラはそれを見て、恥ずかしそうに視線を逸らし、頬を染める。
(なんで消えねえんだよ!!)
ジサンは頭を抱える。
「…………」
ジサンは再度、サラの方を確認する。
サラは不思議そうにジサンの方を見つめ返す。
「っっっ」
(ダメだ……! 俺にはこんな澄んだ瞳をした子、育てられねえ……! この子には悪いが……これはきっとこの子のためだ……)
[本当に”サラ”を逃がしますか?]
[はい]
「…………」
「あの…………」
「はい!」
サラは正座をしてニコニコしている。
「あの…………ど、どうしたの?」
「えっ……? 何がでしょう。マスター」
「え、えーと…………ごめん、君のこと逃がしたんだけど……」
「えっっっ!? 私、逃がされちゃったんですか!?」
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次話、サラが仲間になりたそうにこちらを見ている
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