第34話 ケンゼンナカラダにはナニガやドル?
リナニエラが冒険者として活動する時の格好は、基本的には動きやすい格好になっている。
着替えを終えて、今のリナニエラが身に着けている服装は、ハイネックの厚地のあるシャツの上に膝丈位までのチュニックを身に着け下にズボンを履いているような格好だ。その上にはローブを身に着けている。
冒険者として活動している時はこの格好に防具として、胸当てをつけていくというのは定番の恰好だ。普段、魔法をメインに活動はているけれども、基本ソロで動いているから、パーティーで組んでいる人達のようなTHE ・魔法使いのような格好ではやはり防御力が心もとないのだ。
「さてと……」
下ろしていた髪の毛を手櫛整えた後、リナニエラは後ろで髪の毛を結わえた後、髪の毛を中ほど辺りでももう一度結わえた。見た目がレンコンのようだとは思うのだが、これが髪の毛のまとまりが良いのだから仕方が無い。鏡でバランスを確認した後、リナニエラは傍らでじっとこちらを見つめているマロとトープに目をやった。
二匹とも、外に出られるという期待からなのだろうか、目がキラキラとしている。マロに至っては尻尾がぐるんぐるんと盛大に回っていた。
「行きますか!」
そう言えば、リナニエラの言葉に反応するように、マロとトープが反応する。それに笑顔を見せた後、リナニエラは自室のドアを開いた。
「お嬢様?」
廊下を歩き始めた時、部屋の掃除をしているメイドが声をかけてくる。自分が冒険者として出かける時と同じ格好をしているのを見て驚いた顔をしている。エドムントから自分が家の中にいるように言われた事を知っているのか、慌てた顔だ。
「大丈夫。庭でマロ達と一緒に身体を動かすだけだから」
そう言えば、彼女は少し安心した顔をして、『ご無理なされませんように』と声をかけてくる。それに、手をあげて答えた後、リナニエラは自室がある二階から下に降りる階段をマロとトープを伴って歩いて行った。
「さて……と」
外に出るとリナニエラはまず庭を見渡した。屋敷の前にある庭は、貴族街の大通りに面している。もちろん、通りを歩く人も多いから、庭師も力を入れて庭の手入れをしている。時折兄と一緒にこの場所で手合わせをしていて、時々芝を荒らして庭師や家の者に怒られた事が何度もある。兄と手合わせをするだけで、あれだけ荒らすのだ。召喚獣と連携すれば、この整えられた庭が荒れ果てるのは間違いないだろう。
「じゃあ、裏庭かしらね」
少し考えた後、リナニエラは正面とは逆側の庭へと向かう。こちらは、通りにも面していないし、人目も少ない。ここなら、召喚獣と少し暴れても大丈夫だろう。
申し訳程度に手入れをされている庭に立ちながらリナニエラは自分をじっと見つめているマロとトープに目をやった。外に出たせいもあるのだが、普段よりも生き生きとしている召喚獣達を見て笑みを浮かべる。
「じゃあまず、君達がどこまでの身体能力があるのか確認しなくちゃね。トープもどれくらいの大きさがあるのか確認しないと。召喚獣の授業の時も小さいままだったからね。最初に見た時以来かあ」
そう言えばトープは嬉しそうな顔をする。やはり小さな身体でいる事はトープにとっても、窮屈のなのだろうか。うれしそうに尻尾を振るトープを見てリナニエラはそんな事を考える。
「とりあえずは、身体を動かそうかしら。昨日は何もしていないから、まず走り込みから」
そう言うと、リナニエラは庭を走り始める。それを追いかけるようにマロと、トープもそれを追い始めた。
「ふぁいとー! ぜ、お、ぜ、お、ぜ、おー!」
走る時に癖になっている掛け声を口にしながら、リナニエラは庭を周回し始める。元々この掛け声自体は、前世の自分が小学生の頃夕方に見かけたサッカー少年団の掛け声だ。放課後よく聞いていたのが、前世でもそして、リナニエラになった今でも耳に残っていたのだ。
『最早、クセよね』
自嘲気味に笑いながらリナニエラは庭を身体が温まるまで庭の周回を続けた。
身体が温まった後は、体操だ。これにも、『いち、に、さん、し』と掛け声をかけていく。ポイントは最初の4までの掛け声は張り上げるような声で、そして、5から8までのカウントは低く言う。これも、サッカー少年団の掛け声の真似事だ。屈伸、足を開脚してのストレッチをして、身体を解す。マロ達も自分のやっている事を見て、思う所があったのか、マロは背中を丸めたり身体を伸ばしたりをするのを繰り返しているし、トープに至っては見よう見まねでリナニエラと同じ動きをしている。シュールなのか、コミカルなのか分からない動きをしているトープを横目にリナニエラは身体を動かし続けた。
「さ!て! 始めますか!」
身体が温まって来た後、リナニエラは傍らに控えている召喚獣達に声をかけた。
「ガウ!」
「ギュイ」
勢いよく返事をする二匹を見て、リナニエラは目を細めるとマロを見つめる。
「マロ、その場でジャンプしてくれる?」
そう言えば、マロは『ガウ』と一つ吠えた後、足に力を入れるとその場で高くジャンプをした。その場で助走も無しにマロは二階の窓の辺りまで飛び上がった。
「おぉ!」
そのまま音もなく軽く着地したマロを見て、リナニエラは声を上げる。元々犬種のジャンプ力はあるが、やはりすごい。助走をつければ三階くらいまでは飛び上がれそうだ。
『しかも、まだマロは大きくなる予定。どこまで体力が上がるのか、予測が付かないわー』
そんな事を考えながら、マロを見つめていれば自分の指示通りにジャンプをしたマロは褒めて欲しいのだろう。目をキラキラさせながら振り返って来た。
「マロ! すごーい!」
期待を裏切らないように少し大げなな口調で、マロを褒めて身体を撫でてやれば、マロの白い尻尾が小刻みに横に振られる。どうやら、褒められて喜んでいるらしい。
耳を後に倒して嬉しそうな顔をしているマロの様子を傍らで見つめているトープが羨ましそうな顔をしながら見つめている。
「トープ、大きくなれる?」
尋ねれば、トープは『できる』というように頷いた後、身体を伸ばす。それと同時に、トープの身体が大きくなり始めた。
「おぉ!」
めきめきと大きくなるトープの身体をみて、リナニエラが声を上げる。小さな見た目だとかわいらしい姿も大きくなると凛々しく、神々しくもある。前世プレイしていたゲーム内でもドラゴン種というのは別格だ。敵だったり味方だったりするけれども、やはり憧れという物は存在するのだ。普段は小さいせいでそれほど感じなかったのだが、原寸大になったトープは格好いい。
「いいなぁ」
黒い体躯を見上げながら、リナニエラがそんな言葉を口にすれば、それが聞こえたのか、大きくなったトープと視線があった。その瞳にどこか得意げな顔をしているように見える。
「背中に乗って良い?」
好奇心に負けて声を掛ければ、トープは『心得た』とばかりに身体を低くする。そのまま、背中に飛び乗れば、自分に乗ったリナニエラが嬉しいのか、トープが首を曲げてこちらを見つめてくる。それを見てリナニエラは笑いながらも、ドラゴンの身体を撫でた。黒い鱗は太陽を反射して、きらきらと輝いている。もし、新陳代謝があって、鱗が生え変わるなら、何かに使いたいくらいにきれいだ。
『飛び上がっても?』
自分の乗せて少しうきうきした様子のトープが尋ねてくる。目がキラキラしているのが分かってリナニエラは頭を巡らせる。父のエドムントは『家』から出るなと口にしていた。それを破るのはリナニエラとしても避けたい所だ。だが……
「家の真上って、家の敷地に入るのかしら?」
首を傾げて考え込めば、トープもリナニエラを真似るように首を傾げた。その姿に顔をにやけさせていれば、傍らでマロが『ガウ』と吠える声が聞こえた。
「まあ、領空権っていうのもあるし……」
ボソリと呟いた後、リナニエラは空を見上げた。
「ま、いいか……」
深く考えても仕方が無い。真上に飛びあがる分には問題が無いだろう。
「トープ、真上に飛び上がれる?」
尋ねればトープは嬉しそうな声を上げると、ふわりと上へと飛び上がる為に翼を動かす。翼を動かす反動が騎乗している自分にも来ない事から、トープが風魔法か何かを使っているのが分かる。ほとんど振動もなく滑らかに飛び上がるトープにリナニエラは感嘆の声を上げた。下ではマロが吠えている声が聞こえる。段々高くなる視界。下に見えるのは王都の街並みだ。
「すごい……」
小さく呟けば、それに応えるようにトープが声を上げる。普段は『ギュイ』と小さく鳴くドラゴンだが、今日は遠くまで響き渡る声で咆哮を上げる。力強いその声にリナニエラは笑顔を見せた。
「そういえば、こんな風に王都を見るのって始めてじゃないかしら」
そう呟いて、リナニエラはトープの身体を撫でる。そして、そのまま眼下に見える街並みを眺め続けた。
だが、リナニエラは知らない。トープが飛び上がった事で、眼下に見えている街の人間が大騒ぎになっている事を。そして、その騒ぎを聞きつけたエドムントが王城から引き返す事も。そして、今の事が原因でリナニエラがとんでもなくしかられる事も、今のリナニエラは知る由もなかった。
□ □ □
お読みいただいてありがとうございました
前半のリナニエラが冒険者の格好を決めるのに服装を描こうとしたのですが
思うように描けずにストレスマックスでした
軽装備とも重装備言えない程度の格好のつもりなのですが・・・ね
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