第41話 それは幸せの日の朝
朝、美澄が目覚めると、いつも横で美澄の寝起きを待っている太郎坊の姿がなかった。
時計を見るとまだ早朝で、いつも起きる時間よりずいぶん早い。
でも今日はこの時間に起きなくてはいけない。
うーんと伸びをして、ベッドから起きる。カーテンを開けると梅雨時期には珍しい晴天だった。
顔を洗って階下に降りると、台所に立つ太郎坊がいた。
「おはよう。太郎さん」
「おはよう。美澄さん」
「手伝うわ」
「じゃあパン焼いてくれる?」
「わかった」
太郎坊の手元ではスクランブルエッグができあがっている。その横には2人分のサラダもできあがっているから、今日の朝食は洋食なのだろう。
太郎坊が台所にいる間に、美澄は冷蔵庫からバターとジャムを出し、牛乳とオレンジジュースを出した。
「太郎さん、ヨーグルト食べる?」
「食べる」
ヨーグルトを出して、コップを用意する。
その間に太郎坊の作っていたスクランブルエッグ、ソーセージ付きが完成していた。
「パンも焼けたみたいだよ」
「お皿用意しなくっちゃ」
パンを置く皿を用意して、トースターから食パンを取り出す。しっかりと焦げ目がついたそれは、いい匂いがして食欲をそそる。
「「いただきます」」
2人でそう言って、バターをたっぷり塗ったトーストをかじる。スクランブルエッグにはハートマークのケチャップがかかっていた。
「起こしてくれたら、私ももっと手伝ったのに」
「なんか目が覚めちゃって」
「そうよね」
今日は胡一郎と絹子の結婚式の日だ。
午前中近くの神社で式を挙げて、午後から天堂ホテルで披露宴をすることになっている。
美澄は神社での式の前に2人に合流し、絹子の化粧をしてやることになっている。そのため今朝はいつもより早起きなのだ。
太郎坊も美澄を神社まで送るついでに、2人の式を遠目にでも見たいらしく、式が終わるまでいることになっている。
「あのお父さんたちは来るかしら」
「なんか父さんが画策するって息巻いてたけど、大丈夫かなぁ」
「なにする気なのかしら」
「うーん」
トーストをかじったまま、太郎坊がスマホを操作する。
「昨日、胡一郎にメールしたら、まだお許しもらってないみたいなんだよね」
「本当に来るのかしら……」
「最悪お母さんたちが引っ張ってくるんじゃないかな」
呑気にそう言って、太郎坊がトーストを飲み込んだ。
「もし来ないなら、竹刀持って乗り込んでやろうかしら」
「美澄さんならやりかねないな」
「だって、来てほしいじゃない。絹子さんだって、お父さんに白無垢姿見せたいって言ってたし」
「そうだね」
「さて、気にしてもしょうがないからまずは絹子さんを綺麗にしないとね。時間あんまりないわよ」
「じゃあ僕は片付けてるから、美澄さんお化粧してきなよ」
「そうね」
結婚してすぐの頃はそれが申し訳なく思っていたが、今はもう甘えることにしている。太郎坊が片付けている間に、化粧をして、2人で着替えていたらちょうど良い時間になるからだ。
そうして今日はまだだった素振りを、太郎坊に見られながらすると、出かける時間になった。
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