第14話 笑ってるよね?→笑ってないです(笑)

「おいおい、北条君じゃないかね。ここで何をしているのかな?」


「あ、こんにちは、片桐先輩」


片桐かたぎり 田鶴たずる】。

篠原の生徒会長を務めている、超エリート学生。

顔はかなり良く、芸能事務所の所属しているとかしていないとか、そんな噂が流れるぐらいの顔の良さを持っている。


俺はこの人のことを裏では『クソ会長』と呼んでいる。

口を開けば成績の話ばかりしてくる。

そんな耳の痛い話をされても、俺の心には全然響かない。


「じゃあ、僕は行きますね」


「おい、ちょ待てよ。最近お前、勉強しているか?」


どこかで聞いたことがあるセリフに、いつのもセリフがくっついた、俺が1番嫌いなタイプのセリフだった。

俺は軽く手を振り払って、戻ろうとする。


「勉強は軽くやってますよ」


「このままでは、お前退学になってしまうかもだから、もう少し頑張れよ」


「はい」


「最後に、俺から勉強法を教えてやろう」


「いや、いいです」


「そう言わずに」


「いいです」


「いやぁ、、、だから、、、」


「頭が良いだけでそんなに偉いんですか!?学校一で偉いんですか!?じゃあ、俺も言いますけど、下から数えたら1番ですからね!」


最後の和也の発言は、片桐のことを困惑させた。


何も反応しなくなった片桐に対して俺は驚いた。

そして、気まずくなった。


「そ、それじゃあ俺はここで、、、」


「あぁ、じゃあな」


無事、撤退することに成功した俺は、心の中でガッツポーズ。

俺なんかにあの状況を上手く処理できるわけがない。


「上手くいってます?」


「あぁ、和也くんか。えぇ、上手く言ってるわよ〜」


「それはよかった」


握手会会場の裏側に戻ってきた俺は、有闇にそう問いかけた。

美鶴は必死に笑顔で対応している。


ファンからのお土産を裏に持って行くのも、俺たち裏方の仕事だ。

定期的に後ろに持っていく作業をする人を変えるのだが、あと少しで俺の番が回ってくる。


一歩外へ出れば、そこは大勢のファンに囲まれている場所。

到底想像もつかないような場所だった。


今回の握手会に参加しているファンの数は約6万人程度。

この人数と握手するならば、相当の時間が必要だ。

時間は一人につき5秒となっており、ファンは各々の気持ちを美鶴に伝える。


「和也さん、お願いします!」


ここで、現場のスタッフと入れ替わった。

5分に一回、中に入り、机に置いてある物を裏に運ぶだけの簡単な作業。

「ガチ恋勢」なんて呼ばれる人達から、反感を買わないように、お土産に触るときは必ず手袋をするという決まりがある。


一部のオタクはこういうのに厳しいのは重々理解していたので、これには俺も何も言わなかった。


「失礼しま、、、」


一瞬言葉を失った。

美鶴の手には俺のことを振った元カノ手が握られており、俺が入った瞬間にこっちをガン見してきた。


やばい、、、!


殺気が混ざった空気が一瞬にして肌で感じた。

しかし、俺も負けじと、恨みを目力で伝える。

すると、ここで美鶴が突然なる行動をとった。


「あ、和也くん!お手伝いありがと〜」


「あ、はい、、、」


「え!?和也く、、、」


「は〜い、お時間で〜す」


憎しみの人、夏美はスタッフに身体を押されて退場。

次の人へと順番が変わった。


「頑張ってね♡」


「うん、頑張るね」


上目遣いのその言葉は、思った以上に俺に刺さり、持っていた物を全て地面に落としそうだった。

俺は顔のにやけを必死に抑え、裏に戻った。


いや、、、可愛いんだけどね、、、?





★☆★☆★☆★☆★





あの方法は復讐だったのか、、、?

事実、俺と美鶴の間に関係が出来ていることは夏美に伝わった。


しかし、これは復讐のうちに入っていない。


俺の思っている復讐とはかけ離れているような感じだった。

もう少し、ダメージの大きいような、、、。


「お疲れ様」


「お疲れ様です、有闇さん」


和也に話しかけた有闇は、腰にスタジャンをくくりつけ、シャツの状態で働いていた。

有闇は多忙だということもあり、忙しさのあまり、暑いのか、半袖だった。


「そういえば、最近美鶴さんときたら、和也くんのことしか話さないのよ?」


「まぁ、一応お付き合い(仮)はさせてもらってますからね」


「あら、そうだったの?美鶴さんったら、全くそういう関係については話してくださらないのだから。そんな関係だったって聞いたの今初めてよ」


「一週間ほど前からですね」


「意外と最近っ!」


そんな、世間話と恋バナの狭間のような会話をしていると、握手会前半が終了した。

時刻は現在3時半。

昼食をとっていない美鶴は、この休憩時間の間に食べる。


「あ〜疲れた〜!」


「あ、お疲れ様〜」


「お疲れ様です」


「予定、どうだった?」


「空いてるので、急用が入らない限り、大丈夫かと」


美鶴は近くの机に置いてあったペットボトルのお茶(500ml)を一気飲み。

数時間飲み食いしていない美鶴にとっては、最高のひと時だろう。


せっかくの休憩を邪魔してはいけない。そう思い、俺はその場から離れようとした。


「ねぇ、ここにいて?」


「え?あ、うん」


「美鶴さん、もうデレデレじゃないですか(笑)」


「笑わないで!」


「笑ってま、、、せ、、、ん、、、」


有闇は身体を小刻みにぷるぷると震わせながら、真剣な表情を浮かべた。


あぁ、もう、可愛いとしか言いようがないな。

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