第31話 分からない事は調べてみればいい

「えーっと……」


『どん』と机の上に置かれた金属製の板の上に水晶が置かれた物体を見ながらリナニエラは戸惑った顔をした。机を挟んだ状態で、父であるエドムント(なぜか、登城していたのに昼から帰って来た)と、母のナディアが困った顔をして立っていた。そして、二人の傍らには、マロとトープがいる。なぜ、契約している自分じゃなくて、両親の元にいるのかが納得できないが、リナニエラはとりあえず両親の顔を見つめた。


「こ、これは一体?」


恐る恐る尋ねれば、エドムントは『はあ』とため息を漏らした後、机の上にある物体視線を落とした。


「これは、魔力測定器だ」

「まりょくそくていき……」


思ってもみない単語が出てきて、リナニエラは眉を寄せる。魔力測定器という単語には聞き覚えがあった。リナニエラが五歳の時に、魔力量と属性を測定するために、教会に行った事があった。あの時に見たのは、高そうな布の上に置かれた大きな水晶玉のような物だったはずだ。今回の物は、水晶の前に金属板の板がある。何だかその板が昔の生で見たディスプレイの様にも見えてリナニエラは複雑な気持ちになった。

そんな気持ちを押し込めて、オウム返しのように呟いた自分の言葉を拾っていたのは、エドムントは難しい顔をしながら頷く。


「そうだ。だが、これは基本的な魔法量を測定する物では無く、魔術師師団が入団の際に使う物だ。属性や、魔力量まで詳しくでる代物だ。急遽、カルヴェに話をして借りてきたのだ。確認したらまた城に戻るつもりだ」

「カルヴェ……、確か魔術師団団長、カルヴェ伯爵の事ですか?」

「そうだ」


真面目な顔をして話すエドムントに、リナニエラは納得した顔をした。ジェラルド王子の婚約者になったはじめの頃、基本的な知識としてこの国の地理や貴族、周辺諸国の状況などを王城で教育された事があったのだ。もちろん学園でも、この国や貴族の事も学びはするがとりあえず覚えておけばよいという学園の教育とは違い、その時に学んだ事かなり詳細な事まで教えられたのだ。カルヴェ伯爵はこの国の西方に領地があり、魔力が抜きんでていると講師の男性が話をしていた。

頭の中で記憶の中にある貴族名鑑を思い浮かべながら、リナニエラは父の顔を見つめる。とりあえず、目の前の子の物体は、そのカルヴェ伯爵から借りてきた代物らしい。


「ですが、何故そんな大事な物を?」


素朴に頭に浮かんだ疑問をエドムントに尋ねてみる。目の前の物が魔力測定器、しかも高性能な物だという事は分かったけれども、何故それが自分の目の前にあるのかが分からない。目の前には神妙な顔をしている両親の顔。リナニエラは首を傾げた。

訳が分かっていない様子のリナニエラを見て、エドムントは一瞬自分を残念な物を見るような目で見つめた後、眉間を指で揉みほぐす。


「リナニエラ……、逆に聞くがお前は今日、今の時間までに一体どれだけの物を壊したんだ?」


 静かだが、はっきりとした言葉で問いただされて、リナニエラはさっと顔を横に逸らした。そうなのだ。朝一番で壊した花瓶の後、リナニエラは魔法のコントロールがうまく行かずに、朝食で食べようとした皿や、カトラリーなどをこわしてしまったのだ。朝食の後、とりあえず魔法操作をして、どうにか落ち着かせたのだが、どうやらナディアが自分の事を心配して、エドムントに連絡をとったようだ。父自身も自分の事を心配してくれたのだと思うのだが、何故魔力測定器になるのだろうか?

疑問が浮かんでリナニエラが黙り込めば、エドムントは咳払いをした後、リナニエラを見つめた。


「魔力枯渇の後、魔力の総量が増える人は多い。普通、魔力枯渇を起こしやすいのは子供だ。子供は大きくなった魔力に適用するのも簡単なのだが、成長してからだと魔力が不安定になり持てあますものも多いのだ」


難しい顔をして、解説をするエドムントの言葉に、リナニエラは頷いた。

確かに父の言う通り、体感でしかないだが、今のリナニエラの魔力は倒れる前よりも増えているだろう。そして、彼の言葉の通り、リナニエラはうまく自分の魔力をコントロールできずにいる。


「学園の入学式で魔力測定を行った結果をもらってきているから、それと今の魔力量を比較すれば、どれだけ増加したのかが分かるだろう」

「それを、魔力を制御するための足掛かりにすればよいという事ですね?」

「そうだな」


エドムントの言葉に、リナニエラが返事をすれば、彼は肯定するように頷いた。確かに、『魔力が増えました。でも、どれだけ増えたのか分かりません』では、お話にならない。少なくともどれだけ増加したかなどが分かれば、魔力をどう扱えば良いかの参考になる。幼い頃だって、魔力量を増やす為に、バカみたいに魔力を使って魔力制御を自分でやってきたのだ。きっと、なんとかなる。根拠は無いがそんな考えが頭に浮かんだ。それに、リナニエラの頭の中では、先ほどから囁いているもう一つの考えがある。


『今、魔力を測定したら一体どんな事になるのかしら?』


 ちょっとした好奇心が湧くのを覚えながら、リナニエラはじっと目の前にある魔力測定器に目をやった。


「こ、これはどうやって測定すれば?」


見た事のない機械に少しどきどきとしながら、リナニエラが尋ねればエドムントは難しい顔をしながら、魔力測定器に目をやった。


「測定の仕方は、昔魔力を測定した時と同じだ。この水晶に魔力を注ぐだけでいい。そうすれば、この四角いプレートの横にある部分から測定結果が出てくる仕組みだ」

「へぇ……」


 エドムントの説明を聞いて、リナニエラは膝を曲げる事で、視線をプレート部分の横へと併せる。見れば、最初には見つけられなかった、数ミリの隙間が存在している。


「へぇ……」

 

測定結果が出てくるとの話だが、一体どんなものが出てくるのだろうか。一体中身はどんな構造なのだろうか。興味津々でそれを見つめていれば、エドムントが渋い顔をした。


「――、リナニエラ……、分解はしないように……」


熱心な視線を機会に注いでいるリナニエラを咎めるように、エドムントが声をかけてくる。


「……はい」


 幼い頃、魔道具を分解した事があるのが、エドムントの記憶の中に残っていたようだ。釘を刺すように言われて、リナニエラは渋い顔をした。過去の好奇心でやらかした事だが、父は覚えていたらしい。苦い気持ちを抱えながらリナニエラが返事をすれば、エドムントが魔力測定器に向かうように促された。じっと見つめていれば、エドムントは水晶を指で指示した。


「さあ、魔力を流してみなさい」

「は、はぁ……」


エドムントの言葉に促されるようにリナニエラは水晶に手を触れさせる。つるりとした水晶からひんやりとした感触が伝わって来る。


『えっと魔力を流すのだったわね……』


頭の中で父に言われた言葉を反芻しながら、リナニエラは身体の中で魔力を練り始める。手のひらへと魔力を集中させて、水晶へと流し込む。水を流し込むような感覚で水晶へ魔力を流し込んでいく。魔力を流し込もうとすれば、自分の魔力が水晶の中へと流れ込んでいくのが分かった。するりと流れ込む感覚の後、水晶の中心がぼんやりと輝いていくのが分かった。

子供の時は水晶が光った後、自分の属性の色に光った記憶がある。あの時は確か、水晶がある程度明るく光った後、青い色に変化したのだった。


『今回は一体どうなのかしら……?』


少し緊張しながら、リナニエラが次に起こる事を想像していれば、一拍の間の後、いきなり水晶玉がまばゆい光を放ち始めた。


「うわっ!」

「何だ!」


部屋の中が真っ白になるほどの光。リナニエラは咄嗟に目を閉じた。それでも感じる強い白い光。目を閉じる直前、父であるエドムントがナディアを腕の中に抱き込んだのが見えた。今現在、子供が四人いる二人だが、現在も仲が良い。その様子を垣間見てしまって、リナニエラは生ぬるい気持ちになった。眩しさをやり過ごすため、暫く目を閉じていれば、段々光が収まっていく。

まだ、先ほど発せられた光の残像が残っているものの、先ほどまでの強烈な光は収まったようだ。恐る恐る目を開けば、水晶は淡いを光を放っている。


「びっくりした……」


小さく呟きながら、リナニエラは目の前にある水晶へと近づいた。また急に輝きださないかとそろそろと水晶の前に立てば、当の魔力測定器は小さく振動しているのが分かった。先ほど光のせいだろうか、部屋の中にいる全員が緊張しながら、測定器を見つめていれば、小刻みに震えていた測定器の板の部分に、チャートグラフのような図形や文字が浮かび上がった。


「うぉっ!」


いきなりの出来事にリナニエラの口から、貴族令嬢らしからぬ声が出る。さすがに、その様子はナディアには許容できなかったのだろう。鋭い視線がリナニエラに飛んでくる。それに背筋を冷たくしながら、リナニエラは板に浮かび上がったグラフを見る。


「えーっと……」


中身を確認しようとすれば、振動したままの測定器が不意に振動を大きくした。故障したのかとリナニエラは一瞬身構えるけれども、測定器は一度大きく振動した後、沈黙する。そして、板の丁度厚みに当たる部分の溝からカード状の物が飛び出してきた。冒険者になった時に渡されたギルドカードの大きさと同じ位だろうか。紙なのか合金なの素材が分からないそれを手にしてリナニエラは表面に描かれている内容を視線を下ろした。


「あ……」


手のひらに収まるカード状のそれの上には、リナニエラが先ほど目にしたチャートグラフや、数字が表示されていた。その内容を確認しようとリナニエラがじっとそれを凝視していると、傍らから静かな声が聞こえた。


「それは、魔術師団の中で言われていている『ステータスカード』というものだ。本人の魔力量や、本人が持っていている属性が表示されている。これが、魔術師団の配属の時に参考にされるものだ」

「そうなん……ですか――」


そう言いながら、リナニエラは手のひらの上にある『ステータスカード』と呼ばれた物体に視線を落とした。





□ □ □


読んでいただいてありがとうございました

測定結果は次回

最近モフモフ成分が少ないので増やしていきたいです

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