第13話 悲しみの声
「イケメンじゃない?」
「うわぁ!かっこいい!」
このイベントには密かに話題になっていることがある。
それは【ナンパ】である。
握手会には美鶴のファンが集まってくるわけだが、それと同時に大人数が同じ場所に訪れることになる。
そうすると、中には【イケメン】と呼ばれる男性も中にはいる。
女性たちは、話の合う、イケメンな男性を見つけると、話しかけ、そのまま夜の飲み会へと誘う流れになる。
「イケメンがなんだ!性格でしょ性格!」
「まーしゃあないっすよ。世の中そんなものですし」
「畜生!」
「でも、和也さんには美鶴さんという、超絶可愛い彼女がいるじゃないですか」
「まぁ、そうだけど、、、」
現場で一緒になった、スタッフの人になぜか慰められている。
まぁ、俺が始めた話なんだけど。
握手会中に俺が待っている時、Tmitterを見ていると。
『女性に話しかけられる可能性高いですよ!』
という、呟きを見つけて、実験程度に1時間外に立っていて、誰一人と俺を見向きもしなかった。
俺の顔は、どうせ下の下ですよ!
若干拗ねた俺は、こうしてスタッフさんに慰められるのであった。
(え!?和也くん大丈夫!?)
メイク室から見える和也の姿を見た美鶴は、心の中でそう叫び、その声は和也に届くことはなかった。
「よっし、仕事頑張りますか!」
「がんばろー!」
「有闇さん!いつの間に!?」
「さっきから後ろで話聞いてたよ〜、男子にもそういう悩みあるのね〜!お姉さん心配になっちゃったよ〜、終わった後の飲み会で、話聞いたあげるからさ、今は頑張ろ?」
「はい!」
シャツの隙間から見えた大きな胸が俺のやる気(意味深)を沸かせた。
中高生特有の、淡い期待というやつであった。
★☆★☆★☆★☆★
「七香ちゃん!今週の水曜日の放課後空いてる?」
「今は握手会のことに集中してください。気を抜いてたら、痛い目見ますよ?」
「は〜い」
「予定は確認しておきますから」
「やったぁ!」
美鶴は七香に抱きつき、それを引き離そうとする。
握手会開始5分前までこんなことするなんて、美鶴ちゃんらしいな。
そう思った俺は、少し仕事が忙しかったこともあり、外へ出た。
軽く外の空気を吸って、手に持っていた、ペットボトルのお茶を喉に流し込んだ。
そして、ベンチにため息をつきながら座る。
「はぁ、、、疲れたなぁ、、、」
ポツリとつぶやいた一言は、俺の今の気持ちを吐き出すかのような声だった。
重いような、苦しいような、なんだか罪悪感があるような、そんな声の重みがあった。
俺も俺で今でもオタクとして、アニメやゲームが大好きだ。
そして、何よりも、推しとそのファンを大切にする。
もちろん、自身のアカウントのフォロワーさんも大切にしている。
だけど、こんなに近くていいのだろうか。
ファンの人に失礼ではないのか。
そう思うことが最近増えてきた。
オタクとしての純粋な心を傷つけたくない気持ちが俺の中では強かった。
「何か悩んでいるみたいだね」
俺が視線を前に向けると、そこには黒いローブを着た女性が立っていた。
大きな帽子を被り、顔はあまり見えない。
女性らしい高い声をしており、どこか聞き覚えのあるような声でもあった。
今は特に不思議だとも思わず、ただ「なぜ話しかけてきたのだろう」から始まった。
「お名前は?」
「考えたらすぐに出てくるはずだよ」
「ご趣味は」
「考えたらわかる」
「以前どこかでお会いしましたっけ?」
彼女はどこか、悲しみに溢れているような雰囲気を醸し出した。
「あぁ、もう忘れちゃったんだね」
声は微かな震えを感じ、言葉の終わりにかけて、掠れているかのような声だった。
彼女は振り返り「じゃあ」と言って、どこかへ行ってしまった。
最後に彼女が振り向く瞬間、顔から涙が流れていた。
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