Track1-3 お師匠さまの言うことにゃ、はじめはジョブを取得するべし
「どうせ暇だからジョブ取得も付き合うよ」
「そ、そこまでしなくてもいいにゃ」
「俺はお師匠さま、なんだろ?」
「うぐっ、お願い……しみゃす」
街についた時にお兄ちゃんとそんなやり取りをして、ジョブ取得もついてきてくれることになった。ううっ。貰ったパーカーの猫耳フードで隠してはいるけど、長く一緒にいると私が妹だとばれてしまうかもしれない。フードをぎゅっと握ってお兄ちゃんの後ろをついていく。
最初に案内されたのは斧術士ギルドだった。
「やっぱり初心者なら最初は近接ジョブがおすすめかな」
「そうにゃんだ」
「HPと防御力が高くてソロでも滅多に死なないし、直感的に攻撃できて楽しいぞ。試しにそこに練習用の木人があるから攻撃してみな」
お兄ちゃんは稽古場のような場所に置いてある木の人形を指さすと、自分の担いでいた斧を私に渡してきた。両手で掴むとゲームなのに金属の冷たい感触とずっしりとした重みを感じる。両手が地面に吸い寄せられるように下がっていき、そして重い金属音と共に斧が地面に落ちた。
「この斧、重すぎっ……!」
「あ、そうか。俺の斧だとダメか。それならギルドの練習用を……」
次に渡されたのは木でできた斧だった。これも重いけど、これくらいなら振ることができそう。木人の前に立って斧を構える。
「えいっ! にゃあ! とりゃあ!」
力を込めて思いっきり振り回す。縦に振って横に振り、最後は回転。最初にしては上手くできたと思う。最後のほうなんて斧の重さも感じないくらい綺麗に回転できた。汗は流れていないけど額を拭って自慢気にお兄ちゃんを見る。すると、失敗を励ますように肩を叩かれた。
「……あー、うん。斧というか、近接ジョブは止めよう」
「え、完璧だったは……ず、にゃ?」
手元を見ると両手でしっかりと持っていたはずの斧がどこかに消えていた。足元には木でできた斧。もう一度手を見て両手を開き、そして握る。
「だから最後に斧の重さを感じにゃかったんだ」
「……いや、最初に振った時からすっぽ抜けていたぞ」
双剣士ギルドにも行ってみたけど短剣もすっぽ抜けてしまった。それを見て呆れられて、主にお兄ちゃんが気を取り直して次に案内したのは弓術士ギルド。
「初心者にレンジは難しいけど、ダメ元でいいか」
れんじってなんだろう?
れんじレンジ……電子レンジ?
「レンジなら簡単じゃないのかにゃ?」
「弓を引くだけなら、な。試しに弓を使ってみるといい」
よくわからないけど、電子レンジくらいの難しさなら簡単。そんなことも出来ないなんて舐められたものだ。木人をしっかり狙って弓を引く。すると、明後日の方向に矢が飛んでいった。何度やっても同じで、結局一本もまっすぐに飛ばなかった。
「もしかしてここは天国かにゃ?」
落ち込みながら向かった先は天国だった。右を見ても左を見てもモフモフな生き物たちがいる。
「いや、魔獣使いギルドだぞ。その魔獣たちを使役して鞭で攻撃するんだけど……」
「鞭! 鞭なんてかわいそうにゃ! 暴力反対!」
「戦闘で使役魔獣には鞭を使わないんだけど、まあ、他の武器であの様子だと間違って攻撃しそうだよなぁ」
そんな感じでジョブギルドを色々と見て回ったけど、ファンタジーらしい魔道士になることにした。決め手は詠唱をするだけで魔法がまっすぐ飛ぶから。さっそく初心者のローブに着替え、杖を持ってお兄ちゃんに見せびらかす。
「魔道士ここねの誕生にゃ!」
「……そのパーカーは要らなくないか?」
ローブには少し合っていないけど、せっかくあるから着ないと。それに、お兄ちゃんから貰ったものだから。ドヤ顔で胸を張り「必要にゃ!」と断言する。
「まあいいか。それじゃあ案内はここまでだな。ようこそ、ティアオンの世界へ」
「……え?」
「あとはレベルを上げてメインクエストを進めたりして好きに遊ぶといいぞ」
お兄ちゃんは手を振ると背中を向けて歩き出した。遠くに行っちゃう。そう思った瞬間、勝手に体が動いてお兄ちゃんの服の裾を掴んでいた。
「ん? まだ何か聞きたいことでもあったか?」
「えっと、その……お師匠さまは私のお師匠さま、なんだよにゃ?」
「あー。あれは先輩プレイヤーとして初心者が心配だったから、おせっかいを焼くための建前で言っただけで……」
お兄ちゃんのことだから、どうせそんなことだろうと思っていた。このまま別れる方がお互い幸せだけど、でも……。
「私のお師匠さまになってくださいにゃ!」
気がつくと私はそう言っていた。
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ここねの誤用語修正パッチ【レンジ】
オンラインゲームでは主に遠隔物理ジョブである
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