第44話 あの時に戻れたら

生徒会長が和也と決まったあの時、彼女は『取り返しのつかないことをしてしまった』と思った。

そして、自分の推し配信者に対して、あんなことをしてしまったこと。

彼女の心には、深い傷を負った。


心の傷は癒しが効きにくい。

そして、自分の失態は大きく、忘れたくても忘れれないものとなった。


「あぁ、、、!もう!」


そして、自暴自棄になり、彼女は頻繁に物を投げるようになった。

こんなことになるとは、思ってもいなかった。

自分の隣にいた人が、実は有名人で自分の推しだったということを。


『もう遅い』その一言に尽きた。


彼が人生をエンジョイしているところは、遠くから眺めることしか出来なくなってしまった。

あのまま行けば、もしかしたら、あの人の隣に立てたのに、、、。


あの冬の失態を、再び思い出す。


そして、右手に持っていたスマホを壁に投げつける。


ーーーあぁ、、、もう、死にたい、、、。


この1週間で何度思っただろうか。

数えきれないほどの、その気持ちと、自分に自殺ができる根性もない。

生き地獄と言っても過言ではない。


Tmitterの元カレのアイコンをタップし、アカウントに入る。

一時間前に、今カノであろう人とのツーショット写真が投稿されていた。


この呟きに対して、心底腹立たしい思いをした。


女をすぐに捨てるような、男だということをわかっていながら、自分は付き合った。

馬鹿だ、大馬鹿者にも程がある。


窓を開けると、向かいの家から聞こえる、楽しげな声。

そう、北条家からだ。


「神様ぁ、、、」


窓を開け、向かいの家に向かって、嘆きの声を上げながら、涙を流した。

和也にとっては、もう関係のない人。

淡い期待を胸に、毎日、ただただ祈るのけの彼女であった。




★☆★☆★☆★




「2000円の罰金!?」


「お疲れ様」


「おつ〜」


家族で人生ゲーム中。

母親が突然買ってきた人生ゲームを囲んでいる。

現在の首位は美鶴、二位は春人、三位が木葉、四位が愛実、五位が母、最下位が俺となっている。


春人と俺の所持金は、0というか、マイナスであり多額の借金を抱えている。


俺は、途中でエンジニアから失業した。

そして、春人は謎に職業が決まらず、職業不定の自宅警備員となっている。


「強すぎる、、、」


「流石、部長!」


首位である美鶴は、リーマンのエリートの道へ進み、現在部長まで上り詰めている。

愛実は職業、芸能人であり、一発逆転はあるが、給料が安定しない職業。

そして、母は公務員。安定性を求めた結果、こうなったらしい。


「え?木葉ちゃんが一気に首位!?」


「宝くじ、、、って!やばいでしょ!30万だよ!」


「ヤバすぎる、、、」


「これは勝ちが確定したのか?」


ゲーム中盤に出てくる、幸せのマスにとまり、木葉が30万円ゲット。

それに引き続き、次の回で万馬券が当たり、20万円ゲット。

超幸運の木葉、絶好調。


「まぁ、このまま行けば、勝ったね!!!」


「あ、それフラグ」


「バカ〜」


もちろん、フラグ回収は早急に済ませていた。

そのまま、奈落の底へと落ちてゆき、さっきの調子は何処へやら、現在4位となった。


失業者である、俺はバイトで確実に貯金を増やし、現在3位。

公務員の母は2位に上がってきた。


現在の一位は愛実。

ドーム公演が成功したらしい。臨時収入10万円を獲得。


ゲームも終盤に差し掛かってきた頃、万年自宅警備員の春人に動きがあった。


「株が大成功。月に一度、5万円を獲得できる」


「え!?強すぎる!」


「いよいよ、誰が優勝するかわからなくなってきた」


「やばいね〜」


「いつの間に株なんてやってたんだよ!」


その後、愛実のアイドル活動は順調に進み、アイドル卒業、2位でゴール。

部長の美鶴は確実に金を貯め、3位でゴールイン。

5位は俺、失業者のまま終了。

木葉は4位、春人が最下位。


そして、、、。


「優勝は母さんです!」


「安定こそ、正義なのよ。覚えておきなさい」


そうして、人生ゲームから、人生論を学んだ俺たちなのであった。

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