第14話 もしもこれが恋じゃないのなら
またベッドに戻ってきてくれたお姉ちゃんは、さっそく私の大切な場所をいじり始めた。もうたくさん濡れているから、くちゅくちゅとえっちな音が聞こえてくる。
お姉ちゃんは時々、熱っぽい視線を私に向けてきたような気がするけれど、それが私の妄想なのか現実なのか区別はつかなかった。でもこれまでお姉ちゃんにしたことを思い出せば、きっと妄想なのだろうなと思う。
私のお願いを聞いてもう一度してくれてるのも、きっと私のためじゃない。普通の姉妹になるためだ。私はお姉ちゃんに嫌われてる。執着してくれればそれでいいとか思ってた。でも今では凄く後悔してる。
どうして私はあんなことをしてしまったんだろう? お姉ちゃんの大切なものを踏みにじって、傷つけて。どうして……。どうして? 後悔しても無意味なのに、馬鹿みたいに同じ考えが巡ってしまう。
認めたくなかった。受け入れたくなかった。けど、こんなに胸が苦しいのは、お姉ちゃんの手が気持ち良くて仕方ないのは……。
私、ずっとお姉ちゃんのこと好きだったんだ。でも私たちは姉妹で、報われるはずのない恋。嫌なことばかりしてたのも、分からないけど恋の代償行為みたいなものだったのかもしれない。
お姉ちゃんの手の動きが激しくなって、気持ちが昂って来る。気持ちいいのが溢れ出してくる。その瞬間私の口から、声が無意識に漏れ出していた。
「お姉ちゃんっ。……好きだよっ」
「気持ち悪い。あんたのことなんて、大嫌い!」
胸が苦しくなった。私は懇願するような瞳でお姉ちゃんをみつめるけれど「愛してる」なんて言葉は帰ってこなかった。ただただ乱暴に私の体を犯すだけだ。
「妙な嘘はつかないで。何を企んでるのか知らないけど、あんたに限って私を好きとかあり得ない。私も表向きは普通の姉妹でいられるように頑張る。けど、これまであんたがしてきたことが、全部なかったことになるなんて思わないで」
それがお姉ちゃんの本心なのだろう。今日一番の快楽が昇って来るけれど、不思議と幸せにはなれなかった。
私は体を震わせながら、虚ろな目でお姉ちゃんをみつめた。でもお姉ちゃんは私ので濡れてしまったシーツをはぎ取ると、私に興味を失ったみたいに、すぐにベッドから降りて部屋の外に向かっていく。
「お姉ちゃん」
声をかけるも、今度はお姉ちゃんは戻って来てくれなかった。私は切なさを忘れたくて、まだ疼いている大切な場所に手を伸ばした。
〇 〇 〇 〇
洗面所でぬるぬるになった手を洗いながら、鏡をみつめる。私の顔は真っ赤になっていた。口元に液体が飛んでいたから、それを指先ですくう。気付けば私はそれを口に含んでいた。
ほんのりと甘かった。……いや、甘かったじゃなくて。
私、何してるの!?
絶対おかしくなってる。妹の、こんなの舐めるなんて。
さっきから胸がドキドキしてるせいだ。私を散々見下してきた千景が私の指であられもない姿をさらしている。そのことへの興奮なのだと思いたかった。けれど「好きだよ」と言われた瞬間、私の心臓はひと際大きく脈動したのだ。
そこから、私はますますおかしくなってしまった。
私は姉であいつは妹だから、そんなわけはないんだけど、あんな蕩けた表情でささやかれた「好きだよ」はまるで恋人に向けられたそれのように感じてしまった。それだけならまだいい。本来ならあの瞬間は「気持ち悪い」と感じるべき瞬間だったのだ。でも私は……。
「なんで、嬉しい、なんて思ってしまったんだろう?」
吐き気がしてきた。理解不能だ。これまで散々虐げられてきたせいで、おかしくなってしまったのだろうか? 本当に最悪。
私は奥歯を噛みしめながら、シーツやタオルを洗濯機に入れた。千景は汗ですっかりびしょ濡れになってしまっているから、お風呂も沸かしてあげないと。
お風呂を洗っている間も、常に疑念が頭の中にあった。そんなわけないって分かってるはずなのに。お姉ちゃんが、妹に恋なんてするはずないって。
でも考えてしまうのだ。
もしもこれが恋じゃないのなら、あの時感じた胸の高鳴りは。
嬉しいという気持ちは、一体何だったのだろう?
お風呂洗いや食器洗いなんて単純作業では、なかなか頭にかかったもやが晴れてくれなかった。だから私は、気が進まないながらも自分の部屋に戻って勉強することにした。
今は千景と少しでも物理的に距離を取っていたかった。でも勉強のための道具をわざわざリビングに持ち運ぶのは、なんだか意識しすぎてるみたいで嫌だった。
いや、現に、私はあいつを嫌というほど意識しているわけだけれど。
椅子に座って勉強机に向き合う。勉強机の正面の壁の向こう側に、千景がいる。千景はきっと今も、余韻に浸っているのだろう。裸のままで。
そう考えるだけで、顔が熱くなってしまう。千景は妹で、私はお姉ちゃんだ。姉妹なのに、……こんなのおかしい。私の気持ちは、絶対にそういうのじゃない。
ため息をついて、テキストを開く。ペンを走らせていると、不意に艶っぽい声が千景の部屋から聞こえてきた。
「おねえちゃ……。お姉ちゃんっ。んんっ……。そこっ。もっとっ」
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