第58話 ライブ本番
誰もがはっと息を呑んだ瞬間。
俺はステージに立ち、エンターテイナーとしての立ち振る舞い、そして、完璧と言わざるを得ないほどのパフォーマンスを披露した。
カバー曲やオリジナル曲を交互に披露し、合間合間にちょっとしたトーク的なものを挟む。
「あ、みなさん楽しんでますか?」
俺が一言呟くと、会場は歓喜の声に満ちた。
ドームに響く声、漏れそうなほど大きい音楽。
そして、心に響く、素晴らしい歌詞。
どれも、俺がただ歌っているだけの、言わば俺のものではないものだ。
しかし、誰もが、俺が歌うと俺の歌だと勘違いをする。
伸びのある高音、低く音程を捉えている低音。
俺の音域は昔から広く、カラオケなどに言っても「高くて出ない」や「低くてでない」などはなかった。
どのキーでも完璧に歌えた。
そんな、俺のパフォーマンスを支えているのは、音響のスタッフさんや照明のスタッフさんと言った、裏方のスタッフの皆さん。
俺がアドリブで何かしても、それに合わせてくれる。
ーーーあっ、楽しい。
心の奥にあった何かが、少し変わった気がした。
「健斗様ァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!」
熱狂的ファンである、木葉。
20列目ぐらいの席で発狂。
周りもオタク達が揃っていることもあり、木葉の存在感はそこまでなかった。
そして、2階席に座る勝。
「やっぱり、歌声だよな、、、!」
しんみりとした気持ちで、歌声に感動する。
最後に夏美。
三階席の一番手前の席。
「そんなわけ、、、ないよね、、、?」
昔から、よく遊んでいたこともあり、もちろんカラオケなども一緒に言ったことがある。
よく聞いてみると、その声はカラオケで聞いた時の声と似ていて、どこか心の奥底のざわめきが消えない感じがした。
ーーーありえない、、、。
信じられない気持ちが、彼女の中ではあった。
でも、目の前で光り輝くのは紛れもない、自分の幼馴染であること。
自分の推しを、自分の手で傷つけてしまったこと。
オタ活を続ければ続けるほど、自分をどんどん追い込んでいっている。
そして、彼女は美しい歌声に飲み込まれるように、現実を見た。
★☆★☆★☆★
ライブ1日目も順調に終盤までやってきた。
最後はトークをして、終わるのだが、スタッフから言い渡される、お題の紙が届かない。
全ての曲が終わり、舞台袖にはけた後、アンコールが始まり、それに応えて、トークと。
「すいません!遅れました!」
「どうしたんですか?」
「ちょっと渋滞で、、、」
大きな色紙が届き、そこに書いてあるお題は、俺もステージに立つまで見てはいけないルールとなっている。
そして、裏には特別ゲストの登場と書いてあり、これには俺もびっくり。
「こんにちは〜。皆さん、今日は楽しんでいただけましたか?」
歓喜の声に満ちる会場。
「それでは、えーっと。特別ゲストが来ているみたいなので、そちらをお呼びいたしましょう。どうぞ」
「こんにちは〜!」
え?
混乱状態に陥る。
「現在フリーで活動している、紐苗美鶴です!今日は、よろしくお願いします!」
ん、、、???
微笑ましい表情を浮かべる俺。
「で、では。お題の方見ていきましょう。こちら」
「恋愛トーク!!!」
そして、俺は窮地へ追い込まれる。
やばいやばいやばい!!!!!!
これ考えたの、有闇さんでしょ!!!!!
もちろん、有闇である。
そう、彼女は何か大きいことしてやろう。と考えた末、一番話題として困る、恋愛トークを選んだ。
「八剣さん、こんにちは〜」
「紐苗さんも初めまして〜」
「あ、そういえば初対面ですもんね!初めまして〜」
完璧な嘘で固めるこのトーク。
「八剣さんの、恋愛トーク聞きたいな〜」
「恋愛なんて、してきてませんよ?」
「(は?)」
「(すいません、、、)」
鬼の形相になる、美鶴。
こ、怖すぎる、、、!
最後はマイクで拾わないほどの声での会話だった。
「まぁ、高校生になってからはドキッとする瞬間は多かったですね〜」
「どういう時ですか?」
「ま、まぁ。色々と、、、」
「ん〜〜〜〜!!!!」
満面の笑みを浮かべる美鶴。
クソッ!!あっち側の人間だったのか!
そんなこんなで、無事、ライブ1日目は幕を閉じた。
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