第20話 もしかしてこれが忖度というもの?!

「あはははははは!」


 昼休みいつもの通り、召喚獣たちが集められている広場でリナニエラ達は食事を摂る事にした。もちろん話題は朝張り出された演習の班割りだ。

 チェーリア、ステラとは残念ながら同じ班では無かった。リナニエラと一緒の班に名前が載っていたのは、貴族課の二年の女子生徒の名前だ。ジェラルドに、アリッサ、そして攻略対象にカインその中に混じる彼女が気の毒だ。班割りの結果を聞いてから、チェーリアは笑ってばかりだったし、ステラは何と言ってよいのか分からないのだろう。難しい顔をしている。未だに笑っているチェーリアをじろりとにらむと、リナニエラは屋敷で料理人が作ってくれた昼食を開く。

 中に入っているのは、簡単な軽食と、保温魔法が施されたスープだ。それを口にしながら、リナニエラは自分の傍に寄って来たマロとトープへ目をやった。


「何? お昼が欲しいの?」


 そう尋ねれば、行儀よく座り込む二匹。それを見て、リナニエラは料理人に別で渡されていたチョコチップ入りのマフィンと、コーヒー豆の入った容器を見せた。


「リナニエラ様、それは?」

 

 目ざとく見つけたステラが尋ねてくる。それに、リナニエラは笑うと、少し離れた場所で座っている二匹に目を向けた。


「あの子たちのです」

 

 そう言うと、二匹を呼び寄せた。そして、マロにはマフィンをちぎって渡し、トープには珈琲豆が入った容器を地面に置いた。二匹とも大喜びで食べるのを見つめながら、リナニエラは生ぬるい顔をする。

 コーヒー豆を勢いよくポリポリと食べるトープを見て、ステラとチェーリアは戸惑った顔をした。


「えーっと……これは?」


 説明を求めるチェーリアの言葉に、リナニエラはここ数日で分かった召喚獣たちの嗜好について説明をする。

 ジェラルド達とぶつかった日の晩に、この二匹が人間の食べ物を食べる事、そして、マロの好きな物が甘いもの、トープの好きな物が苦い物だと分かった事を口にした。マロが甘いものが好きなのは二人共納得したようだが、トープが何故コーヒー豆をガリガリと食べているのかが納得いかないらしい。二人は怪訝そうな顔をして、容器に顔を突っ込んでいるトープを見つめる。


「本当は、コーヒーが好きなのですがうまく飲めないのが気に入らないらしくて、それならと豆を食べ始めたんです」

 

 一体どこを探せばそんなドラゴンがいるのだろうと思いながらも、リナニエラが説明をする。実際のところ、コーヒー豆を食べ始めたトープは思った以上にグルメだった。彼曰く、気分で産地やブレンドを変えたいのだそうだ。その時の事を思い出して、遠い目をすれば、隣に座っていた二人が『プッ』と吹き出した。そして、耐え切れないとばかりに声を上げて笑い出す。


「な、なんで?」

 

 まさかここまで笑われるとは思わなくて、リナニエラが反論すれば、二人は目に涙を浮かべながら口を開く。


「だって……」

 

 そこまで言うと再び笑い出した二人に、リナニエラはため息をつくと、自分の食事を進める。その間に、二匹は食事(?)を終えたのだろう。そのままリナニエラの足元までやってくると身体を触れさせるようにして、座る。おそらく、自分達の食事の件で笑われた事に対して慰めているつもりなのだろう。こんな所を見てしまっては冷たい態度なんて絶対取れない。


「もーう!」


 そう言うと、リナニエラは食事を食べ終えると、足元にいる二匹の身体を撫でた。もふもふと、つるつるどちら手触りは最高だ。


「はぁ、癒される」


 しみじみと呟くリナニエラに、隣にいる二人は苦笑する。本来なら、少し貴族らしくない態度なのだが、今のリナニエラの気持ちを慮ってくれているのか、敢えてはしたないとは指摘はしてこなかった。


「でも、殿下とアリッサ嬢が一緒の班だなんて、なんだか変な感じですよね?全体が均等化するなら、他の班でもよかったはずですし」


 至極全うな疑問をステラが口にするのに、リナニエラも頷く。確かに彼女の言う通りだ。この二人を演習で同じ班になんかしたら、間違いなく二人の世界を作って回りが見えなくなる。人の意見だって聞かないだろうし、下手をすれば意見をした人間を立場で押さえつける可能性だってある。


「確かにそうですね」

 

 同意する言葉を口にすれば、首を傾げていたチェーリアが眉を寄せたそして、口を開く。


「考えられるのは、殿下が班の編成に口を出した。もう一つは、問題児を一つに固めて、文句を言える相手を配置した」

「……っ!」

 

 案外的を得ている思われる言葉に、リナニエラは言葉を詰まらせた。ステラもチェーリアの言葉を聞いて、納得するところがあったのだろう。自分に同情するような視線を向けてくる。

 その視線が痛くて、リナニエラは顔を顰めた。本当に、この学園の教師は何という面倒ごとを押し付けてきたのだろうか。


『もう一度、職員室に行って来ようかしら』


 そんな事を考えながら、リナニエラは先ほど自分の言い含めた学園主任の顔を思い浮かべた。

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