第十七話 グリーン・インフェルノ
「む……帰ってきたか。首尾は上々なようだな。」
アヴノバ森林入口に構えた本陣で、ヴィオラ達が帰還するのをゾーネンシュリームが認めた。
ちなみに右翼にはブラダスク隊、左翼にはゾーネンシュリーム隊が待機している。
「ヴィオレット特務少尉、只今戻りました。前段階は成功、あと数刻で敵は渓谷になだれ込むでしょう。」
「うむ、重畳だな。……レオンハルト兵士長!」
突然の指名にレオンは身体をビクつかせた。
「はっ……な、なんでしょーか!」
「最後の大詰めは貴様の仕事だったな?どうだ?やれるか?」
ゾーネンシュリームに見えないようにヴィオラがわかってんでしょーねと言いたげにレオンをゲシゲシ蹴る。
「やります!!ハイ!!頑張ります!!」
「ん、それならいいんだ。気張れよ。」
「ありがとうございます!!マム!!」
「うむ……全隊傾注!!間もなく敵は渓谷に侵入する!!総員戦闘準備!!」
ゾーネンシュリームが号令をかけると、両翼に潜む兵士達の緊張が高まり、空気がピッと張ったような気がした。
それに伴い、ヴィオラは撤退してきた兵を集めて正面に陣取るべく動く。
「あ、そうだ。レオン!」
どこぞへと駆けてゆく前に、ヴィオラはレオンへと声をかけた。
「何だよ?」
「頑張んなさいよ!……上手くできたらご褒美……あげるから!!」
ご褒美。ご褒美と言ったか。なんと素敵な響きか。
オッパイもみ放題を要求しようと思ったレオンは爽やかな笑顔で元気よく応えた。
「おう!!」
◇
「来たぞ、来たぞ!!総数約1万!!」
斥候が声を上げる。
荒々しく土煙をあげて、帝国軍が渓谷になだれ込もうとしていた。その目は総じて血走り、今にも喰い付いてきそうだ。
「ヴィオレット隊突撃!!絶対先に行かせんじゃないわよ!!
撤退した西方軍を取り込んだヴィオラの部隊が森から飛び出す。多少こちらが不利だが、ヴィオラ傭兵団も西方軍も士気が高い。撤退支援の恩を返そうという気概があった。
かくして、両軍が激突する。人数で劣るものの、ヴィオラの部隊はよく敵を押し留めていた。
帝国軍全体が渓谷に侵入した。好機は今。
レオンは一人、戦場を見渡して妄想にふける──もとい集中していた。頭の中はオッパイでいっぱいだ。
『やれるかい?』
アスモデウスが傍らでそう問う。レオンは戦場を見据えたまま、ニヒルに笑って答えた。
「やるさ。」
レオンの淫力が勃起する。最高に高まったそれを伴って、彼の口は号令を下す。
「
刹那、帝国軍の退路を塞ぐように地面から壁が隆起する。垂直に反り立つ壁はまさに絶壁。……オッパイを思い浮かべて絶壁とはこれいかに。いや、レオンは絶壁も逆にアリなタイプだった。
……ともかくこれで完全に帝国軍はこの空間に閉じ込められた形になった。
「なにっ」
「なんだぁ!?」
「しまった……!罠か!!」
そう、罠である。しかしもう既に遅かった。両翼から伏せておいた魔王軍が雪崩込む。
「ふははははは!!良くやった!レオンハルト!!」
先陣を切ったのはゾーネンシュリームだった。
「久方ぶりの戦争だ、景気よく行こうじゃないか!!見せてやろう人間共!龍の血の貴きことを!!」
ゾーネンシュリームが地面を蹴り、空中で身体を反らして息を吸い込むと同時に爆発的に胸部が膨らみ、そしてすぐさまそれを吐き出す。吐き出された息は炎となって帝国軍に降り注いだ。
龍の吐息──ドラゴン・ブレスである。流石は“龍血”といったところか。ブレスは帝国軍の全てを焼き尽くすとはいかなかったが、大きく彼らの戦意を削ぎ落とす。
「あ!!ずっこいじゃねぇかマリナ!!俺の獲物が減っちまうだろぉン!?なぁ!!」
その反対側ではブラダスクが大斧を振るい眼前の敵をまとめて切り飛ばしていた。
「私を!!名で呼ぶな!!!」
激昂しながらもゾーネンシュリームの爪と尾は雑兵を蹴散らし続ける。
部隊の大将の獅子奮迅の活躍に部下の兵士達が鬨の声を上げて続く。閉所での全方位からの攻撃に帝国軍はその数の利を少しずつ失っていった。
爆炎が舞い、首と血が飛ぶそれはまさに地獄。あとは惨めにすり潰されるのを待つばかりだ。
──包囲殲滅陣の完成である。
◇
「なんだあれすげえな。もう俺たちいらねぇんじゃねえかな」
木の上から、帝国軍にとっての地獄と化した戦場を眺めていたレオンはボソリと呟く。
その地獄を作り出した張本人である彼は、森に逃げ込む兵士を一人残らず皆殺しにするため、ラスター隊と合流していた。
「そうでもねェぜェ?大将。ほら見ろ、正面が空いた」
ラスターがニヤニヤしながら戦場を指差す。確かに正面担当のヴィオラ隊の包囲が少し緩んでいる。
──なるほど、こちらにも手柄を分けてやろうというクチか。俺の上司は随分おやさしくて有難い限りだ。ばちこーんとウィンクするヴィオラが目に浮かぶようである。
「しゃーねぇ、やるかぁ!ゴブリン共!!」
「ハッ、ナンナリト」
傅くゴブリン達に、レオンはヒュパッと敵を指さして言う。
「お前らがやることは野生のときと変わらねぇ、囲んで奪って嬲って殺せ。糞まみれの野郎共をもっと糞まみれにしてやれ。奴らをこっから生かして返すな。いいな?」
「アイアイサー!」
「よし散れ!!」
レオンの号令で53匹のゴブリン達が森に放たれた。可哀想に、楽には死ねんぞ。どいつもこいつも。
「いいのかい大将、ゴブリンなんて下級魔族だけで?言っちゃ悪いがァ、下級の中でもド下級だろゴブリンってのは」
「いいんだよ。塵だって積もれば山にならぁ。ゴブリンだってかき集めてぶつけりゃ
レオンは口角をギチッと上げて厭らしい笑みを浮かべた。
「ゴブリンのいいところは減ってもすぐ増えるとこだよラスター。1匹いりゃあどんなメスからもじゃんじゃん増える。なんで最弱の生き物が今の今まで滅びてねぇと思う?潰しても潰しきれねぇからさ。──死んだらまた増やせばいい。これ程都合の良い兵隊があっていいモンかね?」
「おお……なんかヴィオラの姐さんみたいだ……。」
「さってと、俺は走り回ってちょっかいかけまくろうと思うんだけどそっちは?」
「ま、普通に隠れて逃げてくるのを囲んで潰すかねェ?正々堂々ってのはどうにも性に合わねェんだ、俺」
「りょーかい。役割が綺麗に分かれたな。……じゃ!」
木から飛び降りてそのまま森の中へ消えていくレオンの姿を見送るとラスターは自分の隊の兵士達に向き直った。ちなみに隊のメンバーは先日の訓練キャンプにいた新兵達で統一されている。
「よぉし!俺達も行くとしようかァ?俺達新兵の初仕事だ、死なない程度に頑張ろうぜェ?お前ら」
ラスター隊の面々は緊張した面持ちで彼の言葉に肯いた。
「そう硬くなんなよ……やるからにゃ愉快に楽しく、エンジョイ&エキサイティングで行かなきゃ……あ、これいいなァ。座右の銘にしよ。」
木の上からスマートに飛び、降り立ったラスターはいつもの軽薄そうな笑みを浮かべ、兵士を引き連れ飄々と歩き始めた。
「さぁてねェ?『
◇
「はぁッ……!はぁッ……!あっ……ぎゃああああ!!」
森に逃げ込んだ帝国軍兵士を待っていたのは、またもや地獄であった。
満身創痍で森に潜むゴブリンの群れに追いかけ回され、終には嬲り殺される者。
「なんだぁっ、うわああああ!?」
レオンの勃起魔法により突如現れる落とし穴に落とされ、土の槍に身体を刺し貫かれる者。
「うわあああ!!駄目だ!!こっちもゴブリンがいるぞぉ!!」
「逆の茂みに逃げ込め!!」
「なにっ!!」
時折聞こえる声に騙され、逃げ込んだ先に
「はァいこんにちは♡残念でした」
「えっ……?ぎゃあああああ!!!!」
待ち構えるラスター達に殺される者。──アヴノバ森林は混沌の坩堝に相成った。そこにあるのはもはや戦争とは言えぬ、一方的な殺戮であった。
──数時間後、森に逃げ込んだであろう帝国兵が大体森の肥やしになった頃、渓谷の方で緑の信号魔法が上がった。どうやら戦闘が終わったようである。
レオンも返答に緑の信号魔法を打ち出す。状況終了、森に逃げ込んだ敵を大方殲滅せり──と。
「いよォ大将、お互い生きてるなァ。」
「お疲れ、ラスター。……いや無事に終わって良かった。命あっての物種だかんな。」
ラスター隊も上手くやったようだ。ゴブリン達も久々に暴れて上機嫌である。敗残兵相手とはいえ森の部隊は死傷者は0。初陣としては上々だ。
こうして、レオン達の初めての戦争は終わりを告げた。この戦いを契機に、魔王軍は快進撃を続けることになるがそれはまだ先の話である。
「へへ……ご褒美何にしよっかな〜〜〜!」
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