第8話 今日、部屋行ってもいい?

「やっぱり、ここのラーメンは最高だな!!」


「わかってるな!勝!」


「マジで美味いっす!」


 現在、近所にあるラーメン|天一堂《てんいちどう》にきている。

 ここは行きつけで、よく勝とくる店だ。

 特徴としては、店内にあるテレビではいつも競馬が流れていることぐらい。

 他はありきたりな店と言っても良いぐらいの、特に変わったものがない普通のラーメン屋だ。


「なぁ、やっぱりみっちゃんはいいぞ」


「なんの話だよ」


「みっちゃんつったら、紐苗美鶴しかないだろ」


「俺の彼女な」


「お前もそのぐらいのこと言えるまで、みっちゃんのことが好きになったのか、、、!俺は友人として嬉しいぜ、、、!」


 つい先日、美鶴が俺に告白してきた時。

 あの時、勝と電話をしていた。


 突然なるDMに対して、俺は驚きを隠せなかった。

 そして、意味不明な一言「紐苗美鶴に付き合ってって言われたらどうする?」。

 電話をプツっと切った瞬間から、俺の運命は変わっていのだ。


 勝は、受け止め難い現実から逃げる、いわゆる現実逃避というものをしているのか、本当に信じていないのか。

 勝の言動には、謎が深まる一方だった。


「じゃあ、おやっさんまたくるわ!」


「あいよ!じゃあな!」


「ご馳走様でした〜」


 現在の時刻は午後一時、昼時が終わり、多くの商業施設は人が多くなる時間帯。

 二時はまだ、冬でも長袖一枚でいてられる気温だ。


「これからどうする?」


「帰る」


「了解」


 ラーメンを食べるだけに俺を呼び出したのかよ、、、。と少し苦笑い気味のひきつった顔をしながら、俺は別れを告げ、家に帰った。

 家に帰ると、リビングの方から何か騒々しい雰囲気を感じとった。


 俺はそっと、扉を開け、隙間から顔を覗かせると、そこには木葉がいた。


「兄ちゃん見て!これ!」


「なに?」


「握手会の日程が前倒しになって、1月2日になったらしいよ!」


「新年早々じゃねーかよ。しかも、あと4日後だし」


「だから、最高って言ってるんじゃない!新年から会えるとか最高すぎ!!」


「いや、毎日会ってr、、、」


「会場に行くからこそ意味があるの!!!」


 そして、みずおちを殴られ、一発KO。

 今日一痛い思いをした瞬間でもあった。









 ★☆★☆★☆★☆★








 日も沈んだ頃。

 俺は自室でネットを見ていた。


 特にやることもなく、適当にTLを眺めている時の話だ。

 突然、部屋の扉が開き、俺はそれに驚き、体が少しそれに反応した。


「突然なに?」


 そこには木葉が立っていた。

 風呂上がりなのか、少し髪の毛がぼさついている。


「美鶴さんがDM見てだって」


「それだけ!?」


「うん」


 基本的には必要最低限、DMは見ないようにしているが、美鶴との連絡の場合だけは例外だった。

 DMを開くと、そこにはメッセージが。


『今日、部屋行ってもいい?』


 え、、、?

 マウスを持っている手が一瞬固まる。

 そして、衝動的にTmitterをブラウザバックしてしまった。


 ラノベとかでよく見る、あっち系のシーンに持ち込まれる時のあのセリフ、、、?

 完全に、あっち系の思考へと化した俺の脳は、暴走を始めた。


 自分でも感じた、今、顔めっちゃ赤いな、と。


 体全体が熱く、火照っているのを感じ、軽く自分の顔を手で仰いだ。


 同じ家に住んでいるのだから、直接言ってくればいいじゃないか、そう思った。

 しかし、言ってこないということは、大切なことであり、向こうも気恥ずかしいことだということは間違えない。


 ここは男を決める瞬間だ。


『はい、いつでもどうぞ』


 機械的な文章を送信すると、バン!と音が鳴り、勢いよく扉が開いた。


「早すぎません、、、?」


「あ、敬語禁止!!!」


「それよりも、、、ていうか、敬語じゃなくて丁寧語!」


「細かい男は嫌われるよ」


「わかったから!要件は?」


「握手会の日程が変わりました〜!!!!」


「あ、知ってる」


「え?もしかして、私のネトスト?」


「木葉から教えてもらったの!ネトストじゃないから!」


 俺の期待と不安を返せ。

 そう思ってしまう自分と逆に安心をした自分がいた。


 イメージの美鶴は清楚系であり、それを汚されてしまう可能性があったからだ。


 汚していたのは自分だったこと、気づくのにはそう時間を要さなかった。


「それだけ?」


「あと、会場知ってる?」


「知らない」


「ドームだよ」


「え、、、?聞き間違えだった可能性があるので、もう一度」


「だから、ドームだって」


「そういえば、来てもらう時はスタッフの入り口から入ってもらうからね〜」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 部屋で、その規模に驚愕する高校生男子であった。

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