第37話 偽りの愛
偽りの愛を受けてきた人は、どこかで薄々気付いてくる。
『自分は周りとは違う』と。
周りとは区別され、まるで別世界で生きているかのような体験をする。
真実ではない、偽りの愛。
「僕は、偽りの愛を受けてきました。だから、僕には人間の心がない」
ざわめく体育館。
マイクを渡された京也が突然語り出したのは、自分の人生についてだった。
「気付いたのは小学校の頃。僕は家柄が、周りとは違う。だから、周りから区別され、普通に接してくれる人がいなかった。正直、僕も過度に気を遣っていることもある。そして、真実の友情と言える、ほどの親友がいない」
「、、、」
落ち込んでいる裏方の俺をチラッと見る。
「北条くん、出てきてくれる?」
「あ、はい」
舞台上に俺はたち、京也と線対象上に立った。
「家の方針で、生徒会長に立候補したんだ。実際、僕は生徒会長なんてやりたくないし、やったところで周りに迷惑をかける一方だということもわかる」
「あ、はい」
「だから、君に生徒会長になってほしいんだ」
「え、、、?」
「真実の愛、真実の友情、そして、人間の心を持っている君が、僕は生徒会長にふさわしい人だと感じている。そして、票も実際のところ、君の方が圧倒的に多い」
「え?何言ってるんですか?ほら、前のグラフに書いているじゃないですか」
「親が仕込んだんだよ」
よく、アニメで聞いたことのあるようなセリフだった。
【仕込み】という言葉に、俺はまた惑わされ、真っ白になりそうだった。
親がそこまでするの、、、?
一般家庭で生まれ育った俺は、見当もつかない話であり、不平等なことをされても、理解が追いつかなく、怒りよりも、彼に対しての哀れみの感情の方が多かった。
かわいそうだ。
目の下のクマ、痙攣している手。
全て努力の証拠であり、彼が親の期待に応えようと、必死でもがいた証である。
「前会長、問題ないですよね?」
「はい、大丈夫ですよ」
「それでは、改めて。新学期からは北条和也が生徒会長となることになりました」
体育館からは、拍手が送られる。
そして、安堵のため息をついた。
緊張からの解放と、今まで答えれなかった期待に答えれた嬉しみの感情。
全てがこもったため息だった。
そして、京也はマイクを口元から離し。
「この学校をよくしてくれ、俺はもうすぐ、この国を飛び立つ」
「え?」
「生徒会長になれなかったら、海外へ留学するって約束なんだ。僕もそれは拒否してたけど、親もそれは奥の手として用意しているだけで、実際、僕の当選を確実にしていたからね。今日の夜の便でアメリアに行くことにするよ。じゃあ」
そう言って、京也は体育館から去っていた。
そして、この国からも。
★☆★☆★☆★
「私、本当、何してるんだろ、、、」
すっかり、彼氏も友達もいなくなってしまった夏美。
もう、クラスにも居場所がなく、休み時間はいつもトイレに逃げ込んでいる。
ここ1ヶ月、一緒に昼食をとる相手すら見つからない。
人生で、経験することがないと思っていた【便所飯】を始めた。
何を食べても、美味しくない。
ーーーあの陰キャが生徒会長で、健斗くん、、、?嘘も甚だしいわ。
そう思うことしかできなかった。
もしも、彼が天才配信者だとするならば、あの時、惜しいことをしてしまったことになる。
そして、神童と呼ばれた人を、傷つけてしまうことになる。
夏美に吐き気が襲った。
「あぁ、、、もう嫌、、、」
あの日の失態が走馬灯のように、流れる。
『オタク無理!』
それだけを口実に別れてしまった。
実際は優しく、気がつかえる人。
後悔の念に押しつぶされそうになりながら、夏美は口に米を押し込んだ。
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