第4話 裏方、やってくれる?
『七海ちゃん?大歓迎よ!』
『え?今なんて』
『だから、大歓迎よって!』
終業式は終わり、俺と七海さんは家に帰ってきた。
母親にこれから家に泊まることへの許可をとろうと、電話をしたところ、OKが出てしまった。
あんなに、誰かを家に入れることを嫌っていたあの母親が。
なぜ、このタイミングでOKを出すのかは不明だ。
「私の名にかかれば一発よ」
「で、泊まるっていうか、住むんですよね」
「うん、そだよ」
「まぁ、俺は仲良くないですけど、七海さんは仲良いですもんね、うちの妹と。あんなうるさいやつ、ほっといていいんですよ?」
「え?なに?兄ちゃん殺されたいわけ?」
「いつの間に!?」
玄関に突然出てきた木葉から暴言を吐かれてしまった。
腹に一発、木葉お得意のグーパンを入れられたところで「あはは、、、」と苦笑いする七海さんと家に入った。
何事にも、タイミングが悪い!
「じゃあ、兄ちゃんがそんなこと言わなければいいだけの話でしょ!」
「心の声が!」
「和也くん漏れすぎ〜」
「うぅ、、、」
無意識には逆らえない、そう実感した瞬間でもあった。
ブーブー。
サイレントにしていたスマホがバイブ音を鳴らした。
勝からの連絡だった。
『特定が完了したぞ』
『早いな』
『どうやら、篠原の生徒みたいだぞ』
『なるほど、、、』
『【
波沼 翔吾。
女癖が悪いと聞いたことのある、学校でも有名なやつだ。
見た目は普通、成績も普通、しかし運動神経に関してはずば抜けており、筋肉も見るからに持っている感じがする。
なんとなく、NTR事件に絡んでそうな人物で逆に安心した。
『そういえば、夏美さんってみっちゃんの大ファンだろ?』
『そうなのか?』
『Tmitterでよく、愛を叫んでいるぞ』
俺の隣には、紐苗美鶴本人がいた。
しかし、この会話は聞こえていないので、反応はなし。
『情報ありがと、引き続き、わかったことあったら連絡よろしく』
『おうよ!』
電話を切り、俺は自室へと向かう。
七海さんには、俺の隣りの空き部屋を使ってもらうことにした。
木葉と七海さんは《命よりも大切なパソコン》を取りに行った。
20kgぐらいあるパソコンを、女性一人では持てるはずがないので、俺よりも力のある木葉が行くことになった。
まぁ、俺もやしだしな。
「ただいま〜」
夜の9時、母が帰宅した。
右手には、かばんとドラッグストアの袋を持っていた。
中には、少し高そうなシャンプーとリンス、洗剤や柔軟剤などが入っていた。
「母さん!こんなもの買ってくるなんて久しぶり!」
「あったり前でしょ!女の子はこういうものを使わないといけないでしょ!」
実際のところ、俺の家は貧乏だ。
父親の生命保険も少しは使わせてもらっている。
「パソコン周辺は終わったよ!」
「これで今晩から配信できる!」
「配信?」
「あ、そういえば言ってなかったか。私、実はこういうものです!」
自慢げに、ポケットの中から、名刺を出してきた。
渡したことがないのか、作法を知らないのかはわからないが、片手で適当に渡していた。
もう、ツッコミどころは満載だった。
「え!?美鶴さんって紐苗美鶴だったですか!?前々から、声が似てるなぁって思っていたけど、まさか本人とは、、、」
「もしかしてファン?」
「もっちろん!大大大大大ファンです!!!!!!!!!!!!!!!!」
そういえば、木葉の部屋には信じられないほどの量のグッズが置いてあった。
俺に《オタク》と言っておきながら、自分もオタ活をしている。タチの悪いやつだ。
Tmitterを開き『オタクって自覚してない人は流石に俺でも引く』とツイート。
これまた共感のコメントで溢れかえった。
『俺の友人が、、、』『クラスの自覚してない腐女子が、、、』などのコメントがあった。
意外とこの世界には多いのか。
「今日の深夜一時から配信開始!」
「やったぁ!」
「木葉!中学生は寝る時間でしょ!高校生と中学生を一緒にしないの!」
「えぇ〜、、、」
悲しみの声も漏らした。
実は俺、前に、バイトとして七海さんが所属している事務所の配信者さんの裏方の仕事をしたことがある。
不快なコメントが来ていたら、消すだけの単純な仕事。
配信を見ながらするから、実質娯楽みたいなものだ。
時給3000円、最高のバイトだった。
もちろん俺は、、、。
「裏方、やってくれるよね?」
「もちろんです」
「時給500円!」
「安くないですか、、、?」
「じゃあ1000円!」
「まぁ、まぁ、、、」
あまりの少なさに俺は少し驚いた。
前回の裏方作業の時給に比べたら、かなりの薄給だ。
でも、あれはもらいすぎた感もあるし、時給1000円ぐらいが妥当なのかな。
多分、配信は3時間ぐらい続く。
その間別室で、やっておくだけだ。
「じゃあ、俺はエナドリ買ってくるので」
「私のも買ってきて〜」
「何味ですか?」
「黒と緑のベーシックで!」
「了解です」
家からコンビニまでは歩いて2分ほど、かなり近いほうだ。
今日は、金曜日だということもあり、店員さんが俺の友人だ。
「よっす!」
「よっす、勝。今回の件はありがとな」
「俺のできることって言ったらそれぐらいしかないからな」
「というか、相変わらず人少ないな」
「今何時だと思ってんだ?」
「22時」
「そりゃこねぇだろ」
「そういえば、紐苗美鶴が25時から配信やるらしいよ」
「おう、知ってるぞ。公式Tmitterで見た」
「早いな。投稿されたの1分前だぞ?」
バイト中にスマホを触るのが、勝流のやり方だ。
というか、常にスマホを触っている。
まぁ、言わずともわかるが、基本Tmitterか6chしか触っていない。
「エナドリある?」
「ベーシックのやつなら」
「じゃあ、それ3本」
「300円で〜す」
「600円じゃねーの?」
「友人割ってやつだ」
個人経営のコンビニではこんなことができるのか。
まぁ、いつもこういうことしてくれて、勝が店長に怒られているのは知っているけど。
持つべきものは最高の友人だな。
「じゃあ、またな〜」
「うっす!」
勝は元気よく返事をした後、すぐにポケットからスマホを取り出し、いじり始めた。
あいつも、懲りないな。
じゃあ、俺も裏方頑張りますか!
今日は徹夜が確定した。
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