第5話 普通、事故るところでしょ。
「なんですかその機械」
「いや、ASMR配信の機材に決まってるじゃん」
「え、、、?」
《ASMR》Autonomous Sensory Meridian Responseの略称である。
有名なのは、スライムを触っている時の音や、食べ物を食べている時の咀嚼音などを専用の機械やマイクを使い、収録すること。
てか、よりにもよって、俺の家での初配信をASMRにした、、、?
ASMR配信で個人的に重要だと思っているのは、時間だ。
どれだけ、その音を出し続けられるのかが鍵だと思っている。
しかも、配信時刻は深夜の一時。
一部のインターネットの猛者たちを除くと、普通は寝る時間だ。
つまり、睡眠用BGMとして、配信をつける人もいるというわけだ。
視聴者がどれだけの時間、その音を出し続けてほしいのかは不明だ。
七海さんの性格上、まず15分も持たないコンテンツだろう。
基本的に、紐苗美鶴としてやっている時は、毒舌が混じるゲーム配信などをしている。
たまに、配信が騒がしい時もあるぐらいだ。
そんな人が、ほぼ、無音の環境を作り出さなければならない、ASMR配信をできるわけがない。
「で、どんな音を提供するんですか?」
「耳掻き」
「すごい、えっちじゃないですか」
「え!?!?うそ!?!?」
「清楚売りにしている配信者が初ASMR配信で、耳掻きは視聴者に刺激を与えすぎている気が、、、」
「じゃあ、トークしとく?」
「もはや、ASMR配信じゃない、、、」
困り果てた顔をした七海さん。
俺は「普通にゲームしたらどうですか?」と提案すると、即却下された。
事務所から「一度Tmitterに投稿した情報は守らなければならない」とされているそう。
つまり、耳掻き配信が確定したのだ。
「七海さん、絶対に静かにしてくださいね」
「もちろん!」
「キャラなのはわかりますけど、毒とか吐かないでくださいね」
「もちのろん!」
「ツンデレもですよ!」
「わかってるって!」
その後、俺は裏方として、自室に戻ろうとすると。
七海さんが俺の腕を掴んできた。
「私の部屋で、裏方作業してくれる?」
「ふぇ!?」
「お願い!私、一人で出来る自信ない!」
「はぁ、、、」と小さくため息を漏らした俺は、お願いを許諾した。
自分のパソコンは、ノートパソコンだったということもあり、電源コードとマウス、あとは本体を持ってくるだけでよかった。
七海さんの部屋に入ると、大きなデスクに、デスクトップパソコン、3枚のデュアルディスプレイが設置されていた。
「机と椅子まで持ってきたんですか!?」
「木葉ちゃんが持ってくれた」
「あの怪力、恐るべし!」
なぜか、殺気を感じた俺は部屋の外を覗き、誰もいないことを確認した。
パソコンのケーブルをさし、七海さんのサイドテーブルに置かせてもらった。
椅子は、自室から持ってきたゲーミングチェア。
これがないと、長時間の作業はやってられない。
その後、いろいろ配信開始作業を進めていると、予定時刻の15分前となった。
最後に、七海さんに最終注意事項を話し、完璧な状態を作る。
「配信に集中してくださいね!絶対ですよ!」
「わかってるよ!」
何かしらやらかしそうな七海さんに俺は少し、いやかなりの不安を抱いた。
今まで、事故配信を何度したことか、、、。
その、数えきれない量に、頭を抱える。
「事務所から、注意向けてるんですよね?」
「いや?もっとやってくれって」
「話題作りの配信者に全振りするやつ!」
「マネージャーも遂に何も言ってこなくなったよ★」
「諦められてるじゃないですか!?」
ため息を漏らし、呆れ顔になる俺。
配信開始準備を進めた。
机の上に、耳掻き用の棒と、専用の機械が設置されいている。
「待機画面出しときますよ〜」
「あ〜い」
七海さんは自分の椅子に座り、キーボードをうち始めた。
何やら、Tmitterで呟くのか、投稿画面を開く。
そこに、URLを貼り付けて。
なるほど、宣伝か。
「じゃあ、頑張ってくださいね!」
「うん!」
深夜一時。
ドキドキハラハラの配信が、エナジードリンクの開栓音と同時に始まった。
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