幕間 ステータス・オープン!


 一先ず協力関係となったレオン達は夜明けと共に森を出、魔王国ニヴルヘイムへ向かっていた。

 レオンが追放されたオズワルドの街よりも更にその先にあるニヴルヘイムまでは徒歩なら二週間といったところか。

 ゴブリン共はとりあえず魔導収納袋にしまっておいた。


「まず、私達が何を出来るのか共有しましょ?」


 街道を歩いていると、『禁術秘録ルール・ブレイカー』を読みつつヴィオラが言った。


「どうしたいきなり」


「あのねぇ、私達これから何すると思ってんの?戦争よ、戦争!自戦力の把握なんて兵站以前の問題なんだから!」


「軍人みたいな事を言うんだな、貴族なのに。」


「あぁ私、帝国軍士官学校卒なのよ。」


「は!?貴族なのに?」


「そうよ!しかも最高難度を誇る魔導砲術科を首席で卒業してやったわ!!……あぁ!爆発と衝撃に彩られたあの日々が懐かしいわぁ……!」


 ヴィオラは恍惚として空を見上げる。


 ──しかし凄い女がいたものだ。レオンも祖父に戦場を連れ回され戦場というものを教育されていたから、その凄さは十二分に解った。

 魔導砲とは魔力を込めてそれを撃ち出す……なんかデカい筒のことである。三十年くらい前の魔王軍との戦争時に初めて実戦投入され、その絶大な火力によって事実上の停戦状態に持ち込んだ……とされる。

 

「しかしどうして魔法学院の方に行かなかったんだ?貴族だし、魔導砲科に入れるんならそこでも良かったろうに。」


「あんなひょろいボンボン共が毎日お茶会やってるようなヌッルい所御免被るわ!……ま、性に合ってたのね。」


「ふーん。」


「そんなことより戦力把握よ戦力把握!ちょうど良い禁術があったからちょっと止まりなさい!」


 レオンを立ち止まらせると、ヴィオラは手を彼へとかざした。


「その本は?」


「よくぞ聞いたわ!これは『禁術秘録ルール・ブレイカー』!帝国から禁じられた世界の理をも破壊する魔法ばかりが記された狂気の魔術書よ!」


 ヴィオラはドヤ顔でそう語った。


「そして!これこそが全てを白日の下に晒す禁忌の魔法!!『汝の力を晒せステータス・オープン』!」


 そうヴィオラが叫ぶと、彼女の手の前に小さい半透明の板のような物が現れた。そしてそこにはびっしりと文字が書かれていた。


「ふんふん……レオンハルト・ノットガイル24歳、筋力はそれなり、魔力もそれなり、うーん大体のことが普通にできるみたいだわね!器用貧乏ってやつ?」


「要領が良いって言ってくれ……。」


「でー、スキルが『隠密』に『強撃』、『解錠』、『瞬足』と……ん"?」


 ヴィオラが急に固まった。


「どうした?」


「……ねぇ、この『勃起エレクタイル魔法・マジック』とか『淫力強化』とか『淫力開放』とか……何なの?」


「また知らない能力が出てきた!!知らねぇよ!」


「はぁーッ……ってことはまたあの剣絡みね。魔法でわからないかしら。『汝の力を晒せステータス・オープン』!」


 今度はレオンの剣に向けて魔法を唱えたが、何も起きなかった。


「うーん駄目ね。これ、生き物にしか効かないみたい。」


「……ほんと何なんだろうな、この剣。」


 レオンは剣を空にに掲げる。剣は日光を反射して輝いているが、その輝きは至って普通の剣のそれにしか見えなかった。


「ま、わかんないものはしょうがないわね。鑑定スキル持ちに会ったらやってもらいましょ。」


「そうだな。」


「さ、今度は私よ。やってみなさい。」


 ヴィオラはレオンに向かって両手を広げ、『来い』のポーズを取る。


「俺にもできんの?」


「魔法は呪文が分かれば発動できる。基本でしょ?」


「それもそうだな。……『汝の力を晒せステータス・オープン』!」


 同じようにヴィオラに手をかざし魔法を唱える。また同じように半透明の板が現れる。


「おお、魔力量がやばいな。流石元貴族だ。」


「ふふん、当然よね?」


「他はそこそことはいえ魔法についてはピカ一だな。……お?」


 レオンは興味深い項目を見つけた。


「102…102!?58、91……。」


「……?何の数字?」


「スリーサイズだってさ。」


「『少し、爆ぜよプチ・デトネィション』。」


「ぎゃっ」


 レオンの顔面が少し焼けた。


「このアホ!アホ!!どこ見てんのよ!!戦力確認だって言ってんでしょ!!」


「いや、女の肉体からだは立派な武器だろう。」


 レオンはいたって真面目な顔でそう言った。


「そーいう話をしてんじゃないのよ!!バカ!」


 ヴィオラはぷりぷり怒って先に歩き出した。


「回復は自分でしなさいよね!行くわよ!!」


 歩く度にその豊満な胸が揺れる。そうか、102、102かぁ……。デカいとは思っていたが、数値を聞くとなおデカく見える……。



 ちらりと後ろを振り向いて、ヴィオラはボケボケしているレオンを見て、思った。


──私、雇う人間間違えたかしら……。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る