第28話 期待には応えるしかないでしょ

人生、誰にも期待されることがないまま終わることを予想していたあの日。

窓の外の世界なんて、気にもしてなかったあの時。

部屋のカーテンを永遠と閉めている部屋のように、俺の心に光がさす日は訪れなかった。


学校に行ってもいつも通りの日々。

別に友達がいなかったわけではない。

人と関わることに苦痛を覚え、正直なところ、関わりたくなかった。


ずっと、一人で居たかった。


ーーーもう、一人にさせてくれ。


そう思った回数は何回だろうか。

自分にはあっていない行動を強いられていると、人間どこかで爆発してしまう。

もう、どうでもいいや。


「調子乗んなよ!!!!!!!」


中学三年、冬。

受験期真っ只中の12月。

俺はこの人生に嫌気がさし、クラスのど真ん中で思いをぶちまけた。


もう、どうでもいいや。


その気持ちが先走った。

どうしようもない。吐いた言葉は戻せない。


途端に怖くなったなんてことは言わない。


全てがどうでも良くなった。

将来に不安なんて無くなった。


これから先のことを考えることをやめた。

愛想笑い、誰かを褒める言動、陰からのサポート、勉学、スポーツ、何から何まで全てどうでも良くなった。

もう、考えたくない。


思春期の思い詰めていた気持ちから解放され、これからは自由だ。

そう思った次の日。


いじめが始まった。


『大丈夫?話聞こうか?』


あの5分間だけ家にいた人。

今は思い出せない、大切な人。

声も顔も、何か白の特徴まで、全てを忘れてしまった人。


そんなことなんて、どうでもいいや。


全てに投げやりになり、考えるのを辞めた。



★☆★☆★☆★



『それでは、北条和也さんの演説です』


「北条さん!準備お願いします!」


俺は美鶴にぎこちないウインクを一回。

すると、本物のウインクが返ってきた。


「じゃあ、行ってきます」


「頑張ってね!」


後ろを振り向くと、ものすごいプレッシャーが胃にのしかかり、吐き気を覚えた。

でも、副会長、大切な従兄弟、彼女(仮)にも応援されている。


人生でこんなこと、あると思わなかった。


じゃあ、今ここで期待に応えるしかない。


「じゃあ、本気出しますか」


舞台袖から舞台の中心へと歩みを進める。

ゆっくりと、足を進め、一歩一歩、確実にそして大切に。


「おっ、始まった」


誰かの心に刺さりますように。


「こんにちは、北条和也です。まず、私が生徒会長になった暁には、学校の制服のデザイン改訂を推進します!」


【制服問題】。

それは、篠原に代々受け継がれている問題であり、この学校最大の問題。

『学校の制服がダサすぎる!事実、85.4%の人が変えてほしいと願っている!』


篠原は私立、校長は代々一家でやってきている。

つまり、謎のセンスを持っている校長一家は、現在の制服がかわいいと言っている。


謎に昭和じみた、学ランやセーラー服。

世はブレザーだというのに!


「そして、ベスト、セーター等の着用許可を出すことを誓います!」


「「「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」

」」」」」」」」


盛り上がる学生たち。

制服のデザイン改訂は美鶴の直談判で成立し、セーターやベストの着用は、副会長と会長のこちらも直談判で成立したもの。


正直、俺が選挙に勝たなくても、このルールは公示さえしなければ、裏ルールとして生き続けるだけになる。


「ここまで、学生たちが喜ぶとは、嬉しいぞよ、、、」


ーーーマジか、怖いで有名な国語の塩波先生が感動してる。


勝は、今世紀最大の大発見をしたような気分だった。


「流石お兄様!やる時はやる男!」


「愛実、座れ」


「は〜い」


場の興奮は俺の演説が終わるまで続いた。


そして、俺の15分間の演説が終わり、美鶴にバトンタッチ。


ーーー美鶴ちゃん、頑張って!


心の中でエールを送る。


「「「「「「「「「「キャーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」


美鶴の登場と合わせ、女子生徒が大発狂。

場の盛り上がりは、さらに加速した。


美鶴の仕事は和也のいいところを言っていくだけ。

彼女にとっては、簡単な仕事だった。


ーーー彼氏のいいところなんて、無限に出てくる!


そして、事前にまとめてあるプレゼンテーション資料を、プロジェクターで投影しながら説明する。


というか、応援演説どころじゃなくない?

女子生徒の目と一部の男子生徒の目がハートになっている。


いや、すごいの一言に尽きる。


俺の彼女は思った以上の能力の持ち主でした。

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