第34話 よくできました
私はベッドがきしむほどに、お姉ちゃんの体を乱暴に扱っていた。なのにお姉ちゃんはとても嬉しそうにしている。
お姉ちゃんは私以上に歪んでいた。きっと私が歪ませてしまったんだ。
そう気付いたときにはもう遅かった。罪悪感は抑えきれなかった。だから私は普通の関係をお姉ちゃんに示した。
でもお姉ちゃんはそれを否定した。自分の幸せよりも、私への執着を選んだ。そのことが、自分でも信じられないくらい嬉しかった。お姉ちゃんの気持ちは、きっと私の気持ちとは違うけれど、それでも「これでいいかな」って思いそうになってしまうくらいには。
でもお姉ちゃんのそばにいるためには、ずっとお姉ちゃんを憎んでいるふりをしないといけない。本当は好きなのに。たくさんたくさん、愛してるって伝えたいのに。それは辛いことだ。でも仕方ないのだと思う。
これまで散々、お姉ちゃんを苦しめてきた私への罰なのだ。好きな人を憎んで苦しめて、そのことに辛さを感じて。好きって気持ちも伝えられなくて、歪んだ愛でしか言葉を交わすことができない。
「妹に犯されて、こんなに感じてるんだ? お姉ちゃんって、本当に気持ち悪いね。もっと乱暴にして欲しい? ねぇ? それならそうだって言って。動物みたいな喘ぎ声ばかりあげてないでさ」
「して。千景っ。もっと、激しくっ。お願いっ」
お姉ちゃんは熱っぽい視線を私に向けながら、恍惚とした表情でつげた。
私は心に痛みを抱えながら、お姉ちゃんの体を蹂躙した。自分でも望まないほどの、憎しみや怒りをぶつけた。だけどお姉ちゃんが望むような純度百パーセントの感情は無理だった。だって私はお姉ちゃんのことを愛してる。
でも私たちの関係はこじれすぎていて、例え「愛してる」を言葉にしたところで、決して思いは伝わってくれないのだろう。これまでずっと、私たちはお互いを憎しみ続けてきた。今さら私が矢印を反転させたところで、それを受け入れてもらえるはずもない。
私はお姉ちゃんの妹で、お姉ちゃんは私のお姉ちゃん。
歪んだ私たちは憎しみという感情でしか繋がれないのだ。
それでもやっぱり私は恋人になりたいと思ってしまう。
あり得ないと思うけれど、もしもお姉ちゃんが私じゃない人と付き合ったりなんてしてしまえば、私はきっと死んでしまうだろう。もしかすると、お姉ちゃんを殺してしまうかもしれない。
私はベッドの上で、とろとろな表情を浮かべるお姉ちゃんを見下ろす。手の動きが激しくて、ベッドがうるさくきしんでいる。お姉ちゃんも獣みたいな愛おしい喘ぎ声をずっとあげている。腰をうねらせて、胸の先端を尖らせて、触れるたびにびくんと体を跳ねさせる。
不意に私が手の動きを止めると、寂しそうな表情で私をみつめてきた。本当に歪んでしまったんだなと思う。こんなに激しくされてるのに、やめたら安堵するどころか恋しそうにするなんて。
でもそれは私も同じ。
「……お姉ちゃん。愛してるっていって」
私がささやくと、お姉ちゃんは頬を紅潮させたまま、複雑そうな顔に変わった。だから私は蔑む表情を浮かべて、お姉ちゃんにつげる。
「言わないなら、もうやめるから。もっと欲しいんでしょ? お姉ちゃんは淫乱だもんね? 妹に犯されたい淫乱だもんね? だったらいいなよ。ほら、早く!」
ぬるぬるになった指先をお姉ちゃんの前に持っていくと、お姉ちゃんは恍惚とした表情をしていた。かと思うと、まるで洗脳でもされたみたいに「愛してる。千景」とつぶやいた。
「よくできました」
私はお姉ちゃんの頭を撫でてから、ヌルヌルになった指をお姉ちゃんの口に突っ込んだ。お姉ちゃんはとろんとした表情でそれを熱い舌でなめている。なんだか全身がぞくぞくとした。
私は自分の欲望のままに、また指先をお姉ちゃんの大切な場所に沈める。お姉ちゃんはまた獣のように荒い息で、背中をそらせ、嬌声をあげた。
憎しみあう関係でもいい。心から繋がれなくてもいい。でもせめて、死ぬまでずっとそばにいたいのだ。お姉ちゃんを感情だけでなく関係でも私に縛り付けたいのだ。
お姉ちゃんと恋人になる。それは一見、難しいことのように思える。けれど実際にはそう難しくない。
そもそも私とお姉ちゃんがホテルでえっちすることになったのは、私がお姉ちゃんを脅したからだ。それならお姉ちゃんを脅しさえすれば「恋人」にだってなれる。
心は繋がらないとは思う。でも憎しみゆえの理由があれば、きっとお姉ちゃんは喜んで、私の提案を受け入れてくれるだろう。そんなことを考えながら、私はお姉ちゃんに乱暴なキスを落とした。
「お姉ちゃんなんて、大っ嫌い」
睨みつけると、お姉ちゃんはその瞳に歪んだ喜びの感情を湛えた。
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