第24話 最低最悪の妹
忌々しい妹と、夏休み、花火大会に行くことになった。
お母さんは用意のいいことに浴衣まで準備しているらしい。千景は我が家の期待の星だ。私なんかよりもずっと優秀だから、お母さんが心配するのも当然か。
「……でもどうやって誘おう」
あいつは私を嫌ってる。だからどうせなにか面倒な条件でも付けて来るに決まってるのだ。でも悩んでいても仕方ない。私は早速、千景の部屋に向かった。
扉をノックしてから告げる。
「入るよ」
「……勝手に入れば」
千景はまた一人でしていたのか、裸のままだった。均整の取れた綺麗な体を隠すこともせずさらしている。相変わらず蔑むような表情を浮かべているけれど、少し前までの気弱な千景よりはずっとましだと思った。
でもこれからは、また以前のような苛烈な戦いが繰り広げられるはずだ。私も気合を入れなおして、千景に向き合わないといけない。さもなくば、あっという間に打ち倒されてしまうだろう。
「これは私の意志じゃない。あらかじめ言っておく。お母さんのために仕方なくあんたを誘ってるの。花火大会、ついてきてもらうよ」
私が力のこもった声でつげると、千景は長い髪の毛を撫でながら、強気な視線を向けてきた。
「ついていったら、お姉ちゃんは私に何をくれるの?」
「もうあげられるものは何もない。あんたに全部奪われたから」
「だったら、今度はお姉ちゃんの処女が欲しい」
「はぁ!?」
「そしたらついていってあげる」
流石にその提案は飲めない。要するに、今度は私の体を千景に犯させろ、ってことでしょ?
「……あんた、頭おかしいの?」
「知ってるでしょ」
「あぁそうだったね。問いかけるまでもなかった。あんたは頭がおかしい」
「で、私にお姉ちゃんの処女、くれるの?」
千景が頑固者であることは知っている。一度言い出したら、こいつは意思を変えない。でも流石に、千景を犯すならともかく、私が千景に犯されるって。
千景なら、なんというか、とんでもないことをしてきそうな感じがある。私は一応千景に遠慮しているけれど、千景はそんな言葉知らないはずだし、物理的に傷つけられてもおかしくない。
「あげるわけないでしょ」
「じゃあ行かない」
「……あんた、お母さんがどれだけ心配してるか分かってないの?」
「知ってるよ。散々期待されてたからね。将来は東大だとか、一流企業だとか。でもそんなのただのエゴの押し付けでしょ? 本質的には心配なんかじゃない。私は親にすら心配なんてされことない。親は私を見てない。私の能力しか見てない。都合のいい人形でしかない」
千景は寂しそうな顔で私をみつめた。
確かに、その通りだと思う。
思い返せばみんな千景ではなく、千景の能力しか見てなかった。昔から、そうだった。せめて私だけは千景のことを見てあげたい。そんなことを思っていたものだけれど。今となっては千景も私もこのざまだ。
自尊心も自信もへし折られた私は空っぽな人間で、もはや千景のお姉ちゃんであるという事実なしには立てない。千景だって私に人間関係を依存している。
「でもあんたが今のままじゃ、家が不安定になる。私が迷惑するの」
「だったらお姉ちゃんの初めてを私にちょうだい」
「だから、それは無理だって……」
「それなら行かない」
そんな無意味なやり取りが永遠に続きそうだったから、私は仕方なく折れることにした。妥協案だって決して気持ちのいいものではないけれど、それでもまだ千景に乱暴されるよりはましだ。
「……代わりに舐めてあげるから」
「えっ?」
千景はきょとんとしていた。
「あんたのあそこ、なめてあげるって言ってるの。これが限界。これ以上は絶対に無理。だからその代わりに、あんたはいつものあんたに戻って。天才で傍若無人で、誰の目も気にしない。憎まれっ子なあんたに。泣きながら変なことしたり、学校でもふさぎ込んでたり、そういう面倒な演技は全部やめて」
本当に最悪。何が嬉しくて、妹のあそこをなめないといけないんだ。でもこうでもしないと、千景は本当に家庭を破壊しかねない。千景は両親ですら見下している。
「……本当になめてくれるの?」
千景は上目遣いでみつめてくる。その表情が可愛らしいのがなおさら憎らしかった。
「最悪だけど、お父さんもお母さんもいつも通りのあんたを必要としてる。親を心配させたくなんてないんだよ。二人はいつだってあんたのことばかりみてたけど……」
「私じゃなくて、私の才能でしょ」
千景はうんざりした表情で、肩をすくめた。
「どうでもいい。とにかく、私は両親を苦しめたくない。だからあんたのあそこをなめるの。最悪な気分で」
「……ホテルでなめて」
「は?」
なんでいきなりホテルが出てくるの? 理解できない。千景の思考回路は私とは別物みたいだ。知ってたけど。
「花火大会の後、すぐにホテルでなめて」
「あんた、頭おかしいんじゃないの? 私たちは未成年で姉妹なんだよ?」
私が睨みつけると、千景は私の手を自分の股の間に持っていった。そしてそのまま、嫌みったらしく私をあざ笑う。
「私の処女奪うのは良いんだ? あんなレイプみたいなことはいいんだ?」
私は千景の無駄に綺麗なそこをみつめながら、表情を歪めた。最初に始めたのは私だ。途中からは千景に命令されるような形でそうしたけれど。
だから何も言えない。
「もしも私が両親に「お姉ちゃんにレイプされたからこうなった」って報告したら、二人はどっちを信じるんだろうね? 期待されてる私? それとも凡人なお姉ちゃん?」
「……最低」
「知らなかったの?」
私は千景の手を振り払って、部屋を出ていった。
私の想像以上に千景は歪んでる。いつだってあいつは私の想像の先を行くのだ。信じられない。私を脅すなんて。
でもあいつの言うことは正しい。私も異常なのだ。本当なら妹を守るべき姉なのにレイプしたのだ。いくら自分で望んだとはいえ、大嫌いな私にあんなことされて、おかしくならないほうが異常だ。復讐しないほうが異常だ。
「あぁ。もう……」
最悪だ。私はきっと、千景に脅されれば命すらも差し出さなければならないのだろう。自由意志なんてあってないようなものだ。あらゆるものを全て失ったと思っていた。でも千景は全てじゃないことに気付いていて、その機会を虎視眈々と狙っていたのだろう。そして私は大きなミスを犯した。
千景には「私にレイプされた」という切り札がある。
私はベッドに横になって天井を見上げた。今頃妹は勝利の余韻に浸っている所だろう。何をしたって最低最悪の妹を喜ばせることになってしまうのだ。
なにより千景がこんな風になるまで何もできなかった自分が、情けなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます