第56話 死ねよ、マジ。


冷たい海に沈んでいくように、俺は過去を思い出した。

思い出せば思い出すほど、沈んでいく。深く、深く。

もかけばもがくほど、取り返しのつかないところまで行く。


誰にも話せない、心の内に秘めている、本当の俺。

どうしようもないほど、自分が出そうで、それを必死にかくして生活してきた。


本当の自分が出た時、誰もが俺から離れていってしまうことぐらい、何もしなくてもわかる。

皆は、俺を知らない。


「会長ちわっす」


「おはよ〜」


「あ、会長おはよ!」


「おはよ〜」


生徒会長になったことにより、俺も人から認知されるようになった。

そう、必死に自分を隠している俺と接している。


誰も知らない、親すら知らない。本当の北条和也。

他の人のことを考えて行動するなんて、もっての他。

そんなことをもしも、心の底からするのであれば、どこかの気の狂いだろう。


あれ、、、?狂い、、、?


自分の行動がフラッシュバックされる。

そして、また沈み込み、過去という深く冷たい海に沈んでいく。

抵抗なんてできない、したら逆に沈んでいくのだから。


ーーー何も考えられない。


どうしようもないほど、楽しかった思い出も。

本当の自分ではない。


ーーー『夏美、、、!』


俺が嫌っていた人でさえ、元は大好きだった人。

行動一つ、言動一つで変わってしまう。


あの時に戻れたらなんて言えない。

今に向き合って生きなければならない。

過去はもう振り返ってはいけないもので、振り返るとすぐに沈み込んでしまう。


もう遅い。


その一言に俺すらも押しつぶされそうだった。



★☆★☆★☆★



新学期初日。

誰もが色々な思いを胸に登校をする日である。

そして、この学校の生徒会長である北条和也は、、、。


ーーーやばい!今日スッキリ起きれすぎて、何も考えたくない!


スピーチという、大事な仕事を思いっきり忘れていた。


今日のスピーチでは、新入生である、一年生が会長のスピーチを聞く、初めての機会。

これからの学校生活を大きく変えるスピーチを、思いっきり忘れていた。


「和也、今日、めっちゃ笑顔」


「春人も笑顔じゃないとダメだよ!えへへ」


「ヤバイ、ついていけない。ていうか、ついていったらヤバそう」


「そんなことないよ〜」


「お兄様、キモい、、、」


「愛実までそんことを言うのか〜ショックだな〜」


「和也くん、大丈夫?体調悪い?」


「その調子でおかしくなって、兄ちゃんはどっかから、飛び降りて死ね」


「木葉ちゃんは、いつも通りだね。あはは、、、」


上機嫌な俺に、周りは混乱する。

それもそのこと、いつも寝不足かつ、寝たとしてもスッキリ起きれない俺は、いつもローテンションであり、無理やりテンションを上げても、深夜テンションって言われるだけの、可哀想なやつ。


「木葉、昨日は寝れた〜?」


「兄ちゃんキモい!死ね!」


「そんなこと言わなくても〜」


そして、謎のテンションで、木葉に抱きつき。

一瞬でリビングが凍りついた。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」


「これまでにないほどの『死ね』の量、、、!」


これには、俺ですら殺気を感じ取り、一瞬でその場から離れる。

そして、卍固めで固められ、今日も1日がスタートした。


「今日のスピーチ、大丈夫?」


「何それ、美味しいの?」


「美味しくないよ?考えてないなら、色んな意味でマズイよ?」


俺の顔は一瞬で青ざめる。


「木葉ちゃんは考えてあるの?」


「まぁ、2回目ですから、何喋ればいいかぐらいわかりますからね」


「あ、ヤバイ。オレ、オワッタ」


北条和也、サービス終了のお知らせが流れた。


「今から考えないとヤバイよ」



★☆★☆★☆★



「なんとか、原稿書けた、、、」


あの後、全力で学校に向かって、生徒会室で原稿を作成。

そして、それをプリントアウトした。


約5分間の簡単な原稿を作った。


自己紹介、実績。などの、最低限のことをまとめた。

そして、最後に一言。


「生徒会長からです」


直人のその声と同時に、俺は舞台袖から登場する。


「生徒会長の、北条和也です。この学校の公式アカウントを運営している、中の人です。フォロワーは2万人を超え、他校との関係も深く、文化祭は3日間かけて行い、他校の生徒との関係も深めていけたらなと思っております」


「そして、最後に」


スクリーンに大きく文字が写し出される。


「今年の目標は、、、」


そして、パソコンのエンターを押す。


「『新しい波を作る』です」

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