第9話 年末年始と言ったら、配信でしょ。

 12月31日、ついに今年も終わってしまう。

 今日は、母親も仕事が休みで、家族全員プラス美鶴がリビングにあるこたつに集まっている。


 母親と美鶴はこたつで爆睡。

 こたつで寝ると、食欲がなく俺と木葉は軽い会話をしながら、必死に起きていた。


「兄ちゃん、美鶴さんの寝顔可愛いよ〜」


「今見てしまったら、次話す時に罪悪感で話せなくなりそうだから、見るのはやめとく」


 スマホでTmitterを見ながら、軽くそう答えると『確かに女子の寝顔見るとかキモい』と言わんばかりの顔をした。

 そんな顔するぐらいなら、そんなこと言ってくるなよ、、、。


「コニールの年末無料ガチャ回した?」


「いや、まだ回してない」


「早く回した方がいいよ。今日の23時59分59秒までだから」


「なぜそこまで細かく言う」


「しんない〜」


「なんだそれ」


 コニールとは、種類で言うと音ゲーの部類に入るスマホゲームの一つであり、配信開始から1日で100万ダウンロードを超えるという、快挙を成し遂げたゲームでもある。

 Tmitterでは、最高レアリティである、SSSRキャラを無料ガチャで引いている人を見たことがあるが、俺は無料ガチャでSSR以上のキャラを引いたことがない。


 正直、無料ガチャを信用していない。


 あと、なぜ木葉と俺の会話がここまでふわふわしているのかというと、無論、お互い眠たいのもある。

 基本、深夜まで起きる時はエネドリを体に入れるが、今日はあいにく切らしているので、そのエネドリが飲めない状況にある。


 勝が働いているコンビニは今日は休みだし、いちいち駅前のコンビニまで行くのもめんどくさい。

 というか、この時間帯に駅前に行ったら、補導確定だ。


「あと1時間で年明けだから、早く起きて」


 木葉がそういうと、目を擦りながら、二人は起きてきた。

 今日はなぜが下着を着ていない美鶴は、体より一回り大きいTシャツから、胸がこぼれそうになっていた。


 俺は衝動的に、反対側を見た。


「あ!やばい!配信しないと!」


「美鶴さん!だよね!毎年配信してるし、今年はやらないのかな〜って思ってた!」


「じゃあ、俺はここでTmitterを、、、」


「裏方、やってくれるでしょ?」


「その笑顔で言われると、全男子高校生が落ちることを知っていての行動だな」


「もちろん♪」


 あはは、と苦笑いをした俺は、ゆっくりと立ち上がり、美鶴さんの部屋へと行った。

 あれから、配信をする時、裏方作業は美鶴の部屋でしなければならないという、謎ルールが定められた。


 配信中に見える、紐苗美鶴と七海美鶴の喜怒哀楽の違いが見れて楽しいのだが。

 ついに、給料が出なくなりました。







 ★☆★☆★☆★






『年越しまであと、30分!別に、、、私が配信したかっただけだからね、、、?』


 いきなりベタなツンデレを出し、配信が開始した。

 ものの5秒で同接は10万越え、コメント欄はいつも以上に大荒れだった。


『今年は配信しないのかと思った!』『今年も最後を一緒に過ごせて嬉しいよぉ!』『今まで寂しかった、、、!』などの、半ば木葉と言っていることは同じなコメントばかりだった。


 やっぱり、同じ道をゆく《同志》たちは、考えることは同じなんだな。


「キャーーーー!!!!!!!!美鶴ちゃーーーーん!!!!!!!!!」


 一階から歓喜の声を上げる木葉の声と、同時に母親のキレる声が聞こえてきた。

 なんとカオスな。


『《配信何時までやるの?》配信はね〜カウントダウンしたら、すぐにやめようかなと思う』


 コメントの読み上げは、多くの配信者がする行為であり、投げ銭に付けるコメントは目立ち、読まれやすいと聞いたことがある。


『《え〜なんで〜去年は朝までやってたじゃん》今日はね〜大切な用事があるんだ〜!』


 そして、こちらに向かってウインクを送ってくる美鶴。


 そういうのは、、、配信が終わってからに、、、。


 内心の照れを隠しながら、裏方作業を進めた。

 今日は比較的、ポリシーに反したコメントは少なかった。


 なので、配信を素直に楽しむことができ、俺的にも嬉しかった。


 美鶴と一つ屋根の下での生活は、不慣れなことが多かったら、大人気配信者の裏側も見えた気がした。

 今まで、遠い存在だった彼女がこんなにも近くにいる。


 俺は優越感と罪悪感がいったりきたりする、なんとも表し難い気持ちに覆われるようになった。

 周りの人より、顔がいいわけではない、性格もいいとはいえない、人知を超越した学力を持っている訳でもない。


 そんな俺が、こんな人と付き合っていいのか。

 もっと、いい人が世界にいるのではないか。


 そう思うほど、胸が締められたが、ある時美鶴は俺にこういった。


「和也くんが好き。だから、私はこうやって今伝えることができてる。気を重くしなくていいんだよ。だって、私が好きっていってるだけだもん。私も同じ立ち位置に立っているからわかるんだ。配信者ってそういう職業でもあるし」


 その言葉が、俺を少し楽にした気がした。


 ーーー年越し1分前。


『この一年、みんなが私のことを好きになった一年でもあるし、私がみんなのことを好きになった一年でもあった。だから、みんなありがと!大好き!』


 同接数50万、過去最高の同接数を叩き出した配信では、これ以上にない感動的な言葉を発し、多くのファンを魅了する言葉だった。

 やっぱり、美鶴ちゃんは配信者が天職なんだな。


 あぁ、やっぱり凄い。


『3、2、1!happy Newyear!!!!!』


 Tmitterの世界トレンドは《mituru2023》が一位に輝いた。

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