第12話 いざ、握手会へ!

「ほんと、最低」


「はいはい、どうせ俺はゴミ以下ですよ〜」


「反省の色が見えない!」


午前7時、今日も元気に朝から袈裟固めを食らっている俺氏。


あ、もう限界なのでやめてください。


なんて言葉すら出なくなるほど痛かった。

柔道をやっていたわけでもないのに、なぜか柔道の固め技やレスリングの技などが出来てしまう。

俺からしたら、そんな特技、とんだ迷惑にしかならなかった。


「今日もやってるね〜」


とうとう、美鶴ですら慣れてしまった。


「あぁ、美鶴ちゃんおはよ」


「和也くん、おはよ〜」


「いつの間にそんな仲良く!?」


「一応、和也くんの彼女だからね〜」


謎のリア充アピをしたところで、俺たちは朝の10時から始まるイベント《握手会》へ行く準備を進めた。

無駄に今日は髪のセットまでしてしまった。


「スタジャン持った?」


「持ったよ」


「流石和也くん!」


「そんなことで、、、?俺のレベル低すぎない、、、?」


悪い気はしないが、俺の誉められる、レベルの低さに少々驚きを隠せなかった。

木葉は一般ゲートからの入場で、握手会開始1時間前から開く。

限定グッズを入手すべく、2時間前から並ぶそう。


オタクってすご(俺もやったことある)。


予定では8時に家を出て、ドームに着くのは9時半。

そこから衣装に着替えて、握手会開始。

そして、4時間後に握手会終了。


大体の予定はこんな感じだ。

その後に、事務所の社長や裏方の一部の人を招いて飲み会をするらしい。

もちろん、焼肉、美鶴の奢り。


「飲み会、俺も行かなきゃダメですか?」


飲み会には俺はあまり前向きではない。

アルコールを入れた大人のノリについていけるほどの、コミュ力とテンションが俺には備わっていないし、話せるとしても提携文みたいなことしか話せない。


「もちろん!着いてこなきゃだめだよ!」


「えぇ、、、」


「意外と面白いよ!キャラ濃い人もいるし、薄い人もいる。同期の配信者の子も来るみたいだし」


「それって誰?」


「【夏風なつかぜ 瑠璃るり】って知ってる?」


【夏風 瑠璃】。

美鶴と同期の配信者である彼女は、Tmitterのフォロワーは80万人。

真面目清楚系キャラとして知られており、VTuberを知っている人のほとんどが知っているほど有名な配信者。


特に、FPSゲームなどのEスポーツ活動が有名であり、オンライン大会で何度も優勝を重ねていると聞いたことがある。


この子はちなみに、母親の現在の最推しである。


「もちろん知ってるよ。ゲーム上手い子でしょ?」


「あと、歌も上手いよ!この前カラオケ行った時に、流行りの曲、大体95点以上だったし!」


「ひえぇ、、、」


完璧超人か、、、?

歌が上手くて、有名人でゲームが上手い。

それに、噂では超名門の大学を卒業している人だと聞いたことある、、、。


『私、和也の隣に居てもいいよって言われるような人間になるね』


『だから、それまで待っててほしい』


過去の記憶が一瞬だけフラッシュバックされた。

あの日、俺の前から消えたあの人。俺の人生において、大切な人。


ーーーあぁ、頑張ったんだね。


「俺、行く」


「え?なんで突然」


「このチャンスを逃すと、絶対に会えない人かもしれないから」





★☆★☆★☆★☆★





空は快晴、冬らしい少し肌寒い気温。

そして、盛り上がるドーム付近。


昔ながらのオタク感溢れる人や、少しおしゃれな格好をする人、中には子供まで、数多くの人たちに溢れているドーム前。

それを横目に、別ルートから俺たちはドームの裏口へと向かった。


現在の時刻は9時30分。

これから、衣装に着替えたり、メイクをしたりする。


その間は、物販の段ボールを運んだりなどの、裏方作業の手伝いをする予定となっている。


「こっち、お願いします!」


「は〜い!」


「和也くんありがとね!この現場、男性少ないから〜」


俺にそう声をかけたのは、俺の家族以外で唯一、紐苗美鶴のオフを把握している人物。

マネージャーの【有闇ゆうやみ 七香ななか】だった。

彼女は25歳で、美鶴が事務所に入った当時から、専属のマネージャーとして着いている人らしい。


美鶴の期待に応えるべく、いつもオーバーワークで頑張っていると聞いた。

プライベートでも美鶴とショッピングへ行くほど、仲がよく、半ば友達と言っても過言ではない存在だった。


今回の握手会も、整列、物販コーナー、案内全ての作業に関わっている人物。


「有闇さん、少しは休んでください。流石に倒れますよ」


「ファンの期待に応えれるよう、今は出来ることをやる。私、こう見えて完璧主義だから!」


「どっかの誰かさんに似てますね〜」


「あはははっ」


額から流れる汗を、タオルで拭きながら笑う七香。


「じゃあ、今日は期待してるよ!」


「頑張ります!」


握手会が幕を開けた。

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