有闇七香の奮闘記Part.2

「体育祭を行いたいと思います」


「え?社長、冗談ですよね?」


「冗談じゃないですよ、有闇さんしっかりしてくださいよ」


私も初めて聞いた時は、耳を疑った。

普通に考えてVTuberにそんなことさせませんよ、、、。

心の中でぶつぶつと呟く。


他の社員の人も少し、困惑したような表情を浮かべていた。


「前例のない企画ですけど、予算とかはどうするつもりですか?」


「競技場を貸し切るぐらい、1000万あったらいけると思うので」


「1000万も使うんですか!?」


「赤字覚悟で面白いことをやってみようと思ってな」


「は、はぁ、、、」


幹部の男性が撃沈。

社長がやってみたいと言ったこと、失敗したことないから、乗っかることしかできないと思うけど、、、。

今回の企画は少し、いや、かなりぶっ飛んでいると思う。


オフラインイベントでも、基本は【握手会】や【ライブ】なのに【体育祭】。

もう、意味がわからない。


「有闇、ブログの反響は」


「昨日の夜、エゴサをしてみた結果、かなりの反響が得られました」


「じゃあ、応募ページを制作してくれ」


「わ、私がですか!?」


「あぁ」


「分かりました、、、」


これから1週間、寝不足生活が確定した瞬間だった。

気持ち的にも、肉体的にもしんどい会議はそのまま、予算案、動員数決めへと進んだ。

そして、最後に参加ライバーへの許可メッセージをもらわないといけない。


各自、自分の担当している人に連絡をとり、メッセージを送信するようにと伝える。


こんなことを夜の8時まで、8時間連続でやった。

そう、会議の日は確定残業。会議が嫌いになる理由はこれ。


精神的ダメージまで負って、その後に肉体的ダメージを受けないといけない。

とんでもない、ブラック会社!!!


その後、文句をぶつぶつ言いながら、応募ページを作ったのであった。


「畜生!!!」




★☆★☆★☆★




「結局徹夜だったなぁ、、、」


会社のデスクに額をつける。

ファンの皆様や、美鶴さんの期待に応えるためにも、私が頑張らなきゃ、、、。

美鶴さんにはこれ以上迷惑かけることもできないし、、、。


「スタマ行こ」


スタマ、スターマックスの略であり、日本にある喫茶店業界ではNo.1のチェーン店。

朝はいつも、ここに来てノートパソコンで作業をしている。


大学生とかがこぞってレポート作成のために使用するイートインに入った。

もちろん、大学生が大量にいた。

コーヒーを注文し、席を確保した。


「あぁ、お疲れ様〜」


「先輩、お疲れ様です」


【四条しじょう 皐月さつき】。

事務所の先輩で【瑠璃星るりぼし 空海スカイマリン】の専属マネージャー。

彼女の仕事っぷりにはいつも関心している。


突然任された仕事は、全て一時間以内に終わらし、いつも定時に帰宅。

事務所の中でもエリート中のエリート。


四条は隣に座り、外を眺めながら、頬杖をついた。


「コーヒー買ってきます」


そう言って、私は先輩の分のコーヒーを買ってきた。

有闇の前にはアメリカンコーヒー、そして四条の前にはブラックコーヒーが置かれた。


「ありがと〜」


「いえいえ」


四条は深刻そうな顔をしながら、コーヒーを喉に流し込んだ。


「先輩、話聞きますよ」


「あ、ごめん。顔に出てた?」


「結構」


そして、ゆっくりと口を開き。


「あのさ、私、この仕事辞めようと思うんだ」


「え」


それ以上、言葉が出なくなった。

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