第6話 シちゃう?
「まぁ、、、?今日ぐらいは甘えてくれてもいいんだからね、、、?」
思わずエナドリをこぼしそうになってしまった。
紐苗美鶴のキャラはツンデレ、このデレ多めのキャラが売りとなっている。
あと、天然キャラとしても有名だ。
というか、公式サイトには天然キャラと書かれており、それを守り抜いているのか、本当の天然なのかは知らないけど、活動当初から事故配信を多発させている。
頼むから、事故らないでくれよ、、、?
心の底からそう願う俺の心は届きそうにないが、少しの淡い希望を七海さんに送った。
「ふぅ〜〜」
耳掻きを数回繰り返したのち、機械に少し息を吹きかける。
わお、すごいえっちだ〜。
なんて、本当に思ったことを本人の前では言えない。
俺は必死に、口を押さえて、息を最大限にしないようにしている。
静音のマウスを動かし、配信画面に卑猥なコメントや暴言コメント、会話などのルールに反したコメントを次々に消していく。
流石、フォロワーが100万人を超えていることもあり、同接数は13万3千。
睡眠用BGMとして聴いている人が多いのか、いつものような高速コメントや、連続投げ銭などはない。
でも、限界の5万円の投げ銭をする人は30秒に一回現れる。
つまり、秒給1600円ということになる。
耳掻きを機械に向かってしているだけで、1秒あたり1600円なんて夢のような仕事は七海さんにしかできない。
日本でもトップ層に入っている配信者のASMR配信が30分を超えたあたりのことだった。
「(お手洗い行きたい、、、)」
表情でこちらにSOSを出してきた。
「(我慢してくださいよ!)」
「(もう無理限界、、、!)」
俺に耳掻き棒を渡し、俺にチェンジした。
そして、そっと扉を開け、一階のトイレへと全力ダッシュ。
2分間の陰キャ男子高校生の耳掻き配信へと切り替わったのであった。
なぜか、この2分間は罪悪感を感じる時間だった。
この配信を聴いている人は「みっちゃんにしてもらってる〜」とか思いながら聴いている人が大半だ。
しかし、今は見ず知らずの男子高校生にされている。
可哀相にも程があるだろう。
同接数は俺がしている2分間の間に20万を超えた。
「俺は今、20万人に嘘をついている、、、!」
自分のアカウントのフォロワーを超えたあたりから、俺は冷や汗をかいている気がした。
「(ただいま!)」
「(ちゃんとしてくださいよ!)」
耳掻き棒を渡し、役目を終えた俺はパソコンに戻ろうとすると。
あっ。
右足が床に引っかかり、七海さんを巻き添えしにて倒れてしまった。
終わった、、、。
そう心の中で呟き、ふとパソコンを見ると、コメント欄は大荒れ。
同接数は一気に10万人ほど増え、現在の同接数は32万人だった。
そんな中、七海さんは倒れ、その上に俺がギリギリのところで耐えている。
ラブコメ作品を読んでいる時「俺だったら、この状況を回避できるな」と思っていた。
しかし、実際にその状況になった時、体は動かなくなってしまう。
俺たちは見つめ合い、短い沈黙が続いた。
そして、七海さんが小さく。
「シちゃう?」
「(ダメでしょ、、、!)」
俺は起き上がり、パソコンで作業を続けた。
コメント欄では『大丈夫?』や『救急車呼んだからね!』などがコメントされていた。
俺がいることに気づかれていない、、、!
まずはそれに喜んだ。
そして、コメント欄は荒れていく一方。
次第に、勘のいい人が俺の存在に気づき始めた。
『男?』『誰か人いるんじゃない?』などのコメントがちらちら見え始めたところで。
「ちょっと脛が当たっただけだから!みんなが、私のことを心配するのはわかるけど、今は私の耳掻きに集中して!じゃないと、みんなのこと嫌いになるからね!」
『そんなこと言われたら、、、聞くしかないよなぁ』『俺の嫁からの命令は絶対だ!』『可愛すぎん?もう一回言って!』などのコメントでコメント欄は埋められた。
こっちに、七海さんはウインクをしてきた。
そういうの、、、いいですって、、、。
俺は少し呆れ顔になった。
★☆★☆★☆★☆★☆★
私の名前は金沢 夏美。
先日まで、陰キャ高校生と付き合っていた普通の女子高校生。
『オタクが嫌い』という、よい口実で別れることができた。
『ユージく〜ん♪だいしゅき〜』
『また今度、家に行くから。その時はよろしくな』
『もちろん♪あの、クソ陰キャと別れたから、いつでもいいよ〜♪』
深夜二時。
Tmitterをいじりながら、彼氏のユージこと波沼 悠太と通話をしていた。
「え!?ヤバ!?美鶴様配信してるじゃん!また今度、アーカイブで初めから見返さないと!」
再び、Tmitterを開くと。
【#事故配信】というタグが、トレンド入りをしていた。
「美鶴様ったら〜また事故っちゃったの〜??可愛いんだから〜♪」
タグの呟きを眺めていると『紐苗美鶴、彼氏説』という、呟きを見つけた。
そんなはずはない、、、。と心の中で言い聞かせた。
この事故に、自分が振った男が絡んでいることを知る由もなかった。
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