第23話 偽物でもいい

 お姉ちゃんは最近ずっと私を避けてた。もう二度と言葉なんて交わしてくれないのかと思ってた。だから構ってもらえてとても嬉しかった。


 しかも私が求めたら「愛してる」って言ってくれた。キスだってしてくれた。優しく、してくれた。嫌われてるって分かってるのに、それでも嬉しいって思ってしまう私は、おかしいのかな。


 好きだから、してくれてるわけじゃないのに。


「……お姉ちゃん」


 私はお姉ちゃんのことを考えながら、また大切なところに手を伸ばす。

 

 時々お姉ちゃんは憎しみでも無関心でもない、別の。じっとりと湿ったような目線を向けて来ることがある。まるで私に欲情してるみたいな。……気のせいだとは思うけど。だって私はただの妹で、しかも嫌われてる。


 でも本当ならいいのになって思う。……せめて。心では繋がれなくても、体だけは。……いつか本当のえっちをできたらいいのにな、なんて思う。もしも私の体に欲情してくれているのなら、いつかは。……もしかすると、そういうことだってあり得るかもしれないし。


 それはそれで虚しい関係なのかもしれないけれど、今の私が目指せるお姉ちゃんとの関係はそれが、体だけの関係が限界だと思うから。


 だって嫌われてる私が、妹な私が心からの恋愛を願っても、きっと拒絶される決まってる。だったら今のまま嘘をつき続けて、体だけの関係だけでも手にしたほうがいい。だから、これからは毎日、お姉ちゃんにえっちまがいなことを、ねだろうと思う。


 もしかするといつか我慢できなくなって、私と本当のえっちを望んでくれるかもしれないし。だから……。うん。頑張ろうと思う。


 そんなことを考えながら、一人でしていると、一階からお母さんとお姉ちゃんの声が聞こえてきた。溢れ出したものを拭いてから、私は服を着て階段に向かった。


 少し、気になったのだ。酷い成績を取った私に、お母さんがどんな反応をしているのか。お姉ちゃんにどんなことを話すつもりなのか。


「千景、なんだか悩み事抱えてるみたいなのよ。期末試験もひどかったし。凛、少し相談に乗ってあげてくれない? ほら、もうすぐ夏休みだし、近くで花火大会あるでしょ? 普段の雰囲気ではいいだせないことなのかもしれないし、花火大会ならもしかすると話してくれるかもしれないから。お願いね?」

「……なんで私が」

「お願い。あなたしか頼れないの。浴衣も用意しておくから、頼んだわよ?」

「分かったよ。……最悪」


 私はわくわくしながら、自分の部屋に戻った。


 お姉ちゃんと花火大会デート? 想像するだけで、わくわくしてくる。でも私とお姉ちゃんは犬猿の仲だ。たぶん、私の想像するようなことは起きないんだと思う。


 でもやっぱり嬉しい。お姉ちゃんはきっとお母さんのことを心配して、渋々従っただけなんだと思うけど。


 私はまた、お姉ちゃんを想像しながら、自分の体を気持ち良くするのにふけった。私の頭の中では理想的な妄想が繰り広げられていた。

 

 花火大会の終わり、浴衣姿のままお姉ちゃんにホテルに誘われる妄想だった。花火大会のロマンチックな雰囲気そのままに、浴衣の帯を解かれて、お姉ちゃんにベッドの上で愛をささやかれるのだ。


 そんな甘い妄想をしていると、すぐに快楽が訪れた。私はまた脱力して、小さく震えながら天井を見上げた。


 だけどふと冷静になって、虚しさを感じた。実際にはお姉ちゃんは花火大会の後ホテルに誘ってくれないだろうし、本当のえっちだってしてくれない。私が脅しでもかけない限りは。だって私はお姉ちゃんに嫌われていて、そんな私にお姉ちゃんが体を許してくれるわけはないのだ。これまで私はお姉ちゃんに触れられるだけだった。


 お姉ちゃんを、好きな人を脅すなんて気が引ける。けどやっぱりお姉ちゃんとえっちしてみたい。どうせ心は繋がらないって分かっているのだから、せめて体くらいは誰よりも深く繋がりたいのだ。


 手に入れられないお姉ちゃんはより深く心に残ってしまう。ここしばらくお姉ちゃんと関わらなかったせいで、強くそのことを自覚してしまった。


 心に大きく空いた穴を埋めたい。偽物でもいいから、埋めてしまいたい。脅してでも、無理やりにでも埋めてしまいたい。


 そう思ってしまう私は、きっと「異常」なのだろう。でもその衝動は止められそうになかった。だって目の前には絶好のチャンスがあるのだ。ここでためらえば、一生、私の望む物は手に入らないような気がする。

 

 私はひりひりとした罪悪感。そして奇妙な高揚感をも覚えながら、お姉ちゃんを脅す決意をした。

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