第41話 愛のある関係
顔を赤らめてうつむいたままの千景に私はささやいた。
「今の私たちの関係って、なんなんだろうね」
「お姉ちゃんはなんだと思う?」
答えがないのに聞き返されて、どう返答するべきか悩む。けど正式に付き合ってもいないのに性行為に及ぶ関係なんて、下品かもしれないけれど一つしかない。
「セフレ?」
すると千景はあからさまに不服そうな顔で私をみつめた。
「……セフレに愛は、ないでしょ」
まるで私たちの関係に愛を求めているようなその言動に、私は目を見開く。千景は姉としては私をそれなりに受け入れてくれているのだと思う。少なくとも、私をただ憎しむだけの存在だとは考えていない。
けど、性行為をする愛のある間柄って……。
黙り込んでいると、千景は上目遣いで私をみつめた。
「今更って思うよね。でも私は……。こんなこと、言ってもいいのかな。これまで私、たくさんたくさんお姉ちゃんを傷付けてきたのに」
千景は私の手をぎゅっと握りしめた。表情を曇らせながらうつむいている。
「それは私も同じでしょ。私も千景のお姉ちゃんとしてずっと失敗ばかり重ねてきたんだから」
抱きしめると、千景はそっと顔をあげた。
「お姉ちゃんは、私のこと、嫌いじゃない?」
嫌いじゃないなんて否定はできない。でもそれだけでもない。
「嫌いだけど、嫌いの一言では言い表せないよ。あんたも分かってるでしょ? 私だって、あんたが純粋な憎しみだけで私を傷付けたなんて、今は思えない。私のこと私のために諦めようとしたり、泣いてみたり、手を繋ぐだけで顔を赤くしたり……」
思い返してみれば、いくつも兆候はあった。でも私はこれまでの千景という人間に照らし合わせて、全てを否定したのだ。そんなわけがない、と。もっとも気付いたところで、かつての千景がそれを認めると思えないけれど。
「もしかしたら、そうなのかもしれないって思ってた。私のこと、好きなのかもしれないって。ただ、向き合うのが怖かったんだ。だって千景は妹でしょ。しかも、私を嫌ってた」
「だったら向き合ってよ。分かったでしょ。私はお姉ちゃんを嫌ってるわけじゃない。むしろ、……好きなんだと思う」
そう口にする千景の顔は真っ赤だった。それにつられて、私の顔まで熱くなってしまう。千景が、私のことを好き。夏休みに入る前、私たちの中が致命的に引き裂かれるきっかけになったあの日。私は千景の好意を間違ったものだと断定した。
もしもあの日、千景が私に素直に気持ちを伝えてくれたのだとしても、私たちは決して結ばれることなんてなかったのだろう。でも今は、私たちは散々に歪んでしまっている。だからこそ否定できる理由もない。
姉妹なのに何度も何度も唇と体を重ねた。普通じゃないことを普通じゃないと否定できるほど、普通な人間ではなくなってしまったのだ。でも最後に一度だけ、問いかけたい。
「本当に千景は私でいいの?」
私が問いかけると、千景は悲しそうな顔をした。
「お姉ちゃんが自分を嫌いになってしまったのは、私のせいでしょ?」
「そんなこというのなら、千景だって」
「だからだよ。私たちはお互いを歪め合った。お姉ちゃんにも、私にも、お互いの面倒を見る義務がある。でも義務だけじゃなくて本当にお姉ちゃんが私を好きになってくれるのなら、……きっと私はお姉ちゃんのことも、たくさん幸せにしてあげられると思うんだ」
千景のことは好きなのだと思う。妹として、そして恋人として。けれどその二つの好意は未だに交じり合っている。でも私たちにはそれが相応しいのだろう。
「私だって千景が本当に愛してくれるのなら、千景を幸せにできるよ」
そうつぶやくと千景は嬉しそうに微笑んで、私にキスを落とした。
千景は素直な気持ちを話してくれた。けれど疑念だってある。
「それにしても、どうして急に素直になったの?」
私が問いかけると、千景は途端に寂しそうな表情になってしまう。
「……全部作りものでいいかなって思ったんだ」
「どういうこと?」
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