第22話 大好きだよ

 私は千景の部屋で千景に性行為を求められていた。


 何を言い出すかと思えば。本当に千景の思考回路は謎だ。


「だからあれはえっちじゃない」

「お姉ちゃんがえっちしてくれたら、うるさくしない」


 そんなに私に罪悪感を与えたいのだろうか。憎しみを抱いて欲しいのだろうか。執着させる方法なんて、憎しみ以外にもたくさんあるのに。


「理解できない」

「別にどうでもいいでしょ。私はお姉ちゃんとえっちしたいの。私の言うことが聞けないのなら、ずっとうるさくするから」


 千景はあまりにも頑なだった。いつだって折れるのは姉である私なのだ。千景は真っすぐな芽衣とは違う。自己中心的で、歪んでる。いうことを聞かなければ、本当にうるさくしかねない。


 私は仕方なく肩を落として、千景の綺麗な黒髪を撫でた。


「分かったよ。すればいいんでしょ。でも今はだめ。お母さんいるから」

「だったらうるさくするだけ」


 千景はまたしてもぷいとよそを向いて、頑なな表情になった。


 私は大きなため息をついて、千景にキスをした。


 一階にはお母さんがいる。ほとんど上がって来ることはないとはいえ、万が一がある。もしも姉妹で性行為をしている所を見られたら、ただでは済まないだろう。


 でも今しなければ、千景は本当にうるさくするはずだ。明日も明後日も明々後日も。それなら今のうちに千景を犯してしまったほうが、リスクは低い、と思う。


 千景はもう裸だから、服を脱がせる必要はない。股の間だって、さっきまで一人でしていたからか、もう十分に湿っていた。私が胸を触りながら指を入れると、すぐにあえぎ声をあげ始める。


「お姉ちゃん。気持ちいいよっ」

「そりゃよかった。さっさといってくれない?」


 純粋でまぶしい芽衣とのギャップに頭がくらくらしそうだった。千景とも芽衣と似たような関係になれたらいいのに。相手のことを思って、相手も私のことを思ってくれている。そんな関係に。


 けれど、それは無理なのだろう。千景は歪んでいるし、私だって歪んでしまっている。妹とこんな、セックスまがいなことをしてしまうくらいには。


 さっさと終わらせてしまいたい。一階にはお母さんがいるのだから。けれど千景はそんな私の不安をあざ笑うみたいに、私を抱きしめた。足も背中に回されて、千景の上から動けなくなってしまう。


 我慢しているのか、体をびくびく震わせていた。

 

 千景はうるんだ瞳で、頬を上気させながら、至近距離で私をみつめてくる。


「私のこと、愛してるっていって」

「そんなに私のこと、辱めたいの?」

「そうだよ。じゃないと限界まで我慢するから」

「……分かったよ。愛してる」


 大嫌いな千景に「愛してる」なんて言うのは、なんだかむず痒かった。けど何かが千景の琴線に触れたのか、そう告げた瞬間、きゅうと指に吸い付いてきた。


 びくびく震えていた。まるで本当に私のことを愛しているみたいに。そんなわけないのに。私たちの間には、憎悪しかないはずなのだから。


「お姉ちゃんっ。キスしてっ」


 私はおとなしくその命令に従った。唇を重ねて、舌を入れる。大嫌いなやつを喜ばせるのは、心外だけど。でもこうして快楽に身を委ねている瞬間の千景は、まるで昔に戻ったような混じりっ気のない純粋な表情になるのだ。


 まるでそれが本性であるかのように錯覚するほどに。


 それからはもう、あっという間だった。千景はもう我慢していないみたいで、すぐに達していた。


 ベッドの上で裸で脱力するその姿に「さっさと服着なよ」とつげてから、部屋を立ち去ろうとした。すると千景は私の服の袖を指先でつまんだ。


 そしてこんなことをささやくのだ。


「お姉ちゃん。大好きだよ」


 とろんとした瞳は、まるで現実ではない世界を見ているみたいだった。だけど鋭く睨みつけてやると、正気を取り戻したのか、千景は顔を真っ赤にして私から顔を背けていた。


「お姉ちゃんなんて、大嫌い!」


 きっと後者の方が真実なのだろう。でも前者が真実ならいいのに、なんて思う私もいて。もしも小学生の頃のような正しい関係に戻れたのなら、どれほど幸せだろうかと思ってしまうのだ。

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